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第26回 金融ウェビナー講演録 第2回(全2回)

欧州を中心として設立や事業展開が活発化しているのが「チャレンジャーバンク」と呼ばれるデジタルバンクです。しかし低金利環境の長期化や新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる顧客行動変容により、デジタルバンクの中でも成否が分かれつつあります。

何がその成否を分ているのか。「第1回」では欧州のデジタルバンク市場を概観しつつ、その論点を整理しました。続く「第2回」では欧州デジタルバンクのCEOへのヒアリングから得られた知見と、日本の銀行業界が学ぶべき示唆について解説します。

現地視察に基づく欧州デジタルバンクの経営実態

アクセンチュア・ジャパンでは、パンデミック前にイギリス、スペイン、フランスを訪問し、欧州デジタルバンクのリーダー企業の現地視察を行いました。視察では訪問先デジタルバンクのCEOに直接のヒアリングと意見交換を実施しました。

あるデジタルバンクのCEOは次のように述べました。

「設立の経緯は、社会全体やビジネスのデジタル化の波の中で生き残るため。1995年から始まったテレホンバンキングから進化して現在の姿になりましたが、現在の主要顧客は25〜50歳の若手プロフェッショナル層です。コアターゲットとして『ファミリー』も重視し、親が子供のお金の管理を巧みにサポートできるツールを充実させています。特にローン商品はEコマースと連携させており、たとえば銀行のWebサイトで高級腕時計の購入ができます。購入者には無担保ローンを提案し、購入サポートまでを銀行が窓口となって展開しています」

また、フランスのあるデジタルバンクは、日本との社会環境の違いも含めて以下のように事業形態を解説しました。

「フランス社会には銀行口座を持てない社会階層(アンバンク層)が存在します。当行は年間口座維持手数料を徴収しますが、それでも銀行口座を持つことを求めて当行と契約する方々が主要顧客層の一部を形成しています。我々はあらゆる手数料をシンプル化し、サービスの仕組みと料金体系を開示しています。フランスには喫茶店と軽食が取れる居酒屋が渾然一体となった小規模店舗が全国にあり、地域コミュニティとして機能しています。この店で口座開設ができる仕組みを提供し、カジュアルな場で口座開設が可能なサービスとしています」

3つ目のデジタルバンクは、その国の郵便事業者が持つ銀行が立ち上げたデジタルバンクです。発足から約1年であり、「立ち上げフェーズ」のステージにありますが、郵便局ネットワークを持つ強みを生かし、若い顧客層の獲得に成功しています。口座開設はわずか10分で完了し、親銀行とサービスの棲み分け(ローン商品は親銀行が担当)し、送客する役割分担でシナジーを発揮しています。

日本の銀行が学ぶべき示唆

以上を踏まえ、日本の銀行が学ぶべき示唆を検討し、整理していきましょう。

まず、日本国内で直近5年間に開設された口座の約半分(48%)がネット銀行です。顧客へのアンケート調査でも、「今後利用したい銀行のチャネル」について、「将来的にはデジタルを利用したい」と回答した層は44%であり、現在の19%から右肩上がりに増えていくことが容易に想像されます。

欧州のケースからも、ネオバンクは顧客獲得力で抜きん出ていることがわかりました。ネオバンクには、顧客体験の磨き上げ、思い切った手数料体系、先端テクノロジーの活用、既存ビジネス・組織・顧客・システムを持たないがゆえの「しがらみ」のなさを活用したビジネスアジャイルで、新サービスを次々にリリースできるスピード感などの特徴があります。一方で伝統的銀行には磐石な顧客基盤(個人・法人)、融資等のノウハウ、長年の経営によって培われた信頼とブランド力があります。両者の「強み」を組み合わせることで、最も強いビジネスモデルが実現することは自明でありましょう。

スーパータンカー&スピードボート戦略

では、どのようにして伝統的銀行が、自行の強みを毀損することなくデジタルを中枢に据えることができるのか。アクセンチュアでは「スーパータンカー&スピードボート戦略」を提唱しています。この戦略は実際にSantanderが実践している戦略でもあります。

スーパータンカー

伝統的銀行における「本体」です。上図の通り、スーパータンカーはその規模のメリットを活かしながら手堅く効率化を志向していきます。

スピードボート

小回りが効く俊敏性と加速力を持つ「デジタル子銀行」の使命は探索とチャレンジです。カテゴリーキラーとなるサービスをリリースしつつ、非金融業界企業とのエコシステムを積極的に構築していきます。

投資回収の考え方は、①投資の一定割合を最大損失としてプールする、②スーパータンカーのコスト削減を投資源泉とする、③スピードボートで構築したデジタルの仕組みをスーパータンカーへ還元するという3つの考え方があります。スピードボートは不確実な投資であることを踏まえ、上記の考え方を導入することでチャレンジを後押しすることができます。

スーパータンカー改革だけでは縮小均衡からの脱却は困難になりますが、スピードボート立上げを行い、新たな収益源を模索することで、持続的成長を可能にしていきます。この相互補完がこれからの日本の伝統的銀行に求められる両輪の戦略だといえるでしょう。

そもそもデジタルバンクは、金融+非金融サービスを、パーソナライズし、エコシステム前提で提供することを特徴としています。従来のインターネットバンキングが支店の補完による“効率性追求“、ネット銀行が金融サービスのデジタル完結による“安さ”を提供してきたのに対し、デジタルバンクはデジタルだから可能な新たな価値提供をすることで、従来とは一線を画すものと定義できます。

デジタルバンクは「顧客側エージェント」として“前に立つ”存在になる

たとえば、住宅ローンの提供だけではなく、ハウスメーカーが選べる。コンシューマーローンではなく、モノ・サービスがサブスクリプション型で利用できるなど、金融×非金融×デジタルで新たな付加価値の提供が可能です。その際、銀行はこれまで培ってきた「信頼」・「与信力(査定力)」・「(顧客基盤を持つことによる)マッチング」・「長期リレーション」という強みをレバレッジし、顧客サイドの信頼のおけるエージェントという立ち位置を取ることが重要になるでしょう。従来の商流後の決済を担う役割ではなく、商流の一番初めの漠然とした悩みに応える。顧客の最前面にたって、顧客に代わって最適なサービスをエコシステムの力をフル活用して提供する、いわば代理人=エージェントとして、顧客が持つ本質的な課題解決に伴走することが、これからの銀行のビジネスモデルとなると考えられます。

1)エコシステムの「前」に立つ:Life Agent

2)金融機関の「前」に立つ:Advisory Agent

3)金融商品の「前」に立つ:Personalize Agent

収益モデルは、サブスクリプション収益を1つの柱とし、非金融サービスとの連携により、送客収益や金融収益へとつなげていきます。これが基本的なモデルとなります。

言い換えるならば、これからの銀行に求められるのは、顧客の「トラステッド・アドバイザー・オブ・ライフ」となることです。顧客の「ドリーム(願望・欲求・実現したいこと)」を察知し、新たなサービスを組み込んで提案していくことが重要です。

アクセンチュアでは、日本の銀行が欧州のデジタルバンクに学ぶスーパータンカー&スピードボート戦略を取り入れて実践することで「桁の異なる大胆なコスト削減」および「新たな収益源創出へのチャレンジ」をご支援してまいります。

新たな顧客体験を創造する新サービスや異業種企業とのエコシステム構築においてもアクセンチュアが橋渡しとなるほか、ビジネスモデル構築、サービスデザイン、システム開発・運用までをエンドツーエンドでサポートいたします。本記事の内容や事例の詳細へのご要望、ご質問等がございましたらぜひお問い合わせください。

今回のウェビナーでは、欧州デジタルバンキングの何が成否を分けたのか、そこから学ぶ日本への示唆についてご紹介しました。