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社会情勢の変化とテクノロジーの進化が進む中、グローバルの保険業界では新たなイノベーションが生まれ続けています。今回の金融ウェビナーでは、アクセンチュアがQorus(旧Efma)と共同で開催している「Innovation in Insurance Awards2022年度の受賞結果を紹介しながら、保険イノベーションの潮流を読み解きました。そして、世界的なインフレーションなどの大きな社会変化が起きている2022年の状況を踏まえ、今後起こりうる大きな変化についても議論しています。

世界の優れた保険イノベーションを表彰するアワード

Qorus1971年に複数の銀行と保険会社によって設立されたグローバルな非営利組織であり、133カ国、120を超える金融メンバーが参加しています。EfmaEuropean Financial Management Association)の名称で認知されていた方も多いと思いますが、2022年に名称変更とリブランディングを行い、グローバルコミュニティとしての立ち位置を一層強化しました。

Qorusとアクセンチュアは、グローバルでの保険産業におけるイノベーション促進を目的としたコンペティション「Innovation in Insurance Awards」を毎年開催しています。2022年のアワードでは、44カ国、398のイノベーション、251の企業・団体からの応募があり、7つのカテゴリーにおいて受賞企業が決定しました。

「ヘルスケアを中心とした社会インフラ」へと進化するDiscovery

2022年度、もっとも革新的な保険会社を選出する「Global Innovator」を受賞したのは南アフリカのDiscoveryでした。Discoveryはこの数年、継続的に「Global Innovator」に選出され続けています。

それではDiscoveryのどのような点が傑出しているのでしょうか。Discoveryの本年度のアワードノミネーションの取り組みとしては、在宅医療ソリューション「Discovery Hospital at Home」、健康寿命リスクスコア「Healthy Futures calculator」、道路インフラメンテ支援「Pothole Patrol」、COVID19ワクチン支援「Vaccinating a Nation」の4つがあります。

Discoveryは健康増進プログラム「Vitality」によって、人々の行動変容に着目した保険イノベーションを創出。南アフリカで最大の在宅医療プロバイダーになり、さらにはテレマティクスを用いた自動車保険、中小企業向け保険、さらには銀行業にも進出し、今や南アフリカを中心に「ヘルスケアを中心とした社会インフラ支援企業」となりつつあります。

同社は行動変容プログラムをキーに保険・金融事業を拡大していくとともに、そこで培ったネットワークやデータを活用しながら他事業を展開し、保険企業を超えたデジタルカンパニーとして事業領域を拡大しています。

今後予想される保険業界の大きな変化とは

全カテゴリにおける今年度の傾向としては、2021年度と比べて大きなトレンドの変化はないものの、ヘルスケア関連・サステナビリティ関連のノミネーションが3040%増加していました。

また、今後はイノベーショントレンドが大きく変わっていくと考えられます。その理由としては、全世界的なインフレーションとそれを引き起こしている資源獲得競争、地政学的リスクによるサプライチェーンの変動、長期的な資産形成ニーズの高まり、高齢化、Web3や量子技術といった新技術の本格活用などが挙げられます。

次に予測される保険イノベーションのトレンドとしては、「サプライドリブン経済圏」、「フルライフエコノミー」、「DeFi型の相互扶助」がキーワードとして考えられます。

まず「サプライドリブン経済圏」について、インフレーションや資源不足などによって、供給サイドがリードする経済圏にシフトしていくことが見込まれます。もともと長期的に資源・コモディティ価格が上昇を続けていたところ、昨今の情勢によって、さらに状況が悪化する恐れがあります。資源の投入量や廃棄量を抑制しながら資産を有効活用する重要性は、ますます増していきます。製造業が直接的な影響を受けるものの、循環型経済やサプライチェーンへの保険の組み込みなど、保険会社も対応していく必要があるといえます。

次に「フルライフエコノミー」の事例では、中国平安保険がデジタルを活用した高齢者向けのヘルスケアサービスを展開しています。COVID19を契機に成長したオンライン診療サービスの「平安グッドドクター」に加え、在宅医療、介護といったフルライフサイクルのサービスの提供を開始。なお、Discoveryもシニア向けサービスの「Vitality 65+」を展開しており、保険を起点にしたヘルスケアサービスは今度も広がっていきそうです。

そして「DeFi型の相互扶助」について、Web3などのテクノロジーをベースにしたDeFiが保険業界でも進展しており、洪水や干ばつをイベントとしたブロックチェーンを活用したパラメトリック保険や、参加企業が暗号通貨を介して従業員のスマートコントラクトに保険料を支払うDAO型失業保険などが生まれています。

日本の保険企業も世界的な動向を参考にすべき

さて、ここまで保険イノベーションの世界的な潮流について見てきましたが、日本では国民皆保険制度によりヘルスケア環境が整備されており、またインフレーションも海外ほどではなく、緊急度が相対的に低い面はあるかもしれません。ですが、日本だけが世界的な潮流から留まり続けられるとは言えません。海外企業が環境変化を利用して変革を加速させていくことも予想される中、海外企業の動向も参考にしつつ、自社の取り組みに取り入れていくことが必要でしょう。

今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。

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