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古典コンピュータを凌駕する並列計算能力を持つ量子コンピュータ。
その名前を聞く機会は増えてきたものの、その活用はまだ未来の話だと考えている方も少なくないかもしれません。
しかし量子コンピュータは、あらゆる産業分野にイノベーションや新たな成長機会を生み出す可能性を持った技術であることは間違いなく、既にビジネスでのユースケースも生まれ始めています。
そもそも量子コンピューティングとは何なのか。古典コンピュータに対してどのような優位性があり、どのように活用が可能なのか。今回の金融ウェビナーでは、量子コンピューティングの概要と金融領域でのユースケースを見ていきます。
量子コンピューティングを理解するための一般論
まずは量子コンピューティングの概要を理解するため、既存のコンピューティング、つまり古典コンピューティングと比較しながらその特徴を見ていきます。
古典コンピューティングにおける「古典ビット」は0と1の二進法で「数値」を表現しますが、量子コンピューティングにおける量子ビットは「状態」を示します。
この量子状態にはふたつの特徴があります。そのひとつは「重ね合わせ」です。ある粒子は0と1の両方の状態を同時に持つ「重ね合わせ」の状態にあり、観測されるまでその状態は確定しません。
もうひとつの特徴は「量子もつれ」です。粒子間の状態は相互に相関を持ち合い、片方の粒子の情報が定まると、同時にもう片方の状態も定まります。もつれ合い状態にある量子ビットを考えると、片方を観測することで、他方は観測せずとも状態を把握することが可能になります。
また、量子状態は極低温域(低エネルギー域)で出現しますが、わずかな外部環境との相互作用によって量子状態は壊れてしまいます。つまり、量子状態はノイズに対して非常に弱い、と言えます。
なので、量子コンピューティングを活用するにはエラー率を下げる「量子誤り訂正」の技術が不可欠です。現在は量子ビット数を増やす「冗長化」によってエラー率を下げる理論が主流ですが、正しい1量子ビットを作るのに別に1000量子ビットを用意する必要があり、現時点の技術ではほぼ不可能です。
そこで現在は、NISQ (Noisy Intermediate Scale Quantum device)と呼ばれるノイズありの中規模コンピュータ(1000量子ビット未満)を利用した研究が進んでいます。NISQの登場により、実証やユースケース探索に対して実験的なアプローチが可能となってきています。
量子コンピューティングの優位性とユースケース
量子コンピューティングでは、重ね合わせ状態にあるN個のビットに対して2のN乗の計算を並列で実行でき、きわめて早い速度での計算が可能です。同様の計算を古典コンピューティングで行おうとすれば、しらみつぶしに計算を行うしかなく、そのスピードには圧倒的な差が生じます。
また、以下の「素因数分解」と「探索問題」の例のように、いくつかのアルゴリズムでは量子コンピュータの優位性が理論的に証明されています。論理的な証明が難しくとも、先に述べたNISQの登場によって、今後はアルゴリズムの探索に関する実験的アプローチによる発見が加速していくと想定されます。
このような量子コンピューティングの社会実装は、まだ先の話に感じられるかもしれませんが、既に商用化段階に入っている量子コンピュータもあります。実際問題として、量子コンピューティングが古典コンピューティングに勝るのかという点についても、一部のユースケースで実証が進みつつあります。
具体なケースとしては、量子コンピュータの動作を古典コンピュータにシミュレーションさせたところ、スーパーコンピュータで1万年かかる計算を200秒で実現可能、という結果が出ています。また、鉄道のダイヤ、コールセンターなどの勤務シフト、配送計画、データセンターの運転計画などの最適化問題の分野で量子コンピューティングの優位性が実証されつつあります。
金融業界における量子コンピューティングの活用例
ここからは量子コンピューティングが金融領域でどのように活用可能なのか、どのように影響を及ぼすのかを見ていきます。
まず一般論として言えるのは最適化問題における量子コンピューティングの活用です。銀行・証券業の場合、顧客にパーソナライズされた最適な商品提案、最大リターンを実現するポートフォリオ構築、顧客にパーソナライズされたライフタイムプランニング提案などのユースケースが想定されます。
保険業の場合も同様に、保険商品提案や保険ポートフォリオの最適化、保険負債管理など広範な領域での活用が見込まれます。こうして見ると、組み合わせの最適化問題が多い金融業界は量子コンピューティングの活用に向いた領域だということもできそうです。
そしてアクセンチュアは、先進的なクライアントとともに量子コンピューティングの活用に取り組んでいます。その事例のひとつがスペインの大手銀行グループであるBBVAです。
アクセンチュアとBBVAは、実証実験として通貨アービトラージ、信用評価のスコアリング、投資ポートフォリオの最適化という3つのユースケースに取り組み。、多くの課題に直面しながらも技術検証を終えました。
古典コンピュータとの住み分け・併用で活用する
量子コンピューティングが得意とする組み合わせ最適化について、既存の古典コンピュータでも実行できるのではないか、と考える方もいるかもしれません。
しかし、古典コンピューティングでは計算に長い時間がかかり、実務に耐えられません。「金融市場において演算速度は巨大なアドバンテージとなる」とゴールドマン・サックス社が述べているように、金融市場における組み合わせ最適化のベネフィットは非常に大きく、金融・保険会社で年間数十億円の効果を試算したユースケースもあります。
とはいえ、量子コンピューティングは単体で活用できるものではありません。量子コンピューティングと古典コンピューティング、それぞれの役割を住み分け・併用するハイブリッド型のシステムアーキテクチャを組み、ビジネスにおけるあらゆるプロセスで利用することで、オペレーションの効率化やリターンの最大化・効率化を実現できるはずです。
今こそQuantum Journeyへの一歩を踏み出す時
アクセンチュアは量子コンピュータ活用の道筋を「Quantum Journey」と呼び、以下のようなジャーニーのステップを定義しています。
このジャーニーの最大のポイントは、今すぐに取り組みを始めることです。量子コンピューティングは既に活用可能なものもあります。できるだけ早く始めることで、ノウハウが溜まり、将来的に量子コンピューティングがコモディティ化した時に、大きな先行者利益を得ることができます。
ステップ1にもあるように、まずは量子コンピュータのビジネスへの適用を一緒に考えるパートナーの選定が重要ですが、TBR社のレポートにおいて、アクセンチュアはもっとも成熟したパートナーとして評価されています。
アクセンチュアの強みは、量子コンピュータおよび金融・保険サービスの深い知見と、自社で量子コンピュータを開発していないからこそフラットな立場から最適なソリューションを提案できること。事実、アクセンチュアは既にさまざまなプロジェクトで実績を積み、知見を蓄積しつつあります。
実証実験のフェーズでは、量子コンピュータで何を解決したいのかという問題の特定からクライアントと一緒に考え、具体的なアルゴリズムやテクノロジーの選定、技術的なデザイン、開発はしっかりとサポートさせていただきます。
Quantum Journeyは今すぐ始めることが大切だという話をお伝えしましたが、2025年を過ぎたところからは多くの金融機関で取り組みが進み、先行者利益が顕在化してくると考えられます。人材獲得競争も激化していくことでしょう。量子コンピューティングにはできる限り早く取り組むことが将来的なバリューになります。
また、量子コンピューティングは、リスク管理が経営のコアであり、大量のデータを扱う金融・保険会社こそが活用すべき技術と考えられます。量子コンピュータは高額なため所有が難しいものの、クラウドで時間利用が可能なAWSやMicrosoft Azure Quantumなどのサービスを活用することで、安価で実施することが可能です。
自社のどの領域に、どのように導入できるかは不明瞭であっても、まずはとりあえず始めてみようという気持ちでアクセンチュアにご相談いただければと思います。
さて、本レポートはウェビナー本編から要点を抜粋してお伝えしてきましたが、本編ではその他の導入事例や、量子コンピュータを利用したデモも紹介いたしました。ウェビナー本編はオンデマンドで無料視聴が可能ですので、ぜひご視聴ください。
今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。本記事の内容は、オンデマンド視聴可能なウェビナーでより詳しく紹介しております。ハンズオン資料のご提供ほか、豊富な図版を交えた説明、視聴者からのQ&Aを含む約60分の映像コンテンツとなっておりますので、ぜひご視聴ください。
アクセンチュア金融サービス本部ウェビナー第56回のご視聴はこちら。