Other parts of this series:
社会情勢の先行き不透明感の高まりや市況の変化等により、かつて金融業界の花形であった投資銀行ビジネスは転換期を迎えている。
ChatGPTを始めとするGenerative AIは、投資銀行バンカーの仕事の多くを代替可能と想定され、バンカーにとって脅威である。
一方、上手く活用することでバンカーの能力を拡張するとともに、顧客に寄り添った情報収集支援が可能となるとも想定される。
本稿では、投資銀行ビジネスにおけるGenerative AIの可能性や、導入において留意すべき事項を考察していきたい。
1. 転換期を迎える投資銀行ビジネス
2023年7月19日、ゴールドマンサックスが発表した2023年4~6月期決算において、純利益が前年同期比58%減の12億ドル(約1680億円)という大幅な減益となった。シティグループやモルガン・スタンレーも前年同期比で減益決算となっている。各社に共通する減益の原因は、投資銀行ビジネスの不振である。ロシア・ウクライナ戦争等による先行き不透明感の増大や、欧米中央銀行による急速な利上げ、規制強化によるIPO件数の急減、M&A活動の停滞等、投資銀行ビジネスには逆風が吹いている。
そのような状況の中、モルガン・スタンレーはウェルス・マネジメントビジネスを強化し収益を改善しておりマーケットからの高い評価を得るなど、投資銀行以外に収益源を見出す企業も多い。
また、弊社の調査では、過去10年に亘る投資銀行ビジネスのコストインカムレシオは60%を超える水準で高止まりしており、人件費を中心としたコスト削減圧力も強い。
このままでは、かつて花形と言われた投資銀行の輝きが失われかねない。
更に、ChatGPTに代表されるGenerativeAIの登場は、上述の潮流に拍車をかけている。
投資銀行ビジネスは、高度な専門性を持つバンカーが、常にクオリティの高いアウトプットを出すことで支えられてきた。
しかしながら、Generative AIにより、現状のバンカー業務の大部分が代替される可能性がある。労働集約的なバンカーの価値も危機にさらされていると言わざるを得ない。投資銀行ビジネスが金融業界におけるトップレフトであり続けるためには、従来のモデルからの脱却が必要である。
2. 投資銀行におけるGenerative AIの可能性
上述のとおり、Generative AIは投資銀行バンカーにとって脅威である一方、活用方法次第ではバンカーの価値を向上する追い風にもなり得る。ここで、投資銀行ビジネスにおけるGenerative AI活用の可能性について考察していきたい。
(Generative AIの詳細はVol.70 2023年夏号「証券業界でのGenerative AIの活用余地~Generative AIの可能性とリスクの理解」を参照)
➀バンカーの能力を拡張するAI(図表1)
投資銀行バンカーは、顧客への提案にあたり、業界動向・顧客企業情報や過去往訪履歴等、様々なリサーチを行う必要があるが、多くの企業でこのような情報は散在している上、顧客やシニアバンカー向けに情報を取り纏める必要があり、ジュニアバンカーを中心に大きな負担となっている。GenerativeAIと情報ソースを連携することにより、AIが上記の情報収集・取り纏めを代行し、必要な要員リソースの大幅な削減が見込まれる。
また、バンカーと顧客のコミュニケーションが必要と想定されるタイミングで、Generative AIからアラートを通知し、バンカーの日々の情報収集することにより、顧客向けのアドバイザリー業務を高度化することも可能となる。
例えば、担当セクター/プロダクトに関するアップデート情報の提供、M&A候補先の新規追加時のアラート通知、顧客ニーズを検知した際のメールドラフトの作成支援により、バンカーとAIがタッグを組んで顧客アプローチを行うことにより、バンカーの顧客対応力を増強することができる。
➁顧客に寄添い情報収集を支援するAI(図表2)
投資銀行ビジネスは高度な専門性が求められることから、顧客における情報収集負荷も大きい。
従前は都度バンカーに問い合わせる必要があったが、法人顧客向けに自社の情報ソースと組み合わせたAIを開放することにより、顧客自らが情報にリーチできる環境を提供することが可能になる。必要に応じ、担当者とのチャットやアラート等でリアルタイムなフォローを行うことで、顧客満足度の向上を図る。
例えば、サスティナブル・ファイナンスやSTO等の新たな資金調達の考え方やリサーチレポートのレコメンド、セミナーにおける質疑応答の等、これまでバンカーが逐次提供していた情報もAIが直接顧客に提供することが可能となるであろう。
他方、Generative AIの信頼性・正確性の担保は難しいため、情報ソースを確かなものにすることや、AIでの回答が難しい内容はバンカーにトスアップする等、慎重な運用が求められることは留意が必要である。
3. Generative AIの価値を最大化するために
上述の通り、投資銀行ビジネスに大きく寄与すると想定されるGenerative AIであるが、導入に際しては留意すべき点も多い。
第一に情報漏洩の防止である。例えば、一般公開されているChatGPTは入力データを自己学習に利用しており、実際に情報漏洩事案も発生している。情報漏洩を防止するため、自社内のクローズドな環境下に構築することが必須である。
また、アウトプットの不正確性(虚偽の情報・バイアス)や倫理違反(差別・偏見・ステレオタイプを含む不適切な表現)、著作権/プライバシー侵害(所有権、著作権など権利許諾のないアウトプットの生成)にも注意が必要である。
加えて、Generative AI単体では効果が限られているため、画像認識AI・検索AI等、他のAIエンジンや、CRMシステム、ナレッジ共有基盤などの社内外データソース、RPA等の自動化ツールと組み合わせることが重要である。
弊社では、既に社内のクローズド環境で利用可能なGPT環境を構築・運用している。また責任あるAI原則のトレーニングを通じて、Generative AIにおけるリスクの低減を図っており、クライアント各社への導入時に知見を活用可能である。
また、Generative AIと他テクノロジーの組み合わせを実現する基盤として、AI HUBプラットフォームを提供している(図表3)。AI HUBプラットフォームは、その時々でベストと思われるAIエンジンへの乗り換えを容易にし、プラットフォームを経由してきたすべてのデータを蓄積。そのデータを活用して学習を繰り返すことで、サービスを継続的に進化させることのできる仕組みを実現する。
AI HUBプラットフォームを活用することで、ChatGPTを始めとした大規模言語モデル(LLM)や画像生成等の生成系AIと機械学習モデルを、セキュリティを担保しながら組み合わせて、自由にAIサービスを構築することで、ビジネス課題を解決することが可能となる。
4. おわりに
AIで変革を実現していくためには、AIのスペシャリストだけでなく、あるべき業務のビジョンを描きそこに向かってプロジェクトを推進するコンサルタント、人間の感性に訴えるデザイナーがチームを組んでサービス開発を進める必要がある。
弊社は、投資銀行におけるビジネス・システム両面のプランニングからシステム導入、運用に至るまで多くの支援実績を有しており、Generative AI活用要件の策定から実際のシステム構築、及び運用までEnd to Endでの支援が可能である。
Generative AIを活用した投資銀行ビジネスの変革を、パートナーとして共に推進していけると幸いである。
※FSアーキテクトは、金融業界のトレンド、最新のIT情報、コンサルティングおよび貴重なユーザー事例を紹介するアクセンチュア日本発のビジネス季刊誌です。過去のFSアーキテクトはこちらをご覧ください。