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40回目となる今回の金融ウェビナーは新年特別企画として、金融サービス本部の統括本部長である中野将志のほか、銀行・証券・保険の各分野を統括するマネジングディレクター3名が集まり、2022年の金融業界の動向について解説を行いました。
まず2021年までの金融業界を振り返ると、デジタルの活用は当たり前のものになりましたが、企業やグループ全体で見た時の顧客体験はいまだに分断されているのが現状です。
また、金融業界を取り巻く環境が大きく変わる中で、自らの存在意義を再考するパーパス経営への関心の高まりや、新しい金融サービス創出への取り組み、イノベーションに向けた人・組織・文化の変革も進んできました。「脱レガシー」と呼ばれる金融業界のコアシステムであるメインフレームからの脱却も徐々に本格化に向かっています。
さて、こうした流れを踏まえて、2022年は金融業界にとってどのような展開が予測されるのでしょうか。銀行、証券、保険業界それぞれについて見ていきます。
銀行業界:パーパスの再考と脱レガシーの試み
混乱期のさなかにある銀行ビジネスは、依然として厳しい状況下にあります。従来の銀行の枠組みに限界が近づいている中、将来に向けて自らの存在意義(パーパス)を再考する動きは、より一層求められるようになるでしょう。
銀行の存在意義を再考する上では、二つの立ち位置が考えられます。まずは銀行というモデルをさらに磨き上げる「BaaS(Banking as a Service)モデル」が挙げられ、既に様々な銀行で取り組みが始まりつつあります。一方、まだ実例は少ないものの、顧客からの信頼や情報でアドバンテージを持つ銀行が世の中の課題解決の前面に立つ「トラスティッド・アドバイザーモデル」という立ち位置も考えられます。
また、銀行でも主にフロント領域でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んできましたが、2022年はコアであるメインフレームのシステムからの脱却、つまり「脱レガシー」に着手する企業が増えていくでしょう。
脱レガシーにおけるキーワードは、「顧客体験」「情報価値」「オープンバンキング」の3つ。顧客体験の時代である現在は、UI/UXや顧客サービスなどは基幹系の外に置き、柔軟かつ一貫した顧客体験を提供することが必要です。また、システムの役割もSoR(記録重視)からSoE(顧客とのつながり重視)へと変わり、勘定系は記帳・決済に特化したシンプルな“基幹系”に変わっていくべきでしょう。
そして、こうしたパーパスの再定義や脱レガシーに取り組む上では、企業文化の変革も欠かせません。銀行ビジネスのイノベーションは、もはや個別の部門だけが担う課題ではなく、企業やグループ全体としてイノベーティブな企業文化を醸成する必要性が高まっていきます。
証券業界:ESG投資とSTOビジネスの拡大
証券業界における注目トピックは、ESG投資への関心の高まりとSTO(SECURITY TOKEN OFFERING)ビジネスの拡大です。
アクセンチュアの調査では、富裕層・マスアフルエント層の5割が何らかの社会貢献に関わりたいと考えており、そのうち7割強はESG投資や寄付などの資金支援を通じた社会貢献を希望しています。しかし実際にESG投資を行っている富裕層・マスアフルエント層は7.4%市香りません。理由としては、運用商品や投資先をESG観点で評価するための手段や情報提供が不十分であるという声が多数あがっています。
海外のオンライン証券では顧客目線の銘柄選びをサポートする指標として、情報ベンダーからのデータを元に銘柄毎の独自のESGスコアを提供しており、投資家から支持されています。ESGデータは証券バリューチェーンの中で販売から、ポートフォリオ分析、マーケティングまで幅広く活用できるデータであり、エンタープライズシステム全体で共有可能な基盤を構築することが、データ活用の基礎となってくると考えています。
STOビジネスにおいては、2020年と2021年に法改正が行われた結果、本格的なビジネス拡大に向けた要件が整ってきています。2022年春には法的要件を満たしたSTOプラットフォームの整備が進み、STによる取引は活性化していくと考えております。また、今後2年~3年先を見据えるとセカンダリマーケットの活性化、クロスボーダー接続、デジタル通貨による即時決済など様々な変化予想されています。
こうしたSTOビジネスの状況を踏まえ、アクセンチュアはブロックチェーン技術の豊富な知見を生かし、STOソリューションを開発中です。規制のサンドボックス制度を活用した特例措置の認可を取得予定であり、マルチクラウドやデジタル通貨の決済なども見据えた、各社の戦略に合わせた高い拡張性を担保します。
保険業界:パーパスを起点にした新たな価値の創出
続けて保険業界のトレンドと展望です。保険ビジネスにおいては、世界に存在するリスクを社会のニーズと捉えることができます。そこで世界経済フォーラムにおけるリスクレポートを整理すると、気候変動や自然災害に対する防災、IoTセキュリティ対応やAI倫理、自動運転などの普及支援、より深化・ニッチ化した引き受けといったといったニーズが高まっていることがわかります。
こうしたニーズから顧客目線に移ると、ピア・ツー・ピア(P2P)の保険、自動運転保険、パラメトリック保険、資産形成、インサイドビジネスなどのシーズが浮かび上がってきます。本格的なIoT時代の到来による深化した顧客データの収集、メタバースを活用したOMO販売チャネル、NFTによるスマートコントラクトなど、2022年以降は、これまで体験したことのない技術革新を体験する10年となるでしょう。
産業構造や保険会社のあり方が変わってきている中、企業価値を伸ばすためには何が必要なのでしょうか。まず重要なことは、銀行と同様、自らの存在意義=パーパスを再定義すること。なぜなら、新しい商品・サービスを世に出していくには、「なぜこれが社会に必要なのか」と都度立ち返る必要があるからです。そして、パーパスを実現するためのシステム・人材・組織の変革、データの活用、筋肉質な企業体質への変化を実現していきます。
アクセンチュアは幅広いケイパビリティを最大限に活用し、パーパスの再定義からその後の変革までを一貫して支援しています。
金融業界の混乱期をどう乗り越えていくか
ここまで見てきたように、銀行・証券・保険のいずれの業界においても変化は加速しています。
金融業界においてもパーパス経営が必要とされている背景には、それだけ先の読めない混乱期にあると言うことができるでしょう。また、かつての金融機関は安定期が長かったということも、迅速な変化が求められる現在の状況においては弱みに転じています。ビジネスそのものを変えていこうという際には、やはり自らの存在意義=パーパスから問い直し、コアシステムや人・組織・文化の変革に取り組むことが必要なのです。