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新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックを機に、生活者のニーズは想像以上のスピードで変化しています。金融機関が顧客の期待に応えるスピードで商品・サービスを提供するためには、表層的なUI・UX改善に留まらない全社的な変革が求められています。
常に変化していく顧客ニーズに適応しながらビジネスを成長させるため、金融機関は何をすべきなのでしょうか。今回の金融ウェビナーでは、マーケティングのパラダイムシフトや金融機関に求められる顧客志向について、アクセンチュアSongのメンバーが講演を行いました。
CX飽和時代を勝ち抜くためのデザインシステム
CXの重要性は広く叫ばれるようになり、各企業が「顧客体験」や「CX」といったキーワードで取り組みを行っています。しかし、結果として世の中には似通ったエクスペリエンスが溢れ、十分な効果を出せている企業は少ないのが現状です。
陥りがちな課題例を紹介すると、一人の営業職員が顧客を担当している時には、営業職員=企業のブランドという図式が成り立ち、顧客体験や顧客像は一貫していました。しかし、顧客チャネルが増えていく中で、複数の所管部署が顧客に向き合うようになり、顧客像は部署によってバラバラに。顧客からすればバラバラのコミュニケーションを受けることになります。
CXにおいて重要なことは、どの顧客チャネルからコミュニケーションされても、ひとつのブランドだと感じられることです。そのためには、すべてのチャネルで顧客像を統一し、長期的な関係性を築いていくこと。そして一貫したブランド体験を提供していくための仕組みが「デザインシステム」です。
デザインシステムは、デザインのガイドライン、ガイドラインやモジュールを誰もが参照できるシステム、そして組織や運用体制のガバナンスというみっつのコンポーネントで構成されています。
例えばウェブサイトのデザインにおけるボタンひとつを取っても、バラバラのチャネルで運用・保守していると、全社視点では膨大なコストがかかっています。数多くのタッチポイントを管理している企業ほどデザインシステムによる恩恵は大きく、プロダクトデザインを行う企業のうち86%が既にデザインシステムを導入しています。
また、デザインシステムはガイドラインやシステムに目が行きがちですが、実はもっとも重要な領域がガバナンスです。システムやツールを整えるだけでなく、組織の中で使い続けていくためには、全社のデザインを統括するデザインマネジメント組織が必要になります。
パラダイムシフトによりマーケティングの構造が変わる
金融業界においては、これまでに総量規制、金融ビッグバンなど数々のパラダイムシフトがありました。そしてマーケティングの領域では、2018年のGDPR(一般データ保護規則)に始まるグローバル規模の法規制により、これから大きな転換期を迎えようとしています。
上の絵はアクセンチュアが作成した風刺画ですが、砂のお城は企業のマーケティングを指しており、GDPRという酸性雨によって崩れようとしています。そしてWeb3やメタバースにより、GAFAやメディアの囲い込みすら崩れていく可能性が出てきています。
事実、2024年にはGoogleがサードパーティのクッキーをブロックする予定であり、現在のようにプラットフォーマーに依存している体制は構造自体から変化することになります。結果として、顧客にリーチできる総量は大幅に減少するでしょう。つまり、顧客と「つながれなくなる」時代がやってくるのです。
こうした中で、マーケティングは生活者と共創するものとしてオープン化に向かうと言われています。金融業界においては、これまでのような顧客番号や取引額といった関係値ではなく、顧客を「生活者」として捉え直す新しいマーケティングモデルに変わっていくことが必要になります。
これから求められる新たなマーケティングモデルは、年数とともに顧客との関係性が「経年優化」していくものです。そして、このような経年優化のモデルに変革していくためのフレームワークとして、既存のAIDMAに代わり、アクセンチュアは「GASPA(ギャスパー)」というモデルを提唱しています。
GASPA(ギャスパー)とは「集める」「動かす」「貯める」「個別化する」「顧客化する」というプロセスをフレームワーク化したもの。GASPAモデルを実行するためには、データ利活用によって各顧客の解像度を高め、顧客とどのようにつながっていくかを個別に考えることが必要です。
GASPAモデルが目指すのは、これまで確立されてきた単一方向のパーセプションフローではなく、顧客との関係性がループを生む循環型のモデルです。顧客との新しい関係性を築く手法として有効なフレームワークになるはずです。
金融機関に求められる“真の”顧客志向とは
冒頭に紹介したように、金融機関が商品やチャネルごとに組織を分けて専門性や効率性を追求してきた結果、顧客目線では過剰な関わり方になっているケースが見られます。
マーケティング全般の潮流が変わりつつある中、金融機関のマーケティングにおいては「真の顧客目線」「真の顧客理解」「真のパーソナライズ」という3つの観点を変革のポイントに置くことが求められます。
真の顧客目線とは、商品やチャネルごとの縦割りの個別施策から脱し、顧客目線で最適な体験を設計し直すことです。一人ひとりの顧客単位でコミュニケーションを管理する体制への転換が必要になります。
次に真の顧客理解とは、顧客接点のデジタルシフトによって獲得するデータの拡充・整備を進め、顧客の行動・状態変化に着目したインサイト分析と施策実施〜検証のループにより、継続的に顧客理解を深めること。既に保有している実績データのみならず、外部データも含めて様々な観点から顧客情報を推定・予測することがこれからの潮流になります。
しかし、一人ひとりの顧客に応じたコンテンツやクリエイティブを人の手で個別に作成することは現実的ではありません。真のパーソナライズを実現するために有効な手法が、AIを活用してパーソナルコンテンツ/クリエイティブを制作〜配信する「AIデザイナー」です。配信後の顧客の閲覧実績を蓄積・評価していくことで、さらに顧客に刺さる最適なコンテンツを配信できるようになっていきます。
今回のウェビナーでは、金融業界の外部へと目を向け、最新の顧客体験の創造に取り組んでいる事例を紹介しました。