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第1回 金融ウェビナー

日本の金融機関は現在、RPAやAIといった新たなテクノロジーの導入・活用を積極的に進めています。しかしデジタル変革においては、海外先進金融機関に遅れをとっています。テクノロジー投資から最大限の効果を得るためには、生産性・ビジネスプロセス・人材という3つの重要分野で海外の先進事例から学べることがあると考えています。

生産性

RPAやAIなどインテリジェント・テクノロジーの市場は、世界的に年間約30%という急速なペースで成長を遂げています。こうしたトレンドは、RPAやAIの活用がビジネスの様々な分野で進んでいることの反映でしょう(下図参照)。ただ日本の金融機関は、いくつかの重要な点で海外先進機関に遅れをとっており、長期的な競争力を強化するために取り組みの加速が求められています。

金融機関におけるAI活用余地 - 銀行
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こうした現状は、例えば経営の効率性を示すCIR(Cost-Income-Ratio = 費用収益比率)というかたちで表れています。アクセンチュアが2016年に行った調査によると、デジタル変革を積極的に進めている海外先進金融機関のCIRが48%程度なのに対し、日本の大手銀行では65%と大きな差が見られます。

テクノロジー変革へ積極的に取り組む「デジタル・ネイティブ」な先進金融機関は、ある共通した特徴を備えています。それは新たなテクノロジーの活用を、目先のコスト削減だけでなく中長期的な経営効率の向上や収益拡大につなげていることです。こうした要因はいずれも生産性向上に向けた取り組みに欠かせないものですが、日本の金融機関には究極的な目標である収益向上よりも、目先のコスト削減に重きを置く傾向が見られます。

業務プロセス

日本の金融機関でよく見られるもう1つの課題は、テクノロジーを既存の体制や業務プロセスの枠組みの中で活用している点にあります。取り組みの初期段階でこうしたアプローチを用いるのは決して間違いではありません。しかしコスト50%削減、あるいは経営効率の60%向上など思い切った目標を掲げる場合、達成はかなり困難になると言わざるを得ません。大幅な効率性向上を目指すためには、「ゼロベース」で業務プロセスを再構築することが求められているのです(下図参照)。

ゼロベースでの業務プロセス再構築
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ここで留意していただきたいのは、「ゼロベースの再構築」といってもデジタル組織に必要なパーツを全て新たに用意する必要はないという点です。テクノロジーが急速な進化を遂げる今、そのポテンシャルを活用するために最も有効な方法は、スマートフォンやタブレットなどの既存デジタルツールを可能な限り活用し尽くすことです。

デジタル変革のために重要なのはデータ収集そのもので、収集の手段ではありません。すでに普及が進み、ユーザーが操作に慣れた既存ツールを活用すればするほど、スピーディーかつスムーズなシステム構築が可能となります。顧客接点業務だけでなく、社内プロセスなどその他の分野でもこうしたアプローチを並行して活用すれば、さらに大きな効果が期待できます。

新たなテクノロジーの導入手順としては、まずPOC(Proof of Concept = コンセプト実証)を行い、その次に部門・部署レベルで試験導入。そして最後に全社レベルの導入を実施するという段階的アプローチが最も望ましいでしょう。

「人」の重要性

テクノロジー導入プロセスの中で大きな鍵を握るのは、2番目に挙げた部門・部署レベルでの試験導入です。対象部門・部署を選択する際にとりわけ重要な基準となるのは、トップから現場まで協力的でやる気があること、そして新たなテクノロジーの活用をつうじて仕事を変えるという気構えがあることでしょう。今の時代にも、変革を進める際に「人」が重要となることは変わらないのです。

またデジタル変革の推進を担う人材の資質も大きく成否を左右します。最新テクノロジーに精通し、CoE(Center of Excellence = センター・オブ・エクセレンス)の構築をつうじて業務改革を牽引できる能力が必要なことは言うまでもありません。さらに重要な資質となるのは、自社ビジネスを深く理解していることです。

AIやRPAといった最新テクノロジーに関する知識も、自社ビジネスの文脈で活用ポテンシャルを考える力がなければ意味がありません。デジタル組織を構築する最大の目的は、ビジネス体制を改革し、業務効率の向上や収益拡大といった目に見える結果につなげることでしょう。テクノロジーの専門知識よりも自社ビジネスの理解が優先されるのはそのためです。日本の金融機関がともすれば見落としがちなこの考え方は、今後さらに重要となるでしょう。

真の生産性向上とは何か?業務プロセス再構築の鍵を握るポイントとは?デジタル変革に求められる人材とは?私が担当したウェビナーでは、こうしたポイントについてさらに詳しく解説しています。