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第26回 金融ウェビナー講演録 第1回(全2回)
欧州を中心として設立や事業展開が活発化しているのが「チャレンジャーバンク」と呼ばれるデジタルバンクです。しかし低金利環境の長期化や新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる顧客行動変容により、デジタルバンクの中でも成否が分かれつつあります。
何がデジタルバンク事業の成否を分けるのでしょうか。商品・サービスの構成、伝統的銀行とデジタル子銀行の棲み分け方、高効率な事業構造の仕組みなど、アクセンチュア金融ウェビナー第26回「欧州デジタルバンキング、何が成否を分けたのか。そこから学ぶ日本への示唆とは」では、欧州の業界動向の俯瞰と現地のCEOへの実際のヒアリングによって得られた日本への示唆をご紹介します。
欧州のデジタルバンキングマーケット概観 〜コロナ禍における動向
まず、本ウェビナーでは「デジタルバンク」を「支店のリアルチャネルを持たないオンラインのみでバンキングサービスを提供する銀行の総称」として定義いたします。デジタルバンクは、次の3つの類型に分類されます。
1)大手銀行傘下のデジタルバンク
伝統的銀行を親銀行として持ちつつ、子会社の形態で設立されたデジタルバンク。
2)ネオバンク
一般的には「銀行免許を持たない、バンキングサービスを提供するデジタルプレイヤー」を指すケースが多いといえますが、本ウェビナーではバンキングサービスを提供する独立系事業者を指し、銀行免許の有無は問わないこととします。
3)非金融企業を親会社に持つデジタルバンク
小売や通信、EC、SNSなど非金融業界の企業を親会社として持ち、バンキングサービスを提供しているデジタルバンク。
デジタルバンクが登場した2000年代前半から今日まで、その中心地として多くの事業者の設立や事業の統合、M&Aが行われたのは欧州です。年代別に企業動向を整理すると、そのトレンドは3つのフェーズに整理できるでしょう。欧州はデジタルバンク業界における「3つのWave」をすでに経験しているといえます。
1)Wave 1 異業種銀行の参入期
リテール企業を親会社として持つデジタル銀行の創設が相次いだデジタルバンクの黎明時期です。それまでの伝統的金融機関による寡占状態は世界的常識でしたが、21世紀に入って初めて本格的なデジタルバンクの登場する時代を迎えました。
2)Wave 2 ネオバンクの勃興期
2010年頃を境界として、ネオバンクが急速に増加しました。ここには銀行免許を持つ事業者と持たない事業者が混在しておりますが、その事業者数は急増し、2016年頃まで設立ラッシュの様相を呈します。
3)Wave 3 大手銀行のデジタル子銀行創設期
2016年以降は大手銀行がデジタル銀行を設立するケースが相次ぎ、伝統的金融機関もデジタル銀行を自ら持つ流れが加速していきます。
欧州のデジタルバンクを二分する「大陸系デジタルバンク」と「イギリスのネオバンク」
欧州市場におけるデジタルバンクは、大手銀行傘下の事業者は「大陸系(フランス、イタリア、スペイン、ドイツ)」に多く、一方でネオバンクはイギリスを中心としています。
欧州では大手銀行傘下のデジタルバンクとネオバンクが、事業者数では市場を二分しています。大陸系は合併を繰り返しながらリテール事業を中心に展開してきた傾向が見られますが、スタートアップ企業を支援する規制解放の動きがいち早く進んだイギリスでは独立系事業者の起業例が多いことが読み取れます。
利用顧客数も集計するとデジタルバンク業界全体で顧客数は堅調に増加しています。Imagine bank(CaixaBank)、Nickel(BMP Paribas)、Boursorama Banque(Societe Generale)、Hellobank(BNP Paribas)は2016年対比で顧客数を2桁以上伸ばしており、ネオバンクではRevolutとTransferWiseの2ブランドが成長を牽引しています。
欧州デジタルバンクの顧客獲得における4つの戦略的ポイント
欧州のデジタルバンクにおける顧客増を分析し、アクセンチュアではその事業戦略における「ポイント」は4点に絞られると結論づけました。
1)スケーラブルニッチへのフォーカス
EU域内の移動を中心とするビジネスやライフスタイルを持つ顧客が何を求めているのか、どのようなサービスであれば彼らに受け入れられるのかの追求が第1のポイントです。パンデミック以前までEU域内の移動者・旅行者は増加傾向にあったことから、これらの顧客を「スケーラブルニッチ」としてフォーカスしています。
2)キラーサービスの明確化
各社ともにキラーサービスを明確にし、よりビジネスに磨きをかけています。特に通貨交換におけるフリクションの低減、PFMや位置情報に応じたワンデイ保険(傷害保険・旅行保険)など、明瞭なメッセージとともに顧客へ金融商品を提供しています。
3)顧客が痛みを感じにくいFee体系
手数料に代表される顧客のペインポイントを「感じにくくさせる工夫」が随所に見られます。たとえば月額定額モデルとして1回1回のトランザクションの痛みを感じなくさせる、フリーミアムモデルなどを使って「一定までは無料(一定以上に課金)」などを仕組み化する、あるいはデジタルバンクは「場」を提供することでサードパーティからFeeを受け取る収益構造を実現するなど、顧客が「自分がコスト負担をしている認識を軽減」させています。
4)エコシステムのフルレバレッジ
自社商品に固執せず、他社のより良い商品・サービスと連携させることでスケーラブルニッチの顧客に納得感を与えるサービスをラインナップします。これにより顧客獲得を加速させます。
苦戦するネオバンクが模索する、生存のための戦略的オプション
顧客数は確実に伸びていますが、一方で収益性はどうでしょうか。独立系ネオバンクは収益性に厳しく、苦戦している様子です。大手銀行かスピンオフしたネオバンクや大手銀行傘下のデジタルバンクは総じて健闘しています。
ネオバンクは与信商品やローン商品のラインナップが非常に少ない傾向にあります。つまり手数料ビジネスでは銀行事業として収益性を大きく向上させることは難しいことが見て取れるでしょう。これは「金利性の商品がなければ収益的成長は伸びにくい」とも言い換えられます。
アクセンチュアが現地のデジタルバンク業界有識者へのヒアリングを重ねた結果、ローン商品には「①自己資本」「②ノウハウ」「③当局対応・報告に係るオペレーションのためのリソース確保」3つの参入障壁があることが明確になりました。
そのため、今後のネオバンクの戦略オプションとしては「①単独生き残りの模索(母国市場への注力による顧客の深耕)」「②フロントチャネル化(掴んだ顧客を大手銀行へ繋いでいくことで生き残る)「③大手銀行への身売り」の3つのオプションのいずれを選択するのかが顕在化していくと見られます。
デジタルバンクの4つの論点
大手銀行傘下デジタルバンクはマーケットに余地がある他国への展開を中心的な戦略としていましたが、昨今では自国内の若年層顧客の獲得にフォーカスしていることが調査の結果わかってきました。しかしその先の具体的な事業展開においては、以下の4つの論点があるとアクセンチュアでは考えています。
論点1「顧客・チャネルUI」
・親銀行とのカニバリゼーションを許容するか、コントロールしながら棲み分けるか
・チャネル/UIを分離するか、融合するか
論点2「商品」
・商品設計を親会社と共同で行うか、商品群を自前でラインナップさせるか
・他社の商品を利用するか、自社のみで完結させるか
論点3「オペレーション・システム」
・既存オペレーションの流用か、新規構築か
・コアバンキングシステムを共用で利用するか、独自に構築するか
論点4「ガバナンス」
・上記の論点を親会社と検討するのか、自社のみで意思決定するのか
これら4つの論点について主要デジタルバンクの成否の状況を整理したものが下の図表です。Marcus(Goldman Sachs UK)、Nickel(BNP Paribas)、Openbank(Santander)の3つの銀行は成功例だといえます。一方、Finn(JP Morgan UK)やHello bank!(BNP Paribas)、Bó(RBS)といった銀行は短期間での撤退や親会社への吸収・移行が発生しています。このケースは示唆を多分に含んでいます。
アクセンチュアでは上記で示した4つの論点について以下のように提唱しています。
論点1「チャネルUI」では、シンプルを極める。
論点2「商品」では、エコシステムモデルによるサービス拡充を行う。
論点3「システム」では、親銀行の伝統的システムから分離させて現在のビジネス環境に沿ったコアバンキングシステムを独自に採用する。
論点4「ガバナンス」では、子銀行は独立したガバナンスを持ち、トップ役員の指揮のもと経営される体制を構築する。カニバリゼーションは許容し、予算やリソースKPIも本体と異なる体系を用いた運用推進を目指す。
なお論点3「システム」では、クラウドオリエンテッドで事業のスケールに応じた伸縮自在な環境を持ち、外部接続の柔軟性・拡張性をマイクロサービス+APIで実現することが重要です。加えて人的リソースの最適化・最少化のためにオートメーションを運用に取り入れつつ、高度なセキュリティをアーキテクチャに組み込みます。コミュニケーションの摩擦を減らす工夫を凝らしながら、顧客/コミュニティ中心のデータサービス体系を構築します。
コロナ禍の影響とデジタルバンク
COVID-19の影響は長期化します。ネオバンクは主要顧客である若年層(主にミレニアル世代)もデフォルトリスクを感じ始め、大手銀行に顧客シフトが起き始めています。EU域内の移動者自体が激減したためニーズも縮小しており、戦略的広域展開が難しくなりました。大手銀行傘下のデジタルバンクは低コストを特徴とするデジタル子銀行へのシフトが進むと予想されます。
つまり、低コストの事業運営を行い、顧客へリテンションしていく貢献がデジタル子銀行に求められるようになります。この貢献は、その金融グループの成長ヴィークルとして機能するでしょう。
以上のように第1回では欧州のデジタルバンクを概観しながら論点を整理してきました。第2回では実際に欧州デジタルバンクのCEOへのヒアリングから得られた知見と、日本の銀行業界が学ぶべき示唆について解説します。
今回のウェビナーでは、欧州デジタルバンキングの何が成否を分けたのか、そこから学ぶ日本への示唆についてご紹介しました。