このシリーズの記事一覧:
今回のアクセンチュア金融ウェビナーでは、アクセンチュアが年次発行している調査レポート「Technology Vision」の2021年版に基づき、グローバルに見るテクノロジーのトレンドと、そこから読み取れる日本の金融機関への示唆を紹介します。今後の成長を展望するうえで必要となる、金融機関のリーダーが持つべき課題意識やコロナ禍においても収益率を向上させている企業の取り組みの解説などで構成されています。
テクノロジーで成功する企業を率いるリーダーとは
アクセンチュアでは20年にわたって、世界各国の大手企業のエグゼクティブやIT責任者を対象としたアンケート調査を実施し、今後3年間のテクノロジーの変化や方向性を見極める調査レポート「Technology Vision」を年次で発行しています。
2019年のレポートは「ポストデジタル時代の到来:次への備えはできているか?」と題し、すでに企業よりも一般市民の日常の中にデジタルが組み込まれている社会の実情を強調し、多くの経営者を驚かせました。
新型コロナウイルス感染爆発の前に公開された翌2020年のレポートは「ポスト・デジタル時代を生きる:企業が『テック・クラッシュ』を乗り切るには」として、生活者(消費者)とエンタープライズ企業の間のギャップやひずみを「テック・クラッシュ」と表現しています。その課題を乗り越える方法として企業が「テクノロジー企業」へ変化することと、それを先導するCEOもテクノロジーに深い理解を持つ「テクノロジーCEO」であるとして掘り下げました。
2021年版のタイトルは「熱望されるリーダーとは:変化を捉えて主導すべき時」。企業の最前線で活躍しているリーダーたちが、自ら“変化の達人”となることの重要性を説いています。
その証拠といえるのが、テクノロジー活用の先行企業(リーダー企業)と出遅れた企業の収益の成長率の格差が広がっているという事実です。先行企業はコロナ禍でも成長し続けており、両者の格差は5倍にも広がっています。この差は今後ますます広がっていくと予想されます。
変化の達人になるための3ステップ
リーダーが変化の達人が目指すのはイノベーションの創出です。しかし、一足跳びにイノベーションへと到達できるわけではありません。不確実な状況である今日の経営環境でこそ、以下の3ステップが重要であるとTechnology Vision 2021は紹介しています。
l Fortify:基盤の要塞化
l Extend:戦略の拡張
l Reinvent:未来の再発明
2021年の5つのテクノロジートレンド
Technology Visionでは毎年、調査から導き出された示唆を「トレンド」として定義しています。
Technology Vision 2021では、以下の5つのテクノロジートレンドが示され、トレンドを豊富な事例で解説すると共に、従来とは異なるタイプのリーダーの必要性とそのペルソナとなる具体的な人物を提唱しています。(本レポートでは事例紹介は割愛しています。ぜひWebinarをご視聴ください)
Trend 1 Stack Strategically
テクノロジーの戦略的集積:アーキテクチャが未来を決定づける
組織やシステムのアーキテクチャを明確にし、テクノロジー戦略を制するリーダーの必要性をトレンド1では強調しています。
- Fortify:適応性の高い技術基盤を固め、来るべき変化に備える
- Extend:技術戦略と事業戦略を拡張し、競争優位を獲得する
- Reinvent:競争を超えて、デジタル体験の意義そのものを再発明する
こうした必要性を満たすために求められるリーダー像は、「“人”を中心に未来像を描き、技術要素を取捨選択できるリーダー」です。そしてそのペルソナは、ディー・エヌ・エーの南場智子氏であると考えられます。南場氏はエンジニアのモチベーションと創造力が自社の競争力の源泉と捉え、AWSによるクラウド完全移行を決断しました。
リーダー自身がエンジニアである必要はありません。大切なことはチャレンジや創造性を発揮できる環境を求めるエンジニアを自社の資本と考えている点、そしてテクノロジーをテコとして自社を成長させる未来を描き、実行した点にあります。
Trend 2 Mirrored World
ミラーワールド:インテリジェントな巨大デジタルツインが戦力に
工場や都市といった構造物だけでなく、天候や流通、人までをもバーチャル空間で再現するデジタルツインの集合体(または拡張版)がミラーワールドです。あらゆる可能性をシミュレートし、未来を変革する力に変えることがトレンド2の示唆となっています。
- Fortify:強固なデータ基盤を築き、予測結果の信頼性を高める
- Extend:ノーリスクなシミュレーションを繰り返す
- Reinvent:ミラーワールドを変化の中核に据える
見通せない未来をいかに作るか。リアル世界で起こりうる全ての可能性をシミュレートするには「特定の特殊状況 × 別の特殊状況」の掛け合わせによって得られる合成データの活用が不可欠です。データには、透明性と信頼性の担保が重要だとしている台湾のオードリー・タン氏がTrend 2のペルソナとなるリーダーです。一般市民の信頼を勝ち得るには、リーダー自身がデータの力を信じ、他者へ伝えられることが大切です。
Trend 3 I, Technologist
一人ひとりがテクノロジスト:テクノロジーを民主化する
テクノロジーは民主化され、今では誰もがDXを推進するイノベーターになれる時代です。ノーコード/ローコードプラットフォームは非エンジニア人材にも開発への扉を開きました。しかしその先にはカオス化の落とし穴が待ち構えています。草の根DXを持続可能な仕組みへと昇華しなければなりません。
Fortify:ガバナンス機能を備えたDX基盤を構える
Extend:非IT社員にIT教育を施し、DXに向けた戦力を拡大する
Reinvent:現場主導のDX改革におけるIT部門の役割を再考する
これらの取り組みによって、初めて持続可能な分散・自立型DXの土壌が実現します。ペルソナとして挙げられるのはノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の創設者、ムハマド・ユヌス氏です。草の根からテクノロジストが生まれる土壌を創る、エバンジェリストとしてのリーダーが求められています。
Trend 4 Anywhere, Everywhere
あらゆる場所が仕事場に:自分の環境を持ち歩く
在宅勤務への移行は、コロナ禍による一過性のものではなく、働き方に関するカルチャー変革となります。具体的には、リモートワークとオフィスワークのハイブリッドのワークスタイルが浸透するでしょう。パンデミックをチャンスととらえ、会社の文化を適合させる取り組みが重要です。
Fortify:新しい仕事場は、パンデミックの暫定対応から恒久的戦略へ
Extend:新しい仕事場を、新たな機会としてとらえるべき
Reinvent:新しい仕事場に文化を適合させるべき
こうした企業文化そのものを変革するには、さまざまな「新しい働き方」をまとめあげることのできるリーダーが求められます。それはいわば、OSSコミュニティのリーダーのようなものであることから、このトレンドのペルソナはLinuxカーネルの最終的な調整役として、自らを「優しい独裁者」と位置付けているリーナス・トーバルズ氏が当てはまります。
Trend 5 From Me to We
「個」から「全体」へ:マルチパーティシステムがカオスの突破口に
コロナ禍は様々な影響を社会へもたらしましたが、企業にとっては既存サプライチェーンに特に大きな被害が生じています。90%以上のエグゼクティブがプラットフォーム依存からの脱却、つまり「マルチパーティシステム(MPS)」の創造による自立共生型のエコシステムを志向していることがわかりました。
Fortify:クラウド変革が参画の入場料
Extend:MPSによるパートナーシップの変革
Reinvent:新しい価値観の提案
MPSは循環サプライチェーンで小規模生産者に貢献するほか、持続可能性の取り組み、倫理的経済活動にもコミットするWin-Winのモデルです。このような要請に応えているリーダーのペルソナは、自己組織的に再現・拡大可能な仕組みをデザインしているTEDです。
これら5つのTrendから導き出されるリーダー像は、「自由と制約による多様性を持たせて、自律的な創発は起こる仕組み」を作り出せる存在であるといえます。言い換えるならば、変化に即応できる仕組みを作ることで、不確実で見通せない状況をチャンスに変えられるリーダーこそが、これからのビジネスで熱望されているのです。
次世代の金融機関に必要な「メイヤー型リーダー」
では金融機関のリーダーはどのように変わっていけばいいのでしょうか。まずテクノロジーのより深い理解に努めるほか、テクノロジーを自社のビジネスの中核に置くことが重要です。ヒト・モノ・カネに並ぶ第4の経営資産がテクノロジーです。
また、従来のリーダーはパワフルに仕事の成果を出し続けられるヒーロー型が多く、組織の強力な牽引者でもありました。しかしこれからのリーダーには「自己否定できる力」と「順応する能力」が必要です。そのモデルはいわば「メイヤー(村長/市長)型リーダー」だといえます。
メイヤーは場づくりを行い、コミュニティを運営します。自社に優秀な人材(タレント)が集まるよう創意工夫をすることはもちろん、獲得した人材が積極的に行動でき、自ら思考しながらクリエイティビティを発揮して新しい価値を創造できるよう、環境整備による支援の展開がメイヤーの役割です。そのようなリーダーが熱望されているのです。
本ウェビナーでは、Technology Vision 2021で紹介されている事例も詳しくご紹介しているほか、これからのビジネスで求められるリーダー像についてのより深い示唆をご提供しています。