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新型コロナウイルスにより世界的な社会変化が起きた中、保険分野ではどのようなイノベーションが生まれたのでしょうか。今回の金融ウェビナーでは、保険イノベーションを表彰する「Efma-Accenture Innovation in Insurance Awards」の2021年の受賞企業が紹介されました。

コロナ禍で生まれた保険イノベーションとは。イノベーションアワード受賞企業から見る最新トレンド

アクセンチュアは、130カ国120以上の金融グループが参加するグローバルな非営利組織Efmaとの共催で、グローバルでの保険産業におけるイノベーションの促進を目的としたコンペティション「Innovation in Insurance Award」を毎年開催しています。2021年のアワードには55カ国、460のイノベーション、289の企業・団体が応募し、アクセンチュアはこれらの応募内容から保険イノベーションの最新トレンドも分析しました。

今回のウェビナーでは、アワードの受賞企業と保険イノベーションのトレンド、そして保険会社が取るべき次の一歩について語られました。

「Global Innovator」最優秀賞は全社的な変革に取り組んだGenerali

もっとも革新的な保険会社を選出する「Global Innovator」部門では、イタリアのGeneraliが最優秀賞のゴールドを受賞。シルバー(2位)は南アフリカのDiscovery、ブロンズ(3位)には中国の中国人寿保険(Chine Life)が名を連ねました。

Generaliの受賞理由としては、新型コロナウイルスの影響下における社会課題の解決に加え、それを生み出す全社的なイノベーションカルチャーへの変革が評価されました。同社はデジタルビジョン「Innovation Everywhere for Everyone」を掲げ、顧客、代理店、従業員といったすべての人(Everyone)にエクスペリエンスを提供することを目指しています。また、リテール分野の事業基盤をデジタルで強化する「Life-time Partner」を基本戦略とし、190年の歴史を生かしながらもデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のため全社的なカルチャー変革「WeInnovation」に取り組みました。

振り返ると、Generaliは2012年に純利益の大幅減損を記録し、以来3年単位で変革に取り組んできたという背景があります。2013年から2015年にかけては財務体質の変革、2016年から2018年はデジタルによるビジネスモデル変革、そして2019年から2021年はイノベーションへのチャレンジと位置づけ、新型コロナウイルスによる影響は見られたものの、着実な回復と変革を成し遂げてきました。

とりわけ顧客のライフタイムパートナーとなるためにGeneraliが代理店と一体となって推進したデジタル変革は注目すべき点です。データによりパーソナライズされた商品提案、IoTを活用したサービス提供、すべてのタッチポイントで同一の顧客体験の提供など、一つひとつは当たり前のようにも見える取り組みですが、ヨーロッパ全域で着実に実行してきたことが受賞の大きなポイントでした。

なお、シルバーのDiscoveryは健康増進プログラム「Vitality」に加えて他の保険領域にもイノベーションを拡大したこと、ブロンズの中国人寿保険はAI活用により貧困層の課題解決に寄与したことやあらゆる業務領域でAIを活用しスケールしていることが評価されました。

保険イノベーションのトレンドには新型コロナウイルスの影響も

今回のアワードのノミネート企業を分析し、アクセンチュアは保険イノベーションの最新トレンドを6つに分類しました。ひとつめのトレンドは「すべての人にデジタルを」。新型コロナウイルスの影響により、デジタル化はタイムマシン的に急加速しました。デジタル化されてこなかった人々やサービスが成長ドライバーのひとつになっている傾向が見られます。

2つ目のトレンドは「AI@スケール」。すべてのバリューチェーンでAIがコアのトレンドとなっています。AIを活用して保険金の支払い処理を行うアクサの例のように、AIの活用は今や前提とさえ言えます。

そして3つ目のトレンドは「社会DXの担い手」です。三井住友海上のデータサービス事業「RisTech」は、業種を問わず顧客企業やパートナー企業とデータエコシステムを形成し、活用するサービスです。保険という分野を超えて、多様なパートナーと社会DXを推進することが今後のキーになるでしょう。

2021年のアワードにおいては、やはり新型コロナウイルスの影響が見られ、フィジカルとデジタルを融合させた「フィジタル ウェルネス」もトレンドに挙げられます。Generaliの福利厚生プラットフォーム「Staiwel」のように、医療機関と連携しながらエンド・トゥ・エンドでヘルス&ウェルネスサービスを提供することがトレンドになっています。

一方、リモートワークにより従業員同士のつながりが希薄化する中で、従業員同士のコラボレーションとデジタル変革に向けたリカレント教育を促進する「コラボレーション&デジタルリカレント」もトレンドです。例として、Bajaj Allianzの学習プラットフォーム「SkillSity」は、最先端のAIによるパーソナライズされた学習コンテンツの提供を行います。

また、ポストコロナの時代では「グリーン」に着目したイノベーションも増加すると見られ、「グリーン×デジタル」も重要なトレンドのひとつです。本トレンドの例としては、電気自動車への乗り換えを支援する初の自動車保険であるBaloiseの「Drive Electric」、AIの活用でビルの持続可能性とコスト削減を実現するGenerali Germanyの「AI Meets sustainability」が挙げられます。

デジタルを前提に、保険会社が取るべき次の一歩とは

「保険×デジタル」の動きが生まれてきたのは2013年頃であり、2015年には「Efma-Accenture Innovation in Insurance Awards」が発足しました。当時はPoC的な応募が多く、本アワードにおいても実証実験的な内容が受賞することが珍しくありませんでしたが、現在の応募内容を見ると、もはやデジタルは当たり前となっており、スケールも拡大しています。しかも、この変化は5〜6年の間に起こったものです。この先の数年ではさらに大きな変化が起こると予想されます。

そこでアクセンチュアは、保険会社が取るべき次なる一歩として8つのテーマを選出しました。「戦略的レジリエンス+ポストコロナの成長戦略」は、英語では「Re-Imaging」。つまり保険会社のあり方を改めて描き、外部と柔軟につながっていくということを伝えています。「デジタル・アタッカーズ・モデル」は、従来の伝統的なサービスだけでなく、特定業界に特化したサービスをクイックに提供すること。「エコシステム・マーケットプレイスの構築」は、2021年の最優秀企業のDiscoveryのようにIoTを活用したマーケットプレイスを構築すること。さらに、川上から川下までを含めた「オファリングの再創造」。企業の存在意義を一言で表現できるように再設定する「パーパスの再設定/ブランド強化」。スケールするほどに賢くなるというAIの性質を考慮し、複数の業務を交差して大きな価値を生む「AI@スケール」。将来的に人件費が上がっていくと予測される中で業務を変革する「将来のコストカーブを見据えたオペレーション&テクロノジー変革」。そして「ワークフォースの再構築」は、日本でもジョブ型雇用が注目されるように仕事において期待される内容が変化していく中で、人材の獲得と育成を改めて考える必要があることを示しています。

アクセンチュアは、デジタルが日常生活や企業活動に完全に浸透したポスト・デジタル時代を「Digital is Everywhere」と呼んでいます。特に現在の20代、30代は生まれた頃からデジタルが存在しており、保険会社のタッチポイントがデジタルを意識したものになっていなければ、自然と壁を感じる存在になってしまいます。柔軟性を持って変化することが、今後の保険イノベーションにとってスタートラインになると言えるでしょう。

さて、今回のウェビナーでは「Global Innovator」以外にも6つの部門における受賞企業やトレンドの詳細も紹介されました。