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パンデミックを機に生活者の価値観が想像以上のスピードで変化するにつれて、企業に求められるものも変わりつつあります。もちろん金融業界も例外ではありません。そこで今回の金融ウェビナーは少々視点を変え、企業の存在価値や社会への提供価値を意味する「パーパス」をテーマに取り上げました。
ウェビナーに登壇したのは、顧客体験を起点としたビジネス変革を支援するアクセンチュア インタラクティブの最高戦略責任者である内永太洋、そしてマネジング・ディレクターの久保千明の2名。自身も事業家としての経験を持つ内永と、金融業界を中心にコンサルティングを行ってきた久保が、それぞれの視点からパーパス起点の企業変革について語りました。
なぜ今、パーパスが重要視されるのか
パーパスという言葉を耳にすることが増えてきた昨今。なぜパーパスに注目が集まっているのでしょうか。その背景には、生活者の求める顧客体験が変化している状況があります。特に新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックを経て、生活者のニーズは急激に変化しました。
また近年、各企業においてCX(Customer Experience)投資と最適化が進んだことで競合差別化が難しくなり、世の中には似通ったCXが溢れることに。「顧客体験」や「CX」というキーワードで何らかの取り組みを行っている企業は少なくありませんが、その多くは従来の製品・サービス周辺のタッチポイントの最適化に留まっておりビジネス成果も限定的です。事実、CX投資の成長率の鈍化、CXスコアの頭打ち、体験の横並び化といった具体的な障壁も顕在化してきています。
いまの生活者が求めていることは、製品やサービスの質の高さだけでなく、社会に対する企業の姿勢やパーパスが明確に体現されることです。アクセンチュアによる調査の結果でも、多くの生活者がCXとパーパスを同じくらい重要だと考えていること、社会的意義でブランドを選択すること、また業績が伸びている企業はパーパスの重要性を認識していることなどが明確に現れています。
パーパスを起点に企業活動全体を変革するBX
アクセンチュア インタラクティブでは、ブランドのパーパスを定義し、優れた体験を継続的に提供するための企業活動全体の変革をBX(Business of Experience)と定義し、支援しています。
従来の企業活動は主に顧客の獲得や維持、エンゲージメントに焦点を当てており、企業が持つチャネル・ビジネスプロセスを起点にしたタッチポイントの最適化に留まっていました。DXについても各ファンクションに閉じており、ビジネスやオペレーションの効率化を重視する傾向がありました。
しかし、それでは変革は困難です。BXではパーパスを核にビジネスモデルや従業員体験までを含めて根本的に見直し、顧客へ優れた体験を継続的に提供するための企業活動を目指します。
BXによる企業活動の構造の変化に伴い、各ファンクションも役割は変わることになります。例えばCEOの役割は、従来の収益の最大化から、パーパスや顧客体験を軸にした収益拡大に。マーケティングの役割は、商品を欲しいと思わせることから、顧客が欲しいと思う商品を作ることに変わります。
ここでもう一度、なぜパーパスを起点に企業活動全体を変化させることが必要なのか考えてみましょう。現在は金融業界以外の企業も金融サービスを提供する時代に入っており、業界の垣根が低くなっています。生活者から見れば、金融機関であろうと、それ以外の企業であろうと、必要なサービスを提供してくれるのであれば業界は関係ありません。
BXの先駆者たちに目を向けてみると、例えばAmazonは自分たちの事業を「EC」とは決して呼びません。「あらゆる“欲しい”を充足する生活インフラ」というパーパスのもと、顧客に1秒でも早く商品を届けることを徹底しています。また、日本においてもセブンイレブンの「近くて便利を日常に」や、ソニーのウォークマン「音楽をポケットに」、NTTドコモの「つながりを手のひらに」など、パーパス起点で新しい価値を生み出してきた数々のBXの事例があります。その点では日本企業が遅れているわけではなく、日本型BXの再構築が求められていると言えます。
さて、BX実現の手がかりとして、アクセンチュアは「REIMAGINE(体験の再創造)」というキーワードを掲げています。自分たちは生活者視点から見るとどんな存在なのかを改めて考えてみることがBXの第一歩です。ビジネスの「業界」の切りにとらわれてはいけません。例えば金融業界の場合、生活者は「金融しよう」とは考えず、「お金を管理したい、お金を増やしたい」などと考えるはずです。このように生活者視点から自分たちの存在を捉え直すことが重要になります。
デザインシステムで一貫した顧客体験を提供する
ブランドとは多様な接点での「体験」の蓄積であり、生活者の信頼を得るためにはすべての接点を通じて一貫した体験を提供し続ける必要があります。例えば、製品やサービスによってメッセージや体験が異なるようであれば、ブランドとしての信頼は得られません。一貫した体験を提供するためのガバナンスモデルを構築するには、デザインシステムというアプローチが有効だと考えています。
デザインシステムとは、多種多様なデジタル製品の設計・開発〜運用を支える包括的なアプローチであり、単なるグラフィックパーツの集合体ではなく、全体のガバナンスも含めた概念です。
具体的なアプローチとしては、例えば「デザイン推進室」などの名称で全社のデザインを統括する専門組織を立ち上げ、ガイドラインの策定やリリースの承認を行います。そしてデザイナーやエンジニアなどが一貫したプラットフォーム上でガイドラインを参照しながらデザインを行っていくようにガバナンスを再構築します。
そうすることで、あらゆる顧客接点で一貫した顧客体験を提供できるのはもちろん、内部の変更も即時に反映されるようになり、開発コストやリリースまでの期間が大幅に削減できます。一方で体験価値やコラボレーションのスピードは改善するというメリットもあります。
さて、それではどのようにパーパスを起点に置き、デザインシステムを取り入れながら、BXを実現していくのでしょうか。この後のウェビナーでは、日本初のデジタルバンクである「みんなの銀行」や海外のBX事例が紹介されました。