金融サービスブログ    

本年度もQorus Innovation in Insurance Awards が開催されました。本アワードは全世界から最新の保険イノベーション事例を募ったものであり、保険業界のトレンドを把握することができる格好の機会となっています。第66回目の金融ウェビナーでは、毎年好評をいただいている専門家たちによる表彰結果の解説と、保険業界の今後の展望について解説を行いました。保険イノベーションの現在地と未来、取るべき戦略について関心をお持ちの方はぜひご覧ください。

Qorus Innovation in Insurance Awardとは

Qorusは1971年に複数の銀行と保険会社によって設立されたグローバルな非営利組織であり、133カ国、120を超える金融グループがメンバーに名を連ねます。

Qorusはグローバルでの保険産業におけるイノベーション促進を目的としたInnovation in Insurance Awardsを毎年開催しており、2024年は43カ国、290の企業・団体から352のイノベーションの応募がありました。

企業を大賞にした「Global Innovator」のカテゴリにおいては、ここ数年、ジェネラリとディスカバリーの2社が上位を競い合う格好でしたが、2024年のGold(1位)はディスカバリー、Silver(2位)は平安、Bronze(3位)はチャブとなりました。

ここからは各企業の受賞理由や、個別カテゴリからいくつかの事例をピックアップして解説してまいります。

「Global Innovator」にて平安とチャブが躍進

まずGlobal InnovatorのGoldを獲得したディスカバリーの受賞理由を見ていきます。ディスカバリーは「バイタリティー」でご存じの方が多いと思いますが、ポイントは生命保険に限らず、人々の行動変容に着目した保険・金融イノベーションに取り組んだことです。近年では銀行業にも進出しており、現在では南アフリカを中心にヘルスケアを中心とした社会インフラ支援企業になりつつあります。

ディスカバリーの競争力の源泉にあるのはバイタリティに蓄積されたデータセットです。長期間保有しているさまざまなデータを活用・分析し、行動変容を促しています。行動変容プログラムをキーにして保険・金融事業を拡大するとともに、そこで培ったネットワークやデータなどを活用して他事業を展開する様子はもはや“デジタルカンパニー”と呼ぶにふさわしい姿です。

Siver受賞の平安が評価されたポイントは生成AIを積極活用した事業拡大です。平安は世界最大級の金融・ヘルスケアデータによる生成AI技術をバリューチェーン全体で積極活用し、従来は人のコミュニケーションが重視された分野までAIとの協業が進んでいます。

単なる業務効率化の文脈に留まらず、業務の高度化や機能強化の文脈で生成AIを活用している点が受賞理由になりました。

そしてBronzeのチャブは歴史的に企業向け保険で高いシェアを誇る企業ですが、BtoBtoC型の個人向け保険でも成長を実現しています。その成長の基盤にあるのは、テクノロジー統合プラットフォームChubb Studioの活用です。

日本やその他地域の他保険会社においても組込型保険のプラットフォームを提供されていますが、Chubb Studioの“凄さ”は、2023年時点でアジアとラテンアメリカで200社以上の企業とデジタルパートナーシップを締結し、30か国以上で稼働しているという点にあります。このスケール感がGlobal Innovatorの受賞理由になりました。

周辺サービスではなく、コアの保険商品関連の事例が増加

Qorus Innovation in Insurance Awardsでは「Global Innovator」のほか、6つの個別カテゴリが設定されています。ウェビナー本編では各カテゴリの受賞イノベーションを詳しく解説していますが、本レポートでは全体的な応募の傾向を紹介させていただきます。

以前、保険イノベーションのエントリー内容はコアビジネスより周辺サービスが多かったのですが、2024年にはエントリーのうち57%が商品関連のイノベーションになりました。“新しいこと”を周辺サービスでトライする時期を過ぎ、今ではイノベーションの焦点が徐々にコアビジネスに移ってきています。

具体的にどのようなイノベーションが生まれているのか、各カテゴリの受賞内容をご覧になりたい方はぜひオンデマンド配信をご視聴ください。

生成AIや競争構造の変革。保険・金融イノベーションの今後は

ここからは保険・金融イノベーションの今後を考察していきます。追い風も向かい風もある状況ですが、主なテーマとしては「生成AIテクノロジー」「年金保険を活用した事業金融プレイヤーへの対応」「顧客本位・コンプライアンスを起点としたビジネスモデル変革」の3点が挙げられます。

まず生成AIについて、その影響力の大きさは既に多くの方が認識されていると思いますが、オペレーションの自動化だけでなく、機能が強化される領域もある点が重要です。

上記のスライドのように、営業職員や代理店といった人が中心の領域において生成AIが機能強化に貢献する可能性が高いという調査結果も出ています。今回のアワードでは平安の事例がまさにその好例でしょう。

また、生成AIは経営判断の高度化にも寄与します。他業界では生成AIを活用したデータドリブン経営の推進が進んでおり、保険業界でも同様の取り組みが進んでいくことが考えられます。

次に事業金融プレイヤーへの対応について、投資ファンドによる保険会社の買収のように、大規模な投資が必要なテクノロジーと世界的な高齢化における資産形成ニーズを組み合わせて事業金融に乗り出すプレイヤーも出てきています。事業金融は今後のトレンドになっていく可能性があります。

そして「顧客本位・コンプライアンスを起点としたビジネスモデル変革」については、顧客本位の徹底から競争ルール・業界慣行が変わり、競争構造が変わる可能性が出てきています。その際にはコンプライアンスと収益追求を対立するものとして考えるのではなく、両立させるものとして捉え直しビジネスモデルを刷新する必要があります。

リスクがビジネスモデルそのものに内在する以上、ビジネスモデルを変えなければリスクは下がりません。競争ルールが変わる時に、一時的な対応で済ますのではなく、一気呵成にビジネスモデルを変えて攻めに出ることが勝負を分けることになるかもしれません。

コアビジネスにおける生成AIの活用が定着

振り返ると、新型コロナウイルスの拡大期はヘルスケアが大きなトレンドにあり、2023年のアワードでは生成AIを活用したPoC的なイノベーションが多かったものの、2024年はデータの蓄積が進み、コアビジネスにおいても生成AIの活用が定着してきた流れが見られました。なお、コアビジネスでの生成AIの活用は日本とそれ以外で差が出てきている部分でもあります。

生成AIの活用は今後も広がっていくことが考えられ、業務の効率化だけではなく、機能強化、さらには経営の意思決定高度化まで想定されます。

日本の保険会社への示唆としては、ユースケースの見極めや必要データの蓄積、モデル化、そして複数のAIをオーケストレーションする基盤整備が必要になります。テクノロジーを活用し、競争構造の変化を見極めた上で、自社のめざす姿を描けるかどうかが勝負のポイントになるでしょう。

さて、今回のレポートではアワードの概要や示唆を抜粋してお伝えしましたが、ウェビナー本編では各カテゴリの受賞内容や今後の業界の展望なども詳しく解説しています。オンデマンドで視聴可能なウェビナーではハンズオン資料のご提供のほか、豊富な図版を交えた説明、視聴者からのQ&Aなどもご覧いただけます。約60分の映像コンテンツとなっておりますので、ぜひご視聴ください。

アクセンチュア金融サービス本部ウェビナー第66回のご視聴はこちら

参考記事: 保険業界の未来を導くイノベーション | アクセンチュア

イノベーションは今や保険業界の成功に不可欠です。Qorus受賞事例は、注力すべき分野、投資対効果、そして直面する課題を浮き彫りにしています。詳しくはこちらをご覧ください。

 

コメントを送信する

Your email address will not be published. Required fields are marked *