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ChatGPTの登場以降、ビジネスにおける生成AIの活用が急速に進んでいます。
金融業界での生成AIの注目度は非常に高く、アクセンチュアが2023年6月の金融ウェビナーにて生成AIの活用事例を紹介したところ、大きな反響をいただきました。「今後も生成AIの情報をアップデートしてほしい」という多くのご要望を受け、第67回目となる金融ウェビナーでは再び生成AIをテーマに取り上げました。
現在、金融業界ではどのように生成AIが活用されているのか。銀行・証券・保険の各領域ではどのような動きが見られるのか。今回のウェビナーでは生成AI活用の最前線を知る有識者たちが解説を行いました。本レポートと併せてオンデマンドの動画版もぜひご覧ください。
ビジネスにおける生成AI活用の現在地
2023年は生成AIの実証実験が盛んに行われ、いわば「生成AIのお試し利用」とも呼べる期間でしたが、2024年はビジネス適用の本格的な検討が進む年になりました。2024年以降は、実証実験の時期を脱却し、生成AI主導の長期的成功を目指す時期になります。
ビジネス適用の内容をもう少し詳しく見ると、「No regrets(後悔しない)」――つまり生産性向上や顧客体験向上といった領域での本格適用は既に多くの企業が着手しています。
一方で「Strategic Bets (戦略的な賭け)」――つまり生成AIによる抜本的な業務変革にまで踏み込む企業は、まだ多いとはいえませんが、着実に現れつつあります。生成AIを活用した業務変革の文脈では、企業ごとの取り組みの差が出始めている状況です。
生成AIが現場スタッフの能力を底上げするものであることは既に多くの方がご存知かと思います。例えば、過去の金融ウェビナーでも活用事例としてご紹介したように、アクセンチュアでは生成AIを社員の「バディ」として活用することで社員の能力引き上げを実現しています。
ただし、生成AIは現場のスタッフだけでなく、経営にもインパクトを与える「バディ」になりうるものです。現実世界のCxOの能力をデジタル世界に拡張させることでCxOの「デジタルツイン」を構築し、圧倒的なデータ量をもとに経営の意思決定を支援することが可能になります。
相談したいタイミングでAI CxOを即座に召喚し、戦略オプションと実行計画を外的・客観的観点からレビューしてもらい、動的に軌道修正・調整しながら意思決定を行う。そのようなことが既に始まっています。
なお、アクセンチュアはAI主導による全面的な変革を支援する共創拠点として「アクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都」を2024年11月に開設。AIセンターでは世界先端のAIとの対話を通じて変革の着想を得ることが可能です。AIを中心とした変革にご興味をお持ちの方はぜひお問い合わせください。
金融の各業界における生成AI活用の動向と展望
ここからは銀行、証券、保険それぞれの業界における生成AI活用の現在地を見ていきます。
銀行領域
まず銀行領域全体の傾向として、バックオフィスでの取り組みが先行しつつも、全行レベルでの取り組みも検討が進んでいます。
生成AI活用のテーマ例としては、音声データによるコンプライアンスのチェック、融資稟議の業務支援、企画書の作成支援や営業支援などが挙げられます。
ここでのポイントは、「人間にしかできない」と思われていた業務に対して生成AIが適用可能になったことです。過去にブルーカラーの仕事が機械で置き換えられたように、ホワイトカラーの仕事の多くも生成AIで代替可能になります。人間はより付加価値の高い業務に携わるようになるでしょう。
こうした生成AI活用において重要なことは、予め計画を描き、全体的な視点を持って推進していくことです。いずれ多数のAIが濫立して制御不可能という状況に陥らないよう、AIを適切に管理し、状況に応じて拡張可能なプラットフォームが必要になります。
証券領域
次に証券業界の動向を見ていきます。
国内ではAIチャットボットによる情報検索の高度化、文書作成・チェックの効率化、音声コンプライアンスチェクなど、「業務効率化」の文脈で生成AI活用が進み、一定の効果が得られています。ただし、トップライン向上に向けたAI活用はまだ少数です。
一方のグローバル企業では様相が逆転し、むしろトップライン向上を目指した生成AIの活用が進んでいます。注目すべき点としては、生成AIの単独活用にとどまらず、従来の機械学習などを組み合わせて業務を総合的に支援する取り組みが行われています。
上記は証券業界で今後取り組むべき領域をまとめたスライドです。顧客と直接会話するAIエージェント、セールスバディAI、ファンドマネージャーへのAIサポートなどのテーマが考えられますが、こうした取り組みを進めるためにはスライドの右側にあるような障壁を乗り越える必要があります。
具体的には、抜本的な業務変革、生成AI基盤の構築、AIと協働するためのリテラシー教育、AI活用のガバナンス構築、外部データ提供先とのデータサプライチェーン構築などの課題が挙げられます。生成AIを活用してトップライン向上を実現するには、これらの変革も併せて実施することが求められます。
保険領域
保険業界では他の業界と比べて早い段階から生成AIのPoCを行う企業が多く、AI活用の機運が高い傾向がありました。
しかし最近の動向としては、生成AI活用に取り組んだものの期待したような効果が得られず、いったん立ち止まる動きも起きています。3〜5年後を見据えて、改めて戦略を考えようというトレンドが見られます。
上記のスライドでは、横軸を業務の「自動化」、縦軸を「強化」の方向性で分けて、生成AI活用の注力テーマを整理しています。就業者数も考慮すると、生成AI活用で労働時間短縮が可能な「バックオフィス」と、能力強化が可能な「保険販売代理人」のふたつが注力ターゲットになりえます。
グローバルの保険企業では生成AIを活用した請求・支払業務の高度化・効率化の事例が出てきていますが、日本国内ではまだ検討段階にあり、グローバル企業に遅れを取っている面があるのは事実です。
ですが、まだ少数とはいえ、日本国内ではカスタマーフロント領域での生成AI活用が始まっています。データを活用して顧客とのコミュニケーションを支援するAIアシスタントに対するニーズは多く、これから取り組みが活性化してくる可能性があります。
本質的な生成AI活用のため、乗り越えるべき壁とは
ここまで見てきたように、生成AI活用については保険業界が先行しつつも、日本の金融業界全体の傾向としては業務効率化がメインとなっており、金融業界ならではの本質的な生成AI活用はまだそれほど進んでいない状況です。
今後、日本企業が生成AIを使いこなして業務変革を実現する上ではいくつか特有の課題が存在します。例えば、既存のレガシーシステムという技術的負債、業務変革の危機感、人手不足、経営へのコミット、ガバナンスの担保などが挙げられます。
こうした課題を乗り越えるためには、生成AI自体を課題解決に活用しながら、生成AIを導入していくというプロセスが必要になるでしょう。
さて、ここまで金融業界における生成AI活用の現在地や、今後の展望を紹介してまいりました。本記事ではサマリーをお伝えしましたが、オンデマンドで視聴可能なウェビナーでは、実際の事例や、より詳細な内容も解説しています。ハンズオン資料のご提供ほか、豊富な図版を交えた説明、視聴者からのQ&Aを含む約60分の映像コンテンツとなっておりますので、ぜひご視聴ください。
今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。本記事の内容は、オンデマンド視聴可能なウェビナーでより詳しく紹介しております。ハンズオン資料のご提供ほか、豊富な図版を交えた説明、視聴者からのQ&Aを含む約60分の映像コンテンツとなっておりますので、ぜひご視聴ください。
アクセンチュア金融サービス本部ウェビナー第67回のご視聴はこちら。