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2020年は新型コロナウィルスのパンデミックにより、証券業界のビジネスモデルは大きな転換を迫られた。顧客のデジタルシフト、手数料低下圧力の強まり、ESG投資への関心の高まり、コスト構造の抜本的な見直し等、業界変革の波がパンデミックにより一気に加速した。

弊社はその変革の波を好機と捉え、大胆なスケールとスピード感でこれまでの成長モデルの刷新を図る企業が中長
期的に優位性を持つと考えている。本稿では長期化するコロナ時代の業界変革を見据え、証券業界の主要ビジネスであるウェルスマネジメントとトレーディングにおける2021年の展望を考察したい。

ウェルスマネジメントの展望

ウェルスマネジメントは証券業界における成長領域の一つであるが、今回のパンデミックで大きく影響を受けたビジネスでもある。今回のコロナ禍により顧客アドバイスは対面からデジタルに大きくシフトした。さらに、株価が乱高下する先行き不透明な投資環境において投資家のアドバイザーに対する期待値は高まり、自己判断を遥かに上回る価値あるアドバイスの提供が求められている。

これらの変化はこれまでの対面中心かつプロダクトアウトのアドバイスモデルに大きな変革を迫るものであり、この変革への対応がウェルスマネジメントの成否を分けると弊社は考える。

デジタルがアドバイス価値を向上

顧客のデジタルシフトが進む一方で、弊社の調査によると富裕層(保有資産1億円以上)およびマス富裕層(保有資産3000万円~1億円)の双方において、金融機関からアドバイスを得たいと思っている顧客は62%存在した。これは彼らのニーズが単なる投資運用に留まらず、高度な節税対策、贈与・相続などの世代を跨ぐ資産移転、事業運営に必要な資金調達など多岐に渡ることに起因している。

また、多くの顧客は今回のパンデミックおよび株価の乱高下において、俊敏な投資判断およびポートフォリオの再構成を行う必要性を改めて認識している。こうした状況において、アドバイザーが顧客に価値あるアドバイスを提供するには、デジタルを効果的に活用することが欠かせない。具体的には、投資の期待リターンとリスクを踏まえたポートフォリオ構築・リバランス、様々なマーケットの変動シナリオを想定したWhat If分析、不動産等も加味した節税・資産承継アドバイス、有価証券(自社株等)を担保にした融資等をデジタルを活用し、効果的に提供することが求められる。

これまで上記のようなアドバイスはスキルの高い一部のアドバイザーのみが提供してきたが、今後はノウハウをデジタル化し、より広く多くのアドバイザーが活用できるようにすることで、幅広い顧客の信頼獲得と差別化に繋げることが出来る。海外ではMorgan Stanley等が先行してGoal Planning System(投資ゴールを踏まえたポートフォリオ構築: 以下GPS)およびNext Best Action(顧客の資産状況を踏まえた提案アイデアの提示)といった仕組みを構築しており、デジタルがアドバイスの価値を向上させている。

また、昨今のマーケットの変動の中で、ESG投資が世界的に注目を集めている。短期的な投資運用が困難を極める状況の中で、環境配慮に優れ、社会的な意義も高く、ガバナンスが整備されている企業は中長期的な成長力を保持し、投資リターンも高い傾向にある。投資家のニーズに合わせ、ポートフォリオの中核をESG銘柄で構築していくことが今後の「ニューノーマル」として普及していくと考えられる。

但し、アドバイザー個人がESG銘柄に関する網羅的な知識を持つのは簡単なことではない。特に大規模な営業部隊を抱える大手証券会社あれば知識やスキルにばらつきが出てきてしまう。そのため、この点においてもデジタルを効果的に活用し、顧客のポートフォリオの中のESG比率を算出したり、金融機関が選別したESG銘柄を組み込んだポートフォリオへのリバランスをGPS活用により提案するといった取組みが必要となるだろう。

総資産ベースで収益源を多様化

これまで多くの金融機関のウェルスマネジメントの収益は大多数が株・債券等の運用資産の売買手数料であったが、近年の中長期目線での投資運用、売買手数料低下の圧力を受けて、収益を上げにくい状況になっている。こうした状況は既に米国では先行して起こっており、Morgan StanleyやCharles Schwabなどは収益源を多様化することで対応してきた(図表1)。

具体的には、富裕層の多様なニーズを総資産ベースで捉え、提案の幅を広げることで、売買手数料だけでなく、融資による金利収益、残高フィーベース収益、不動産収益等を取り込んでいく必要がある。デジタルを活用してアドバイスの幅を広げ、収益源の多様化を図ることが今後のウェルスマネジメントに不可欠と弊社は考えている。

トレーディングの展望

近年の度重なる規制強化や顧客による手数料透明化の要請を受け、世界的にトレーディングビジネスの収益は減少傾向にある。弊社の調査によると、2019年の全世界のトレーディング収益は、2010年の74%の水準にまで低下している。一方、現在から2026年にかけて世界におけるトレーディングの取引量は33%増加すると予想されており、収益性が低下する中でより多くの取引量に対応していくことが求められている(図表2)。足元でも今回のパンデミックが株価のボラティリティを生み出し、取引量は過去最高水準に達している。

コスト構造を抜本的に変革

トレーディング部門のコスト構造を分析するとフロントに多岐に渡るシステムが存在し、そのメンテナンスに非常に多くのコストが費やされているケースが多い。システムごとに異なるシステム会社が運用を行っており、それが高コスト体質をもたらしているのである。また、一つの取引に対して、複数のシステムに同様の取引データを入力しているケースもあり、フロントの業務負荷が高いことに加え、取引データを活用するバックオフィスであるファイナンス部門、リスクマネジメント部門がデータの整合性チェック等に膨大な工数とコストをかけている状況も見受けられる。

収益性が低下する中で、こうした複雑かつ冗長なシステム構成や運用体制は抜本的に見直し、コスト構造をスリム化することは不可欠である。具体的にはフロントシステムの統廃合を伴うデータフローの整流化、取引自動執行の商品拡大、入力データの精度向上、システム運用会社の集約、バックオフィスの業務効率化・アウトソーシング等が主たる施策となると考えられる。海外の金融機関のトレーディング部門では既に“Bending the cost curve”(コストカーブを曲げる)をスローガンに掲げて上記の施策を強力に推進するケースが出てきている。直近は取引量の増大に伴い各社のトレーディング収益は回復基調にあるが、中長期的な収益性の低下トレンドは不変であり、このタイミングで大胆なコスト削減を図る必要があると弊社は考える。

データ活用で差別化を図る

バイサイドの顧客ニーズは多様化しており、より差別化された提案やプライシングが求められている。そうした顧客ニーズに迅速かつ的確に対応するためには、トレーディングにおけるデータ活用が非常に重要になってくる。日本でもトレーディングのデータ活用に取組む企業は多く、実際に業績の向上に繋げているケースもある。

例えば、顧客の属性や過去の取引データの活用が挙げられる。具体的には顧客の投資戦略、コンタクトの趣向(電話を好む等)、過去取引・タイミング等を分析することで顧客ニーズのパターンが見えてくる。これをマーケット情報と組み合わせることで、顧客ニーズに合致する提案内容を適切なタイミングでトレーダーに提示するということが可能になる。実際にこの仕組みを稼働させ、トレーダーの生産性向上に繋げている証券会社も存在する。

また、AI・ビックデータ解析を用いる事例としては、グローバルでの船積み・輸出の情報をデータとして取得し、解析することでサプライチェーンの流れを俯瞰的に理解し、投資判断に活用しているようなケースもある。こうしたAI・ビックデータ解析のトレーディングへの活用は急速に進んでおり、継続的にテクノロジーを整備し、分析の精度を高め、投資判断への活用を進める企業が中長期的に大きな競争優位を手に入れると考えられる。

終わりに

これまで見てきた通り、ウェルスマネジメント、トレーディング共に従来のビジネスモデルには限界が見えており、変革が不可欠である。また、今回の新型コロナウィルスによるパンデミックにより、さらに大きなスケールとスピード感での変革が求められている。変革の方向性は明確であり、2021年はアクションの実行に焦点が当たるだろう。弊社としても証券業界の未曾有の変革を強力に推進していく所存である。

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