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資産管理業界は、近年の資産運用への関心の高まりから、受託財産が急激に増加。また、オルタナティブ投資へのニーズの高まりから、取扱商品も多様化しています。
業界全体が活況に沸く一方で、人手に頼っていた業務オペレーションは限界に近づきつつあり、継続性の観点で課題が顕在化しつつあります。資産管理にかかるニーズは今後も大きくなることが予想されるため、将来の安定的な成長を支えるためにも、抜本的な対応を検討すべき時期に来ています。
本稿では、活用が進んでいる業務オーケストレーション機能や、生成AIによる効率化の具体例も紹介しつつ、対応のアプローチについて考察を行いました。本稿が変革に向けた対応のきっかけとなれば幸いです。
1. 個人の資産運用への関心の高まりと金融商品の多様性拡大
資産運用立国の実現に向けた政府主導の取り組みにより、資産運用に関心を持つ人が増加しています。新NISA、iDeCo(個人型確定拠出年金)、企業型DC(確定拠出年金)などの制度を活用して、個人で株式や投資信託を購入する人が増えています。投資信託(公募+私募)の純資産額は2023年までの過去10年間で2倍以上に増加し、特に2024年は新NISAの開始に伴い、公募投資信託への資金流入が過去最大の約18兆円になる見込みです(図1:受託財産の増加)。
また、伝統的な金融資産(株式、債券など)だけでなく、運用対象の多様化の要請を受けてオルタナティブ投資(未上場株、不動産、インフラなど)への注目も高まっています。従来は機関投資家向けの商品でしたが、近年では個人向けの商品も発売されるようになりました。こうした商品の多様化は、個人投資家にとって魅力的な選択肢が増えることにつながり、業界全体の活性化に寄与しています。
2. 資産運用・管理業務の高度化の必要性
伝統的な金融商品の取引ボリュームの急激な増加、オルタナティブ資産などの新たな金融商品による商品バリエーションの増加及び運用管理の高度化を受けて、資産管理業務の現場は大きな変革の時を迎えています。多くの事務オペレーションは人手を前提とした業務プロセスを維持しており、複雑化し続ける業務や属人化した旧来の業務などの現場課題を抱えて、単純に事務オペレーターを増やせば解決するという問題ではなくなってきています。さらに、近年の人件費高騰と働き手の減少により、将来にわたり安定的に収益を得るための事業基盤の継続に懸念を持つ経営者も多いと考えられます。近年、注目されている生成AIを活用し効率化に向けた取り組みも進んでいますが、抜本的な解決には至っていないのではないでしょうか。原因としては、現状業務に立脚し生成AIの適応個所を見つけようとしても、細かな業務改善のユースケースにしか発想が及ばず、効果も限定的となってしまう例が多いためだと考えます。例えば、よくあるユースケースとしては、業務手順書やメモなどを生成AIに取り込み、文書検索機能として利用するケースが挙げられますが、インプットとなる手順書や業務メモなどの情報自体が断片的であったり、記載自体が陳腐化していたりすると、正しい回答を得にくくなります。また、熟練者のメモ書きなど、インプット情報そのものが情報精度を低下させるため、解決に向けてかなりの手間が発生します。急がば回れで、まずは良質なインプット(網羅性のあるマニュアル、一貫性のある業務フローなど)を整備することが肝要です。
3. 高度化に向けたアプローチ
本章では、事務オペレーションの高度化に向けた抜本的な解決アプローチについて触れていきます。
3-1: 業務プロセスの可視化+標準化
複雑化した現行業務プロセスを、明確な表現と具体例を用いて徹底的に文書化します。曖昧な業務目的がないか、条件分岐が存在しないか、暗黙知化している点がないかなどの観点で、現状の手順を見直し整備することで、業務のルールを明確にし、標準化できる領域を探し出します。 また、どの業務に時間が割かれているかを見つけ出すことも重要です。複数の業務プロセスで共通的に利用される機能は、自動化による効率化の恩恵を受けることができます。本作業は時間と手間がかかるかもしれませんが、現状を整理し、抜本的な効率化を達成するためには絶対に必要な作業です。
3-2:業務フローを制御するオーケストレーション機能
旧来型の業務フローは、部門や役割分担ごとにプロセスが分断され、人手による連携が必要なフローが一般的であり、連携のコミュニケーションはメールや紙が中心となっています。TOBEの業務フローとしてイメージすべきは、生産ラインのように管理され、プロセスの自動化・最適化に重点を置いた業務フローです。オーケストレーション機能により全体業務フローが統制され、オペレーターや顧客とのコミュニケーションは高度化されたメールやチャットを活用することが望ましいと考えます。業務フローを制御するオーケストレーション機能には、以下の6つの主要な機能があります。
1.ビジネスルール定義:可視化された業務プロセスごとの業務手続きに合わせて、タスク処理ごとのルールを整備し管理します。
2.ワークフロー管理:業務プロセスのつながりを管理し、ビジネスイベントの優先順位付けと処理タスクへの割り当てを管理します。
3.プロセス処理の自動化:さまざまな外部の自動化ツールやSaaSサービスと接続し、業務の自動化を促進します。
4.コミュニケーション:オペレーターとの連携や、社外の顧客とのメールやチャットによる連携を業務プロセスへ統合します。
5.業務状況の可視化:業務の進捗状況や各プロセス処理にかかった時間などを可視化します。また、継続的な業務改善を実現するための基礎情報を蓄積します。
3-3: 業務フローと生成AIの融合
生成AIは、文章生成(新規・書換・翻訳・要約・添削・校閲)、情報収集、分析などの機能を提供しますが、前述のオーケストレーション機能と合わせて利用することでより高い効果を得ることができます。業務フローと連動することで、生成AIは、担当オペレーターの業務処理ステータスと取り扱う情報を前提に文章生成、情報収集、分析を行うことができます。フロー内で発生した業務処理結果を制御することで、生成AIに対して適切なプロンプトを自動で作り出すことができます。これにより、人間が逐一プロンプトを工夫する必要がなく、詳細なプロンプト制御に頭を悩ませずに済むようになります。例外処理が発生した際の情報状況のサマリ作成と報告、顧客に対して確認すべき事象が発生した際のメール文面の作成サポート、受信したメールの内容確認と必要な情報の切り分け、業務フローにおけるタスクの分析や進捗状況のサマリ分析など、様々な業務シチュエーションでの有効的な活用が期待できます。
4. 実用例
業務フローと生成AIの融合によって高い効果を上げている実用例を2つ紹介します。AMBOT(図2:業務最適化例 業務フローのオーケストレーション機能 参照)は、証券会社のバックオフィス業務の標準業務フローを有しており、業務のSTP化を支援する弊社のソリューションです。
フロントからの取引情報を基に、最終的な決済までの一連の業務プロセス全体を管理することができます。各プロセスはルール化され自動化されているため、業務オペレーターは例外が発生した際に介入するだけで良いように設計されています。また、機関投資家との頻繁なメールでのやり取りを支援するために、メール作成機能や受信メールの取り込み機能を提供しています。
金融犯罪対策領域におけるKYC業務においては(図2:業務最適化例業務フローと生成AIの融合参照)、継続的に発生するKYCレビューの負荷を軽減するためのソリューションを提供しています。メールによるやり取りのサポートだけでなく、顧客企業が発行するアニュアルレポートなどの取り込みと情報分析、必要情報のアップデートなどもサポートしています。また、業務フローを進めるうえで生成AIを組み込んだチャットボットがフローの推進をガイドしてくれるため、担当者はアプリケーションの詳細な利用手順を理解せずとも、チャットベースで業務オペレーションを実施することができます。いずれの事例も非常に高い導入効果を上げています。また、業務効率を上げるだけでなく、オペレーションミスをなくし、業務オペレーション全体の品質向上にも寄与しています。
5. 最後に
資産管理業界は日々の業務量の増加に加え、多様化する商品ラインナップに対応する必要があります。人力に依存しない業務運営の検討は業務継続の観点から非常に重要であると考えます。本稿で紹介したアプローチが今後の根本的な課題解決の手がかりとなれば幸いです。
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