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新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻、米欧で急速に進むインフレーション、中国経済の減速など、今まで想定できなかったような変化が起こっています。
その一方で、金融機関を取り巻くリスクも多様化し、テクノロジーやESG、コンダクトなどに関する新たなリスクへの対応が不可欠となっています。
今回の金融ウェビナーでは、「KKD(経験と勘と度胸)からDD(データドリブン経営)へ」というタイトルを掲げ、日本の金融機関が取るべきリスクマネジメントのあり方について紹介いたしました。
金融機関経営環境は厳しさを増している・チャンスにもなりえる
信用リスク、保険引受リスク、市場リスク、流動性リスクなどの「財務リスク」は、世界経済の先行きが不透明化する中で高まり続けています。変化の幅の大きさもさることながら、特に変化の伝播の速度が加速している点に特徴があります。
「非財務リスク」の領域におけるオペレーショナル・リスクも、新しいテクノロジーの浸透、コロナ禍、ESG要請などにより、よりレベルを引き上げる必要に迫られています。また、気候変動への対応がより一層強く求められるようになる中、ESGへの対応の遅れによるレピュテーションリスクも伝播の速度が早くなっています。
コロナ禍をひとつの契機として少子高齢化・人口減少やDXの速度はますます加速しており、それ以前に作成した想定やシナリオはもはや通用しない時代が来ています。新たなテクノロジーや新規参入プレーヤーは従来の金融機関にとって脅威ではあるものの、リスクマネジメントを他に先駆けて高度化できれば、逆にチャンスにもなりうるでしょう。
キーワードは「ESG」、「テクノロジー」、「コンダクト」
近年顕在化してきており、金融当局からの要請も高まっている新たなリスクとしては、主にESG、テクノロジー、コンダクトという3つのキーワードが挙げられます。
ご存知の通り、ESGは環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものであり、ESGリスクの難しさとしては、信用リスクや風評リスクなどの多様なリスクに直結すること、内容が多種多様で先行きの展開予測が困難であること、データが不十分であること、などが挙げられます。
テクノロジーリスクについては、サイバー攻撃の増加と高度化が進んでいます。アクセンチュアのグローバル調査によると、2020年から2021年のわずか1年で企業が受けるサイバーアタックの件数は31%増加、セキュリティ分野への投資は15%増えていますが、一方で十分なサイバーリスク管理ができていると答えた企業は17%に留まります。2022年はロシアのウクライナ侵攻後に世界的にサイバー攻撃が増えており、この傾向がさらに加速していると見られます。
また、現在は金融サービスがクラウドや外部のアプリケーションと連携することが当たり前になり、外部企業が要因となりオペレーションが停止するリスクも高まっています。BIS(国際決済銀行)も指摘している通り、ハイパースケーラーと呼ばれるような大手テック企業の寡占が進んでいる状況では、問題の影響が金融業界全体に及ぶ可能性もあります。
そして、金融機関が高齢者相手に適合性に欠ける商品を販売したり、租税回避目的の商品を販売するといったコンダクトリスクについても、金融当局から管理を向上する要請が高まっています。金融庁の問題意識として、従来はコンプライアンス部署に任せがちで経営リスクとしての認識が不足していたこと、対応が事後的・形式的・局所的になりがちなこと、細かなルールが蓄積して「コンプライアンス疲れ」が起きていることなどがあげられます。
データ主導のリスクマネジメントは時代の要請
ここまで見てきたように、リスクが多様化・高度化している中、金融機関のトップである経営会議・取締役会においては、収益拡大のために取るべき(許容しうる)リスクの種類と量=トップアペタイトを明確化すること、経営に重大な影響を及ぼしうるトップリスクを把握すること、新興リスクを検討できる体制を構築すること、が基本的な責務として求められています。
そしてトップリスクとして把握した各リスクについては、それらの責任部署、つまりリスクの「オーナー」を特定することも重要です。
1980年代以降、金融機関が「専業・同質型の企業」から「多角化した金融サービスの提供者」へ変化し、複数かつ多様な事業を抱えるように進化してきた中で、CFOやCROの役割も変わってきています。
経営環境の厳しさや変化の加速は困難な状況ではありますが、一方でチャンスと捉えるべき変化もあります。具体例としては、コロナ禍で非対面取引が増えたことでデータの蓄積が進み、データの分析技術も向上しました。結果として、金融機関にとってはデータドリブン経営に舵を切る好機が訪れているのです。
事実、金融庁の「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」(2019年6月)では、ITを活用したリスク管理の事例も示されています。
アクセンチュアにも、「データに基づくオペレーショナル・リスク抑制」の支援を行った事例があります。オペレーショナル・リスクは行政措置やレピュテーション低下を招きかねないものの、人海戦術は効率的とは言えません。そこでアクセンチュアのアセットを活用し、帳票・ファイル単位でリスクの高い領域を効率的に把握できるように。リスクの所在と程度を可視化することで、効率的なリスクマネジメントを可能にしました。
また、アクセンチュアは、経営ダッシュボードを構築し、データを活用した経営判断を可能にすることも提言しています。いわゆるKKD(勘と経験と度胸)に依存した経営判断ではなく、テクノロジーを活用したデータドリブンの経営判断です。
上記の図の左側は従来の一般的な経営判断のあり方ですが、情報がリアルタイムではなく、「報告会」や「反省会」になってしまうケースも少なくありません。
データ基盤と連携した経営ダッシュボードから経営判断に必要な情報を能動的に取得できるようにすることで、経営会議を「今後の経営の方向性やアクションを決める場」にすることが重要です。
さらに、アクセンチュアは「AIを活用した企業価値向上のシステム」として、クラウドベースのAIソリューション「AI Powered Enterprise Value Cockpit」を提供しています。これにより、ESGの取り組みが企業価値にどのようなインパクトをもたらすのかを分析・予測し、自社のESG対応を改善して企業価値を高めることが可能になります。
いかに組織を強靭化するか
リスクの変化の幅や伝播速度が増している中で、組織の強靭化も喫緊の課題となっています。リスクマネジメントにおいても、これまでのやり方を守るだけではなく変化に即応し、新たなリスクを直視し、対応策を改善していくことが重要です。
そのために特に重要なことは、オープンな情報共有、リスクを早期発見するための報連相、失敗から学ぶことです。
これまでのやり方や意識を変えるのは難しいチャレンジではありますが、金融機関でリスクマネジメントに携わってきた方々は、データの扱いに長けており、データドリブン経営の実現に大きく貢献できるはずです。
アクセンチュアが金融機関のデータドリブン経営実現を支援した例として、「データ・ドリブン・リスク・マネジメント」という将来ビジョンを掲げた、欧州銀行の変革事例があります。
ここでの要点は、まず判断の拠り所としてのデータベースを中央に置き、経営陣が経営判断に必要な情報をダッシュボードで発信したこと。多数のソリューションを使いこなすエコシステムを構築したこと。規制当局の変化・デジタルにも連動して対応できること。顧客にフォーカスしたデータ活用のために人員を投入したこと、です。
金融機関を取り巻く状況が大きく変化し、新たなリスクも出現している中、持続的な成長を果たすためには、データやAIを活用して効率的にリスクを見極め、企業価値の向上を図っていくことが肝要です。
リスクに対処できる組織強靭化の鍵は、なんといっても人材です。情報やデータを操る力を持つリスク管理人材には、データの集計役に留まらない活躍が期待されます。
今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。