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近年、金融業界においてIT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が重要な経営課題として認識されていますが、「現場」であるIT部門においても、モノ・人・組織の変革が求められています。
今回のウェビナーでは、金融業界のITを数多く経験してきたエキスパートが登壇し、現場の実情やリアルな課題、今後のチャレンジについて座談会形式で語り合いました。
本レポートでは座談会で語られた内容のうちポイントを抜粋してお伝えしますが、オンデマンド版の動画もご覧いただくことで、IT現場のイノベーションやトランスフォーメーションのヒントが得られることかと思います。ぜひあわせてご視聴ください。
金融機関のIT現場を取り囲む、数々の困難な現状
まずは金融のIT現場を取り巻く現状から確認していきましょう。IT組織に対して、経営層やユーザ部門からはトランスフォーメーションやコスト削減が求められますが、そもそも現行のシステムを24時間365日止めることなく安定稼働させていること自体が困難なことです。さらには、IT人材の流出やベンダーサイドのコスト上昇など、多方面からの厳しい要求にさらされている状況にあります。
今のままシステムを動かし続け、IT現場におけるモノ・人・組織の変革が行われない場合、ゆくゆくは基幹系システムの維持困難、人材流出、内製化の停滞など、様々な問題が噴出します。
座談会の中で指摘されたのは、「IT現場の厳しさを本当に理解できている経営者は少ないのではないか」ということ。近年はデジタルをはじめとした新しい取り組みが脚光を浴びがちですが、実は金融の巨大なシステムを問題なく回せている、ということ自体が驚くべきことであり、その意義に改めて目を向けるべきです。
また、金融機関のITは、デジタル分野において遅れている印象を持たれたり、コストセンターのように見られてしまうこともあるため、IT人材の流動性も高まっています。経営者においては、金融のIT現場をIT人材にとって魅力的なマーケットにしていく、ということも一緒に考えることが求められます。
モノの変革:コア領域こそ内製化すべき
2025年の崖も目前に迫った今、基幹系システムのモダナイゼーションの必要性やデジタル化は一巡しつつあります。今後注力すべきシステム領域については、見直しが必要になってきています。
従来一般的だった考え方では、システムを戦略領域/非戦略領域に分け、トップライン向上に寄与するシステムを内製化し、非戦略領域はコスト削減のためにアウトソースする、というものでした。
戦略領域とは、主にデジタル化を指していましたが、今やデジタルは当たり前のものになり、いわば苛烈なレッドオーシャンと化しています。周囲に追随していくことは必要ですが、デジタル化はむしろ外部の力を借りていくべき時代になってきています。
今後、内製化を進めるべき領域は、かつて非戦略領域に分類されがちだった基幹システムです。なぜなら、基幹システム=コアは、その会社でしか習熟できない領域であり、どの会社でも同じシステムを入れられるわけではないからです。
コア領域は会社の歴史を背負っており、人材も自社でしか育成ができず、中途採用の社員がすぐに対応できるものではありません。そのような状況でありながら、コアを支える人材の処遇は、全般的に言ってあまり良いとは言えません。
座談会では、むしろコア領域の人材こそ処遇を改善し、自社の人材育成に取り組むべきではないか、という提言がなされました。
人の変革:IT人材にとって魅力的な環境に
コア人材に対する処遇が良くなく、高齢化も進む中で、コア領域からの人材流出が進んでいます。「モノの変革」で触れたように、コア領域を内製化して自社で人材育成するためには、コア人材に対する処遇を大幅に改善し、流出を食い止める必要があります。
以下は、コア/デジタル/非戦略の3つの領域に分けて、人材の処遇や特徴、今後の需要を整理したものです。
現在、デジタル人材の処遇は高いものの、飽和傾向にあり、今後にかけて需要は減少していくと考えられます。IT人材からするとデジタルは魅力的なキャリアというイメージがありますが、競争が激しく、この領域で生き残っていくのは容易ではありません。
一方、コア人材については、技術が古く、ネガティブなイメージを持たれることが多いものの、今後も基幹系システムを見ていく上で需要は高まっていきます。モダナイズするにしても、クラウドに載せるにしても、いずれにしても現状を理解しているコア人材の存在は不可欠であり、きわめて貴重です。
既存のコア人材の特徴としては、金融機関のITを変えたいという思いを持った人が多いことが挙げられますが、3次オンライン時代を経験したシニアな人材であっても処遇が低く、流出が続いています。
また、より処遇の良いところに転職したり、技術継承ができずに定年を迎えてしまう人も増えています。そして若手の場合は、自分より上の世代の処遇を見て、将来のキャリアに失望して流出してしまうケースも見られます。
一方、ミドル層については全体的に流出が少なく、もともと転職市場に人が少ない層になります。その理由としては、既に会社で重要な役割を担っていたり、このまま今のキャリアを走り抜けたいと思う人が多いからだと考えられます。
こうしたミドル層の多くが会社に留まっているのは救いだと言えますが、必ずしも全員がPMと呼べるようなスキルのある人材ばかりでなく、ベンダーマネジメントがメインになってしまっている人も少なくないのは注意すべき点です。
組織の変革:受け身の組織から「モノ言うIT」へ
ありがちなIT組織の構造として、ビジネス・企画に隷属し、SIerに既存しているIT組織が少なくありません。しかし、SIerはスコープに定義されたことだけを対応するケースが多く、本当に金融機関のITが進むべき方向に向けて提言できていることは多くないと考えるべきでしょう。
今後目指していくべきIT組織の姿は、ビジネスや企画に対しても提言していく「モノ言うIT組織」になり、内製化によってシステム構造の理解と見積り能力を獲得すること。そうすれば、SIerの提案に対しても、本当にやるべきかどうか、自分たちで判断しながら選定・牽制できるようになります。
また、座談会ではIT組織に「拒否権」があることも重要だという指摘がありました。今、多くの金融機関には膨大なシステムがあり、中には使われていないシステムも多々あります。システムは一度作ると保守が必要であり、人材の世代交代や流出の中で、今のままではシステム資産を守れなくなる、という問題も迫ってきています。
ビジネスや企画の部門がコミットできないなら、そのシステムは作らない、不要なシステムを増やさない、という考え方も必要ではないでしょうか。
経営者が率先してIT組織を変える姿勢を見せる
コストセンターとして見られていたIT組織は、ビジネスに貢献できる存在へと変わってきています。これからの金融IT経営者には、守りに入らず、テクノロジーを活用してビジネスそのものを変革しようとする姿が求められます。
経営者のレベルで金融ITやIT組織を変えようという意識があると、IT現場の社員たちもついていきやすくなります。また、経営者が率先して、これからIT組織を変えていくのだという姿勢を見せることは、IT人材が自信を取り戻すことにもつながるでしょう。
金融ITは交通インフラのように、安定稼働が「当たり前」であり、「できていないこと」にフォーカスが当てられがちな傾向がありました。ですが、「できていること」も多く、そちらにも目を向けるべきです。むしろ「できて当たり前」とされてきた基幹システムの安定稼働には、連綿と続く独自のノウハウがあり、会社や事業固有の知見が詰まっていることを改めて見直すべきです。
今回のウェビナーは座談会という体裁上、様々な意見を交わし合う場となりましたが、コア領域の内製化の必要性や、コア人材の重要性を改めて認識すべきだという点は、すべてのメンバーが一致する見解となりました。
その他、IT現場を見てきたエキスパートならではの話も入り交じる座談会となりましたので、ご興味をお持ちの方は、ぜひウェビナーのオンデマンド版もご視聴いただければと思います。
今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。本記事の内容は、オンデマンド視聴可能なウェビナーでより詳しく紹介しております。ハンズオン資料のご提供ほか、豊富な図版を交えた説明、視聴者からのQ&Aを含む約60分の映像コンテンツとなっておりますので、ぜひご視聴ください。
アクセンチュア金融サービス本部ウェビナー第58回のご視聴はこちら。