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証券売買手数料の低下、インターネット証券の台頭、主要顧客層の高齢化、次世代顧客層の増加などを背景に、現在の証券リテール業界は新たな変革が求められる時期に差し掛かっています。
今、証券リテール業界ではどのような変化が起きているのか。未来を見据え、どのような方向に変革の舵を切っていくべきなのか。今回の金融ウェビナーでは「証券リテールビジネスの未来〜金融機関に求められるアクション」と銘打ち、今後の展望や日本の金融機関に対する示唆について解説しました。
マーケット、競合、顧客から見る証券リテール業界の現在地
証券リテール業界における現在の変化について見ていきます。
まずマーケット環境では、コミッション収益率の低下という大きなトレンドが継続している一方、「手数料に不満がある」という顧客の割合は42%にものぼります。金融機関に対しては、手数料に見合う「質」の向上が求められていると言えるでしょう。
また、日本では家計資産のうち約4割が70代以上に集中していますが、社会の高齢化に伴い、これから次世代への大きな資産移転が起こることは人口動態から見て明らかです。
日本の富裕層のバランスシートの特徴は、自社株や不動産が多くを占め、流動性が低いこと。そして相続税率が高いため、可視化されていない「見えない負債」を抱えていることが挙げられます。経営する事業や資産の承継に悩んでいる富裕層は多く、既にアプローチしている金融機関はあるものの、さらに深堀りする余地はあると考えられます。
次に競合環境について、近年はネット証券の台頭がめざましく、顧客からはオンラインと対面を併用するニーズが大きくなっています。直近の証券口座増加数のうち、ほとんどはネット証券です。
「若者はオンライン、シニア層は対面」というイメージがあるかもしれませんが、現在の40〜50代もデジタルに親しんでおり、大半がネット証券を利用しています。また、60〜70代以上についても、50%前後がネット証券を利用しており、「シニアは対面証券を求めている」とは必ずしも言えないのではないでしょうか。
アクセンチュアは「アクセンチュア・ウェルス・マネジメント・サーベイ」として、個人投資家を対象にした定期的なアンケートやインタビューを実施しています。そのサーベイ結果によると、50%前後の富裕層は担当者とのコミュニケーションにおいてオンラインと対面の併用を望んでいることが明らかになっています。
ここで着目したいのは、60代以上でも約半数はオンラインを希望している点です。現在のシニア層は当たり前にインターネットを使う世代であり、オンラインを活用したサービスを提供することは欠かせません。
また、証券会社からのアドバイスを期待している顧客は40〜50代で63%、60〜70代で72%と多いものの、そのうち、実際に十分なアドバイスを受けている人の割合は半分以下となっています。この結果からは、顧客にとってアドバイスを受けやすい環境が整っていないことが見て取れます。
変革の柱・その1「アドバイスモデルの変革」
この先、2030年を見据え、証券リテールビジネスはどのような方向性に変革していくべきなのでしょうか。アクセンチュアは、以下のように変革の「柱」を定義しました。ここでは要点を抜粋して紹介いたします。
まず「アドバイスモデルの転換」については、アドバイス高度化に向け、営業体制を転換することが考えられます。これまでは各営業担当者が各々の裁量で顧客にアプローチする「支店営業モデル」がメインでしたが、品質のばらつきをなくし、質の高いアドバイスを提供するため、デジタルアドバイザリープラットフォームを介してトップレベルの知見をOne to Many型で広く展開していく「組織営業モデル」への転換が重要になります。
一方で、証券リテールビジネスにおいては、最終的に「人」の介在が重要な決め手になるケースも依然として残ります。顧客のニーズをパターン化し、業務プロセスをデジタル化しながらも、超富裕層などの顧客に対してヒューマンリソースをシフトする動きも有効です。
変革の柱・その2「360°ウェルスプランニング」
次に「360°ウェルスプランニング」についてですが、金融機関は顧客の多様なニーズに対して包括的にサービスを提供していくことが求められています。
個別証券の取引や中長期の分散投資といった従来の取り組みだけでなく、資産承継やローンなども含めた資産に関する包括的な提案や相談が求められている状況に対して、すべてを社内で行うことにこだわらず、外部企業とのアライアンスも活用しながら関係性を築いていく道もあります。
変革の柱・その3「次世代富裕層の獲得」
「次世代富裕層の獲得」については、顧客像を正しく理解し、アプローチしていくことが必要です。次世代富裕層に対しては、対面とオンラインのハイブリッド型のアドバイスが主流になると考えられます。
オンラインで済ませたい場合はオンラインで、人に相談したい時は対面でといったように、タッチポイントを「選びたい」というニーズは今後ますます広がっていくでしょう。
変革の柱・その4「抜本的な人材改革」
「抜本的な人材改革」は、当然ながらすぐに実現できるものではありませんが、喫緊の課題として捉えている金融機関は少なくありません。組織体制、風土・カルチャー、人材・スキル、リーダーシップなど多様な面における取り組みが求められます。一例として、マネジメントの道だけでなく、アドバイザーとして専門性を磨き続けられるキャリアパスの設定などが挙げられます。
ある外資系金融機関では、1年以上にわたる社内資格プログラムを創設し、修了しなければ顧客を担当できないなど、品質の底上げに取り組んでいます。日本企業の人材育成においては、きめ細やかなスキル定義・認定、トップアドバイザーから学べるOJTなどに改善の余地があるのではないかと考えられます。