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今回のアクセンチュア金融ウェビナーのテーマは、5月28日に一般開業した日本初のデジタルバンクにして、世界で初めてバンキングのコアシステムをフルクラウドで構築したみんなの銀行です。みんなの銀行がなぜ誕生し、どのように構築されたのか。日本でデジタルバンクを設立する意義や、なぜフルクラウドを選んだのかなどについて、みんなの銀行 取締役頭取 横田 浩二様と取締役副頭取 永吉 健一様のお二人をゲストにお招きし、ご解説いただきました。
FFGの「2wayアプローチ」
ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)は福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行をグループに持ち、九州を主な営業基盤として展開している国内最大の地銀グループです。経済産業省が発表している「DX注目銘柄」においても、2020年に地銀で唯一選出されるなど、日本を代表するイノベーティブな金融機関と言っても過言ではありません。
FFGではDXのステップを3段階とし、1.既存事業のデジタイゼーション(ペーパーレス化など、アナログな業務をデジタルで扱えるようにする)、2.デジタライゼーション(データ利活用により、ビジネスや業務全体の効率化を図る)、3.デジタルトランスフォーメーション(新規事業や業務変革を実行する)を推進しています。
また、既存の各銀行の業務の高度化・デジタル化と同時並行で、店舗(リアルチャネル)を持たないデジタルバンクを新設して銀行ビジネスモデルそのものをゼロベースでリデザインするという「2wayアプローチ」に取り組んでいます。
みんなの銀行のコンセプトや事業ドメイン、体験したユーザーの声
みんなの銀行の営業エリアは全国、ターゲットはマーケティング領域でY世代やZ世代と呼ばれるデジタルネイティブ世代です。10年後、日本の人口動態の60%はデジタルネイティブ世代となることから、この世代をメインの顧客層とするデジタルバンクのいち早い創設を考えていたことが設立の背景にあります。今までにない銀行を実現するために、みんなの銀行のサービスコンセプトは次の3つとしています。
1. みんなの『声』がカタチになる
2. みんなの『いちばん』を届ける
3. みんなの『暮らし』に溶け込む
デジタルバンクと既存のインターネット専業銀行の決定的な差は、提供価値への考え方の違いにあります。みんなの銀行を特徴づけるキーワードは2つ。第1に、データドリブン。第2に、コネクティビティ(つながり)。オープンバンキングを掲げるみんなの銀行では、APIでパートナー企業やプラットフォームと接続して金融サービスを提供します。生活者(消費者)は非金融サービスに組み込まれた金融機能を利用することで、モノの購入や支払いをシームレスに行うことができ、顧客体験が大幅に刷新されます。データも活用することで、個々の顧客へパーソナライズしたサービスの提供も可能になります。
実際にみんなの銀行を体験したユーザーは次のようにコメントしています。
- l SNSのようにカジュアルに付き合える。銀行と自分の関係がフレンドリーになった
- l スマホが財布になる。財布を持ち歩かなくてもいい
- l 現金、デビットカード、電子決済、家計簿などの機能がまとまっていて、とても便利。目的別の貯金をサポートする機能などもあり、お金との向き合い方が変わった
- l 口座開設はアプリで完結。紙の手続きが不要。カードも通帳も要らない
- l サービス情報もSNSで発信してくれる。ユーザーを「みんな」として捉えていて、フィードバックしたら改善してもらえそうな期待ができる。つまり、一緒に銀行サービスを作っている感覚を持てるのが今っぽい
こうしたB2C事業のほか、非金融企業へ提供する金融機能サービス、Banking as a Service(BaaS)事業もドメインに含まれています。みんなの銀行は金融機能をマイクロサービス単位にしており、API経由でパートナー企業へ提供可能となっています。さまざまなサービス価値向上を目指すことで、フリクション(摩擦)をゼロにしていくことが狙いです。
あらゆる領域で前例なき挑戦がなされたプロジェクト
このような顧客体験を実現するにはアジリティやスケーラビリティが必要であるため、システムやオペレーションのすべてをパブリッククラウド上に展開することが望ましいと考えられました。しかし、コアバンキングシステムをフルクラウドで実現した前例は世界のどこにもありません。「ないならば、自ら作るほかない」との判断のもと、みんなの銀行は世界初となるコアバンキングシステムのフルクラウドでの構築に取り組まれました。(下図)
クラウドで構築された利点は、サービスのAPI連携だけでなく、アクセスが集中したときでも自動でスケールしてキャパシティを柔軟に変化させられることや、アプリに発生した不具合もサービスを停止することなく改修でき、無停止で本番環境へ反映できるなど、オンプレミスのシステムでは不可能なスピード感を実現している点です。さらに稼働状況が一目でわかるモニタリングもできるため、経営層はビジネス状況をリアルタイムに把握できます。
みんなの銀行は、銀行が立ち上げたデジタルビジネスというよりも、実態としては「デジタル企業が銀行ビジネスに着手した」というような表現が実態に則しています。みんなの銀行のアーキテクチャのポイントは4つあります。
1. すべてをクラウドにする
2. オートメーション銀行
3 アーキテクチャ組込済みセキュリティ
4. 「銀行」から解放された基幹系
みんなの銀行は経営の視点でもテクノロジー以外に3つのアドバンテージを持っています。
1. 顧客向けサービスに直結する開発が継続できる
2. 予算の組み方が全く異なり、イノベーション投資(バリューアップ投資)の比率を高められる
3. 経営から見たスピードアップを実現
また、みんなの銀行は、マーケティングやプロモーションにおいても、マスメディアではなくソーシャルメディアを重点的に選択しています。世の中に初めて登場するサービスは、いくら口で説明しても、なかなか理解されません。有効なのは実際の利用者に体験した内容を発信してもらうことです。説明ではなく共感によってアピールするには、ソーシャルメディアは打って付けの媒体です。マス向け広告を「面」、ターゲティング広告を「点」とすると、ソーシャルメディアは「メッシュ」だと言えます。
ソーシャルメディアによって、「こんな使い方ができる」「これは便利だ」といった声が広まることで相乗効果を持って拡散できます。これが功を奏して、開業初日から想定を超える口座開設の申し込みがありました。もちろん、想定以上のアクセス負荷にもスケーラブルな仕組みによって、パフォーマンスを落とすことはありませんでした。
銀行らしくない銀行の正体は「デジタルカンパニー」
世界初の試みを含む短期間での新銀行設立という高いハードルに加え、コロナ禍がプロジェクトを直撃しました。しかしプロジェクト現場ではすでに、関係者全員が一体となったワンチームの運営体制が確立され、メンバー同士の良好な人間関係ができていました。これがリモートワーク移行後もスピード感を損なうことなく開発を継続できた要因です。これはまた、アクセンチュアがパートナーとしてプロジェクトにコミットし、エンド・ツー・エンドでサービス提供してきたことの成果でもあります。
みんなの銀行は、組織や人材の面でも多様性のあるデジタルカンパニーです。従業員の7割が銀行業界の外部から来た異業種からの入社、全体の3分の1がエンジニアリングに携わる人材であり、人材構成も伝統的な銀行からかけ離れています。
こうした点も含め、みんなの銀行では“志”が定義されています。Valueではそれらの特徴として「銀行らしさ」からの脱却、「ユニーク」へのこだわり、「信じて、頼られる」といった共通の価値観を掲げています。
そして同行のミッションである「みんなに価値あるつながりを。」の実現を目指しているからこそ、従業員として集まった人材も、顧客も、パートナー企業も、そしてアクセンチュアもみんなの銀行に引き寄せられているのだと考えられます。
本ウェビナーでは、みんなの銀行の発足の経緯や特徴、デジタルバンクの取り組みの最前線やDXの具体事例を当事者が説明しています。