このシリーズの記事一覧:
保険という商品を顧客起点で再構築すると、どのようなカタチになるのでしょうか。2021年11月、イーデザイン損害保険株式会社(以下、イーデザイン損保)がスタートした新しい自動車保険「&e アンディー」は、まさにその好例といえます。「事故のない世界」を目指すという、今までにない保険商品でありながら、1年半という短期間でローンチにまで漕ぎ着けたことにも驚かされます。
今回の金融ウェビナーでは、イーデザイン損保の取締役社長である桑原茂雄様とCX推進部の安藤愛美様を招き、インシュアテック保険会社への変革の取り組みを紹介しました。
5つのXを実現するインシュアテック保険会社
保険(Insurance)×テクノロジー(Technology)を掛け合わせたインシュアテック。「インシュアテック保険会社とは何か?」という問いに対して、イーデザイン損保の桑原社長は、「5つのXを実現すること」と述べています。
UXとCXを追求しようとすれば、デジタルを駆使してビジネスを変えることが必要になり、自然とDXへ移行。そして一気通貫の変革を実現しようとすれば、人・組織・経営を変革するMX(Management Transformation)が必要になります。
さらに、お客様が本当に求めているものを追求し続けた結果、「事故のない世界をつくる」というパーパスの再定義に至り、自分たちのビジネス自体を変えていくBX(Business Transformation)へとシフトしていくことになります。
なお、ここで挙げられたBXは、奇しくもアクセンチュアの提唱するBX(Business of Experience)と同じ呼び方であり、内容としても非常に近いものだといえます。
「事故のない世界を共創する」というパーパスの再定義
しかしなぜ、イーデザイン損保はパーパス起点に立ち返ろうと考えたのでしょうか。桑原社長によれば、国内の自動車保険マーケットは商品やサービスが同質化・横並びになっており、テレビ広告などの広告投下量による体力勝負に陥っていました。そこでイーデザイン損保は、他社との差別化を図るべく、社会から共感してもらえるブランドになることを目指して、まずはパーパスを再定義するところから始めました。
そして、再定義したパーパスを基に、イーデザイン損保のミッション、ビジョン、バリューも見直しました(上図)。ミッションは「事故時の安心だけでなく、事故のない世界そのものを、お客さまと共創する」です。そして、このミッションを実現するには従来の自動車保険の枠を抜け出す必要があり、「Create a New Standard」というビジョンが生まれます。さらにイーデザイン損保社内で「究極の4シリーズ」と呼ばれている4つのバリューも制定されました。
「事故のない世界」を目指す共創型自動車保険「&e アンディー」
この新しいパーパスから誕生したのが、「事故のない世界」を目指す共創型自動車保険「&e アンディー」です。イーデザイン損保のトップページからもわかるとおり、その世界観は従来の保険のイメージとは一線を画します。
「&e アンディー」は、スマホ上で最短60秒で見積もりが完結するシンプルな操作性、申込みに必要な項目の記入が大幅に削減されるAI画像認識機能、そしてIoTセンサーによる安全運転支援という特徴を持っています。
特に安全運転支援については、世界シェアNo1であるOcto Telematics社のIoTセンサーを国内の保険会社で初導入。手のひらサイズの小型センサーを車内に設置しスマホとペアリングすることで、運転特性を診断します。安全運転を続けるとポイントが貯まり、コンビニのコーヒーなどの商品と交換できます。
また、「事故のない世界」はイーデザイン損保単独で実現できるものではないと考え、他の企業や自治体との共創プロジェクト「Safe Drive With」にも取り組んでいます。Appleとの共創によるApple Watchのモニタリングデータから運転適性レベルを診断する機能のほか、渋谷区や浜松市などの自治体との取り組みも順次進めています。
パーパス起点でプロジェクトに取り組むメリット
ここからはアクセンチュアの視点も交え、パーパス起点で変革に取り組む意義について分析していきます。
従来型の“施策先行型”プロジェクトと比べると、“パーパス起点”プロジェクトの場合は、全員のメンバーが共通のゴールイメージを持ち、顧客体験をベースに全体最適を追求する方法へと変わります。
パーパス起点のプロジェクトが成功した理由について、桑原社長は共通のゴールイメージを持つことの重要性を強調しています。「&e アンディー」の世界観を表現した動画を作成し、アクセンチュアのメンバーに対して動画を共有、IoTセンサーのOcto Telematics社に対しても英語版の動画を作って見てもらうなど、ゴールイメージの共有にこだわりました。
また、自社の社員だけでなくアクセンチュアらのメンバーも交えたウォークスルーを何度も実施し、お客様に理解される言葉になっているか、最適な体験になっているかを徹底的に追求できた点も大きかったと述べています。
テクノロジーの活用という観点においても、パーパス起点であることは大きな意義がありました。「このテクノロジーを使って何をするか」ではなく、大上段のミッションやビジョン、バリューを実現するイネーブラーとなるテクノロジーを検討することで、全体最適な顧客体験を追求することができました。
1年半という短期間でローンチできた理由
事故のない世界そのものをお客様と共創するという、新しい保険の形を追求する「&e アンディー」。顧客起点で再設計されたコアとなる保険そのもの、安全運転プログラム、企業や自治体との共創、そしてオープンでフレキシビリティの高いITプラットフォームという一連のプロジェクトを1年半という驚異的な短期間で完走できた理由は、全員が共通のゴールイメージを持ち、パーパス起点で変革に取り組めたからです。