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インフレーション・金利変動や異常気象、自然災害の増加など、社会環境は大きく変わり続けています。先行きが見通せない時代において、これから保険業界はどのようなテーマに競争力と成長の源泉を見出していくべきなのでしょうか。
世界130ヶ国、3,300以上の金融機関が参画するQorus(旧Efma)とアクセンチュアは共同で「Innovation in Insurance Awards」を開催し、全世界から優れたイノベーション事例を募っています。今回の金融ウェビナーでは、2023年度のアワード受賞案件を紹介しながら、保険イノベーションの最前線を解説いたします。
今年度の注目企業はアリアンツ・パートナーズ
Qorusは1971年に複数の銀行と保険会社によって設立されたグローバルな非営利組織であり、以前はEfma(European Financial Management Association)という名称で呼ばれていました。旧Efmaは2022年6月、グローバルへのコミュニティになることを改めて強調すべく、Qorusへのリブランディングを行いました。
Qorusとアクセンチュアが共催する「Innovation in Insurance Awards」は、企業を大賞にした「Global Innovator」のほか、6つの個別カテゴリが設定されています。そして今年度、243カ国、352のイノベーション、223の企業・団体の応募の中、「Global Innovator」のGold(1位)を受賞した企業はジェネラリです。
過去の受賞を振り返ると、ジェネラリとディスカバリーの2社は常に「Global Innovator」の上位を競い合ってきました。しかし今回注目したいのは、Silver(2位)に浮上してきたアリアンツ・パートナーズです。
アリアンツ・パートナーズの受賞ポイントとしては、複数の事業、複数の地域でイノベーション取り組みを行っていることが高く評価されました。今年度のアワードノミネーション取り組みとしては、住宅関連サービス、ヘルスケア関連サービス、自動車関連サービスなどが挙げられます。
まずアリアンツ・グループ全体としては、2012年から収益構造の改革、2015年からDXの推進、そして2019年から本格的なトランスフォーメーションに取り組んできたという背景があります。
その中で、アリアンツ・パートナーズはグループのグローバルラインとしてリスクマネジメントや各種アシスタントサービスを提供するエンティティを担っており、近年ではデジタルエコシステムを中心としたBtoBtoCサービスに注力してきました。
Allianz Partnersの事業領域としてTravel、Home、Mobility、Health、Financeのテーマで多角的にサービスを提供しており、保険事業と相互に影響を及ぼす点が同社のコンセプトになっています。
そしてイノベーションの「仕組み」としては、アリアンツ・グループの中にスタートアップ投資を行うアリアンツ・Xがあります。まずはグループ内で新規事業の“タネ”を試してみた後、アリアンツ・パートナーズに連携しグローバルに展開していくという流れになっています。
今年度のアワードでの受賞ポイントとしては、各テーマの個別のサービスはもちろんのこと、このようなイノベーションの「仕組み」を作っている取り組み自体が高く評価されました。
なお、Travel、Home、Mobility、Health、Financeといった個別サービスの詳細については、ウェビナー本編で解説していますので、オンデマンド版の動画もぜひご視聴ください。
新型コロナの落ち着きから、自動車・EV、生成AIに注目がシフト
さて、今年度のアワードでは、昨年度までと異なる傾向が見られました。昨年度までは新型コロナウイルスの影響が大きく、ヘルスケアやリモートテクノロジーに注目が集まっていましたが、新型コロナウイルスが落ち着きを見せてきた今年度は、世界的な「移動」の増加から、自動車・EV、AIに改めて注目が集まりました。
また、昨年度までは先進国がイノベーションの中心であったものの、アジアや南米などのイノベーションが増加したことも今年度の傾向です。
ここからウェビナーでは個別カテゴリの受賞事例が紹介されましたが、本レポートでは「Connected Ecosystems & Marketplaces」のカテゴリを抜粋して紹介いたします。
「Connected Ecosystems & Marketplaces」では、フィディリダーデのペット関連エコシステム型サービスがGold(1位)を受賞。Silver(2位)は平安の生成AIコンテンツによる代理店マーケティング支援、Bronze(3位)はアリアンツ・パートナーズのインドにおけるEVエコシステムでした。
「Connected Ecosystems & Marketplaces」のカテゴリにおいて、昨年度はヘルスケア分野のテーマが多かったものの、今年度は多岐にわたるテーマに関するエコシステム構築の事例が多く挙げられました。
なお、その他の個別カテゴリの受賞結果と評価ポイントについては、オンデマンド版の動画から視聴が可能ですので、ぜひご覧ください。
生成AIの本格活用が新たなイノベーショントレンドに
ここからは、今年度のイノベーションアワードをもとに今後の保険イノベーションが向かう先を考察していきます。
以下はイノベーションのテーマを紹介した図であり、上から4つのテーマは昨年も言及していましたが、今年度は生成AIの本格活用というテーマが新たに加わりました。
生成AIはさまざまな産業に影響を及ぼすといわれていますが、その中でも保険業界に対するインパクトは非常に大きいと考えられています。以下のリサーチ結果によると、業界別のAIの潜在的な影響において、1位は金融業界、保険業界は2位という高い順位になりました。
保険業界で生成AIが活用できそうな分野については、主に保険金支払い、カスタマーサポート、代理店支援などの領域がやはり大きく、さまざまなテーマで生成AI活用が検討されています。
生成AIの具体的な活用例としては、ニーズ予測による顧客ターゲティングと組み合わせた形での営業トークの生成などによって、営業活動のさらなる高度化が可能になると考えられます。また、海外では、AIを活用してアンダーライターのリソースを案件判断や新スキームの企画にフォーカスさせる引受業務の高度化といった事例も検討されています。
そしてAI活用において重要なポイントは、複数のAIを活用してイノベーションを生み出していくことです。
生成AIはたしかに革新的な技術ですが、得意領域/不得意領域があり、すべてを担えるわけではありません。また、RPAなど既存の自動化の仕組みと連携する必要性、今後の技術進化によって今以上のAIが生まれる可能性、企業独自のAIを育てる仕組みなども検討する必要があります。
このようにAIを組み合わせて活用することが重要になっていく中、アクセンチュアのソリューションである「AI Hubプラットフォーム」は、複数のAIエンジンから最適なものを組み合わせ、人間との協調も可能なプラットフォームとなっています。
日本の保険会社への示唆:AIを新たな変革の起点に
ウェビナーの内容をまとめると、今年度のアワードでは新型コロナウイルスの落ち着きから自動車・EVや生成AIといったテーマが増え、受賞企業としては新興国含むグローバル全体でイノベーションの仕組みを構築しているアリアンツ・パートナーズの取り組みに注目しました。
特に生成AIについては、来年度以降の大きなイノベーショントレンドになることが考えられます。特に日本では政府が生成AI活用を後押ししていることもあって現状優位にあり、リーダーになりうる可能性もあります。AIは新たな変革の起点になるかもしれません。
さて、本レポートではすべての受賞結果をお伝えすることができませんでしたが、オンデマンド版の動画では、個別カテゴリの受賞事例や生成AI活用の詳細なポイントなどもお伝えしています。ぜひご覧いただき、保険イノベーションの現在地と今後に向けた示唆を得ていただきたいと思います。
今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。本記事の内容は、オンデマンド視聴可能なウェビナーでより詳しく紹介しております。ハンズオン資料のご提供ほか、豊富な図版を交えた説明、視聴者からのQ&Aを含む約60分の映像コンテンツとなっておりますので、ぜひご視聴ください。
アクセンチュア金融サービス本部ウェビナー第60回のご視聴はこちら。