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デジタル化や事業環境の変化が加速する中で、人材戦略の再考が求められています。
リスキリング(学び直し)やジョブ型雇用といったキーワードが脚光を浴び、多くの企業が人事制度の見直しを検討している中、金融機関はどのような人材育成に取り組むべきなのでしょうか。
これまでの金融ウェビナーではデジタル変革、イノベーション、AIなど様々なテーマを取り上げてきましたが、今回はこれらのテーマを推進するための「人材」にフォーカスを当て、Talent Transformation(TX)と題し、金融機関における人材変革について解説いたしました。
人材育成を取り巻く環境とアプローチ
まずは金融機関の人材育成を取り巻く環境から見ていきます。
多くの企業がデジタル化や新規事業創出に取り組んでいますが、従来の事業領域においても人材は不足しています。多くの金融機関は、採用の難しさ、将来どのような人材が必要になるか、既存の人材をどうリスキルすべきか、などの悩みに直面しています。
新型コロナウイルスやウクライナ侵攻に代表される不確実性の高まり、ビジネスにおけるテクノロジーの比重増加、生産年齢人口の減少、転職者の増加など、今まで予測のできなかった変化が起きており、金融機関には人材の強化・変革を行うことで新たな価値の提供が求められています。
また従業員の視点では、今まで求められていた「言われたことを確実にこなす能力」よりも、問題発見力や革新性といった新しいスキルが重視される時代が来るといわれています。人材に求められる能力が変わり、リスキルの必要性もますます大きくなっていくでしょう。
人材変革は、仕事内容、働き方、人材育成、リーダーシップのあり方、制度・仕組みなど、様々な領域を変えていく必要があります。これからの人材と組織の関係は、大きく3つのパターンが考えられます。内部人材で固定した従来型の組織、外部からも人材を調達するハイブリッド型、外部のフリーランサーや受託事業者でチームを組成するLiquid Workforceです。金融機関がまず考慮すべき組織の関係性としては、ハイブリッド型が有力といえそうです。
そして人材のリスキルについては、アクセンチュアでは主に3つのアプローチを取っています。外部講師を招いて座学でDXスキルを習得するAccenture DX人材育成プログラム、DXプロジェクトで協業する「2 in a box」、合弁会社(JV)の設立です。
いずれのパターンにしても考えるべきは、どうすれば人は育つのか/育たないのか、を理解すること。以下の表にあるように、人材育成とビジネス成長を紐付けること、人材活用を仕組み化すること、従業員個人のマインドを変えることなどが必要になります。
「人が育つ仕組み」を科学し、Talent Transformation(TX)を推進する
さて、ここからは「人が育つ仕組み」について詳しく見ていきます。
アクセンチュアでは、個人のスキルやアスピレーション(志)をビジネスの成長に結びつけるための変革を「Talent Transformation(TX)」と呼んでいます。
組織と個人の従来の関係性は、まずビジネス成長を起点にして人材活用の仕組みを考え、それを従業員個人に落としていくというフローでしたが、「人中心」のTXでは、それが真逆のベクトルになります。
とはいえ、人材の育成や成長は目に見えるものではないと考える人も多いかもしれません。アクセンチュアでは、人が育つ仕組みを定式化しています。
個人のアスピレーション(志)が会社のパーパスと合致していること、個人のスキルと仕事内容がマッチしていて適度な強度であること、そのような仕事を繰り返して個人が成長することがビジネス成長につながることをあらわしています。
そしてこの式で注意すべき点は、社員の努力が正当に評価される組織風土や報酬体系があること。これがなければ、一瞬でマイナスに転じてしまう可能性もあります。
それでは、TXはどのように進めていくべきなのでしょうか。
以下はTXのアプローチを図示したものであり、方針の策定、人材要件の定義、推進、拡張、運営といったプロセスに沿って進めていきます。このプロセスで特に重要な点は、変革ビジョンの定義や必要な人材像の定義といった要件定義の段階から「従業員目線」を織り込み、仕組みづくりや運営にまで適切に落とし込んでいくことです。
ここまで見てきたように、変革の領域が多岐にわたるTXは、難易度の高いチャレンジです。スタートアップのような身軽な企業と違って、組織規模が大きい企業の場合は、自社だけで最後まで変革を推し進めることが難しい面もあるかと思います。
そこで提案したい方法が、「育成をアウトソースする」というアプローチです。各社が独自に検討を進めて業務を設計し、必要なシステムを用意するのではなく、人事戦略・企画のサポート、採用・育成・評価などの実行面のサポート、従業員のスキルを管理するプラットフォームの提供などを通じ、TX実現を支援しています。
人材育成・変革の事例紹介
ここからは、ウェビナーで取り上げた人材育成・変革の事例のうち、いくつかを抜粋して紹介いたします。
まずひとつは、人材の育成と再配置を行った事例です。
この事例のお客様は、最先端のDXを自前で実行することに課題を抱えていました。そこでアクセンチュアはお客様と一緒に合弁会社(JV)を設立。お客様の社員もJVに転籍していただき、BPOのスキームを活用しながら、アクセンチュアの持つDXのノウハウを吸収していただきました。
この事例では、お客様の社員自身がJVに転籍して今までとは違う環境で働くという、一種の「覚悟」を持っていただいた点がポイントになります。
次に、人材の発掘とリスキルを行った事例です。事業成長に必要な人材を社内で発掘・育成することに課題を抱えていた金融機関のお客様に対し、アクセンチュアは人材データベースを整備し、社内の人材を「検索」してプロジェクトにアサインできる基盤を構築しました。
一方で、将来の業務変化や必要スキルを提示するワークショップによって社員の学習意欲を高め、異分野のプロジェクトへのシフトを推進しました。
また、手前味噌ではありますが、アクセンチュア自社の事例も紹介させていただきます。アクセンチュアは数年前に事業戦略の見直しを行い、組織や人材要件も変更を行っています。
事業戦略と完全にアラインした人材の定義を行った上で、組織内の相対評価ではなく、各個人に着目したキャリアカウンセリングを実施し、社員がアサインされるプロジェクトを自分で選ぶ仕組みを構築しました。社員一人ひとりの自律的な成長がビジネス成果につながる好事例になっているかと思います。
その他の事例もご覧になりたい方は、オンデマンドのウェビナー本編もご視聴ください。
リーダー層自ら、変わる覚悟を示すことが重要
さて、今回の金融ウェビナーでは、ビジネス成長に必要な人材が変わってきていること、採用と同時に既存人材のリスキルの両方を考える必要があること、そしてTXを進めていくためのアプローチを紹介してまいりました。
TXの変革難易度はきわめて高いといえますが、実現のためにはリーダー層が自ら変わっていく覚悟を示し、社員を引っ張っていくことが求められます。アクセンチュアのような外部の力も借りながらTXに取り組んでいただければと思います。
なお、本レポートでは紹介しきれなかった内容や事例などは、ウェビナーのオンデマンド版から無料で視聴が可能です。ぜひ併せてご覧ください。
今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。本記事の内容は、オンデマンド視聴可能なウェビナーでより詳しく紹介しております。ハンズオン資料のご提供ほか、豊富な図版を交えた説明、視聴者からのQ&Aを含む約60分の映像コンテンツとなっておりますので、ぜひご視聴ください。
アクセンチュア金融サービス本部ウェビナー第54回のご視聴はこちら。