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第17/18回金融ウェビナーシリーズ:その2「 レガシーシステムが金融機関にもたらす “崖”」
前回のブログでは“2025年の崖”という問題の本質と、その背景にある市場環境の変化について解説しました。第2回目となる今回のブログではこれを踏まえ、ITモダナイゼーションの領域で国内金融機関の多くが直面する問題について解説します。
前回触れたとおり、IT インフラの近代化という考え方は決して目新しいものではなく、多くの金融機関はこれまでモダナイゼーションの推進に向けて様々な努力をされてきましたしかしながら、こうした取り組みは必ずしも期待した成果を挙げられていないのが実情です。 その大きな足かせとなっている要因の1つが、メインフレームに代表されるレガシーシステムの問題です。既存のレガシーシステムが今問題となっている背景には、いくつかの理由が考えられます。
その1つは人材の問題です。多くの金融機関では、数々のアップデートや改良を施しながらメインフレームのシステムやアプリケーションをこれまで30年以上利用し続けていますが、その構築に携わった人材が担当者として今も現場で業務に携わるケースはほとんどなく、当初の設計思想やミドルウェアの構成といった情報・知識が失われつつあります。また保守管理を担う技術者の高齢化も進んでおり、レガシーシステムの保守ができる人材は今後加速度的に減少する可能性が高まっているにもかかわらず、次世代エンジニアの確保・育成は進んでいません。国内労働市場のあらゆる分野で人手不足が深刻化していることもあり、技術的な新規性に乏しく若い世代への訴求力が高いとは言えないメインフレームの保守管理という業務に優秀な若い人材を活用し、システムやノウハウを継承することが極めて困難になっているのです。
こうした問題はユーザーとなる金融機関だけでなく、レガシーシステムを構築し支えてきたメーカー、SIやベンダーにも影響を及ぼしています。メインフレームをはじめとするレガシーインフラ市場の縮小傾向が加速する中、極めて高い可用性を持つ既存システムの保守に必要な人的資源を確保し、サービスのレベルを維持することは大きな負担になりつつあります。その結果、ハードウェア開発からの撤退、あるいは保守料金の大幅値上げに踏み切る企業も出始めており、(ユーザー企業による)現行ベンダーへの過度の依存、維持管理コストのさらなる高騰、あるいはサードベンダーの寡占化といった問題が今後深刻化する恐れが高まっているのです。
レガシーインフラを取り巻く環境は、開発言語の領域でも厳しさを増しています。例えばメインフレームで使われることが多い開発言語COBOLは2019年末以降、情報処理推進機構(IPA)による情報処理技術者試験の対象言語から外れてしまいましたCOBOLは元来、非専門家による事務計算処理のプログラミングを平易にするという普遍的な設計思想で開発された言語であり、データの扱いがしやすい、システム設計がわかりやすいといった様々なメリットがあります。また2002年の新規格ではオブジェクト指向プログラミングの概念も取り入れられるなど、技術的にはモダナイゼーションへの適応も可能な言語です。しかし国内の現場ではレガシーの開発環境をアップデートすることなく、数十年前の仕様レベルで使い続けることがほとんどで、次世代にCOBOLの利用を継承するといった取り組みは見られません。こうした背景の下で“枯れていく技術”というイメージが強まり、投資規模が年々縮小しているというのが実情です。
容易に飛び越えられない“崖”
こうした状況を考えれば、ITモダナイゼーションを進める上で最も容易な方法は、レガシーシステムの段階的廃止を進めながら、並行してオープンソフトウェアベースの新たなシステムを構築し、移行を進めていくことです。しかし、金融機関の前にはビジネスケース構築の難しさという問題が立ちはだかっています。例えば人事・給与・会計など、バックオフィス分野の業務ではERPパッケージへの置き換えといった形で既存システムから部分移行することは比較的容易かもしれません。しかしシステム全体を移行対象にする場合には、ビジネスケースという難題が立ちはだかります。つまり収益への貢献度が決して高くなく、膨大な人員・費用・期間が求められる移行プロセスに対して、社内全体でコンセンサスを形成するというハードルをクリアする必要があるのです。新たな価値創出につながりにくく、移行に必要な投資費用の回収へ場合によっては数十年という単位の時間がかかる案件で全社的な合意を実現するのは極めて困難と言わざるを得ません。
この問題をさらに複雑なものにしているのは、ITモダナイゼーションの中でも難易度の高い分野、つまり“容易に飛び越えられない崖”が多く残っている現状です。上述の通り、金融業界には2000年代前半・後半それぞれに1度ずつシステム近代化の流れが生じ、多くの金融機関はレガシーシステムからの移行に取り組みました。しかしプロジェクトの検討・実行過程でリスクと難易度の高さが明らかになった分野には手を付けず、契約管理や勘定といったコア業務以外の周辺部分(いわば“容易に飛び越えられる崖”)でモダナイゼーションを進めてきたのが実情です。その結果、中核となるメインフレームを取り囲む形で、数百単位の分散系・Web系システムが建て増しされ、システム全体の構造はさらに複雑化しています。つまり現在ITモダナイゼーションの遂行が求められる領域の多くでは、これまでの取り組みをはるかに上回る巨額の投資と長い移行期間が必要とされるため、意思決定と技術の両面で“より深い崖”を飛び越えなければならないのです。
では金融機関がこの“簡単に飛び越えられない崖”の対策を講じ喫緊の課題となっているITモダナイゼーションを推進するためにはどのような取り組みが求められ、どのようなソリューションを選択可能なのでしょうか?本シリーズの後半部分である金融ウェビナー第18回をとりあげる次回のブログシリーズでは、こうした点について詳細にわたり解説します。
今回そして次回(第18回)のウェビナーでは、ITモダナイゼーションの現状、そして“2025年の崖”が国内金融機関やメーカー・ベンダーにもたらす課題、その対策向けて求められるビジョンと具体的ソリューションについて事例を交えながら詳細にわたり解説しています。