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第17/18回金融ウェビナーシリーズ:その1「迫りくる2025年の“崖”」
経済産業省が発表した『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開』は、一昨年の発表以来日本の産業界で大きな波紋を呼んでいます。その理由の1つは、これまで日本企業の多くがその存在を認識しながらも目を逸らしがちだったITモダナイゼーションの問題を明確に指摘し、既存システムの改革を進めなければ2025年以降年間最大12兆円の経済損失が生じる恐れがあると警告を発したことです[1]。
この問題が2025年の“壁”ではなく“崖”と呼ばれているのは大きな違い、意味があります。 “壁”は時間が進み、期限が迫るにつれ立ちはだかる問題の存在を認識することができ、ハードル(課題)の高さも事前にある程度予測が可能です。しかし“崖”はこの点で性質を大きく異にします。崖の有無や深さ(つまり課題の大きさ)はその地点に到達するまで理解が難しいだけでなく、下に何が横たわるのかも行き着くまでは正確にわかりません。またそもそも崖に突き当たるのがいつなのか、レポートの中で期限とされている2025年なのかどうかも定かでないのです。その意味で“崖”と言う表現は、問題の本質を的確に言い表していると言えるでしょう。
では日本の金融機関は今なぜ早急にITモダナイゼーションの実現に向けたプロジェクトを進めなければならないのでしょうか?現在見られる取り組みが必ずしも望む成果を実現できていない背景とは?本ブログでは2回にわけて、ウェビナーシリーズ「2025年の崖を越えるための戦略的モダナイゼーション」の前半部分となる第17回で取り上げられたこれらのテーマについてお届けします。(後半部分となる第18回のテーマについても、近日中に追って公開いたします。)
ITモダナイゼーションの重要性が高まる背景
ご存知のようにITモダナイゼーションは、これまで長い年月にわたって使われてきた言葉であり、決して目新しいものではありません。しかし現在その重要性が特に高まっている背景には、金融機関を取り巻く市場環境の大きな変化があります。特に注目に値するのが次の5つのトレンドです。
- 金融機関の顧客ニーズが急速に変化し、多様化も進みつつある。
- 企業間連携が加速し、多種多様な業界と連動した新サービスの展開、新商品の開発といった形でエコシステムを活用する重要性が高まっている。
- デジタル化の成功事例が、地方銀行や保険会社を中心として出始めている(前者の事例については以前のブログで紹介していますので併せてご覧下さい)。
- サブスクリプションモデルが拡大し、インフラからサービスまで全てを自前で用意するアプローチから、使いたいものを使いたい時に利用するアプローチへの移行が進んでいる。
- 現代の金融ビジネスに必要な知識・技術を高いレベルで備えた人材の確保が難しい時代となりつつある。
ではこうした環境の変化に対応するため、金融機関はIT分野でどのような経営課題に直面しているのでしょうか?
A. 金融機関の顧客ニーズに素早く対応していくため、システムの現場にはより迅速なサービス提供とシステム開発が求められる。
B. エコシステムを通じた他社との連携を進めるためには、既存のテキストデータだけでなく、画像・音声も含めた多様なデータの活用拡大が不可欠。
C. デジタル化を成功に導くためには、新たなサービス・システムの開発と同時に、現行システムやアプリケーションの“構造”変革を進める必要がある。
D. サブスクリプションモデルのメリットを有効に活用するためには、年間予算の7割以上を占めると言われる巨額のシステム維持費用からの脱却が求められる。
E. 事業継続性リスクへの万全な対策を用意し、緊急事態発生時の被害を最小限に抑制。中核となる事業を継続するための体制整備が急務となっている。
ここで注目すべきは、多くの金融機関が今直面するこれら5つの経営課題の全てにITモダナイゼーションが深く関わっていることです。ITモダナイゼーションの必要性は、Webとオープンシステムが普及し始めた2000年代初頭、団塊世代のリタイアに伴う問題が注目を浴びた2007年にも大きな注目を浴びました。しかしデジタル変革がこれまでとは比較にならないほど大きな影響をビジネスにもたらしている今、その重要性がさらに高まっているのです。
間近に迫る2025年の崖対策として多くの金融機関ではこれまでITモダナイゼーションの実現に向けた様々な努力をされています。しかし取り組みの効果は限定的で、必ずしも期待した抜本的改革を実現できていません。国内金融機関のITモダナイゼーションを取り巻く環境はどのような現状にあるのでしょうか?そして、その背景にはどのような問題があるのでしょうか?次回のブログでは、こうした点について詳しくお話します。
今回そして次回(第18回)のウェビナーでは、ITモダナイゼーションの現状、そして“2025年の崖”が国内金融機関やメーカー・ベンダーにもたらす課題、その対策向けて求められるビジョンと具体的ソリューションについて事例を交えながら詳細にわたり解説しています。
[1] https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html