世界で加速するデジタル技術の活用

テクノロジーの進化により、ビジネス環境は激変している。あらゆる業界でイノベーションが起こり、デジタル技術を活用した革新的な商品・サービスが産み出されている。デジタル化に成功した企業は、新たな顧客体験をもたらして飛躍的な成長を遂げる一方、それが出来ない企業は顧客から見放される時代に突入した。

保険業界においても、変革に向けた様々な取り組みが進んでいる。弊社が行った調査では、約6割の保険会社が変革プログラムへの投資を拡大していくと回答しており、保険業界の変革は更に加速していくであろう。

変革に必要なデジタル技術は何か、今後のテクノロジーはどのように進化するのか。当寄稿では、これから本格化する保険業界のデジタル変革について考察する。

1.世界的に拡大する変革への投資

保険会社を取り巻く環境は、厳しさを増している。保険の対象であるヒト、モノは変化し、従来の経営では収益が見込めなくなってきている。そのため保険会社は、戦略的な変革プログラムを立ち上げ、様々な改革に乗り出している。

弊社が実施した調査Financial Services Change Survey 2017 (日本を含む世界8か国、金融機関の経営幹部787人に対する調査、内292人が保険会社の経営幹部)では、戦略的な変革プログラムへの投資が拡大傾向にあることが読み取れる。図表1は保険会社の調査結果であるが、世界全体では、現在(図表1:A)でも戦略的な変革プログラムに対して約30%が大規模投資を行っているのに対し、今後12ヶ月の投資予定(図表1:B)としては、約60%が拡大予定となっている。また、投資先としても「効率化・コストコントロール」向け、「顧客サービス・体験」向けといった5分野の全てにおいて、その拡大傾向が見られた。この保険業界のデジタル変革投資傾向からも分かるように、保険会社の変革スピードは世界的に加速していくと考えられる。

2. デジタル技術への投資が少ない日本

前述の調査に関して、日本の投資傾向を見ていきたいと思う。現在の投資規模としては、全5分野で概ね20%が大規模投資を行っている。その内、世界平均とのギャップが最も大きい分野は、「新デジタル技術・チャネル」の-19%(世界平均:35%、日本平均:16%)であった。また、この「新デジタル技術・チャネル」に対する今後の投資予定としては、拡大予定と回答した割合で -20% のギャップ(世界平均:61%、日本平均:41%)が存在している。つまり、「新デジタル技術・チャネル」向けの投資における世界と日本の差は、今後も拡大していく可能性が高い。

日本では、チャネル向けの投資を行っている保険会社は多いため、新デジタル技術への投資が前述の差を生んでいると考えられる。日本の保険会社は、新しい技術の活用について検討・検証を進めている段階であり、本格的な大規模投資には至っていないのであろう。

3. 変革に必要なデジタル技術とは?

世界の保険会社は、どのようなデジタル技術に投資しているのか。図表2は、保険会社が変革プログラムを進める上で、重要視しているデジタル技術の調査結果である。1位は「ビッグデータ/アナリティクス」であり、これは世界も日本も同じであった。デジタル化が進み、多種多様なデータがビジネスに活用されていることが伺える。世界と日本で比較的大きなギャップがあったのは、「クラウド」と「ソーシャルメディア/コラボレーション」であった。「クラウド」は、日本の保険会社でも活用が進んでいるが、営業支援や情報系といった限定的な範囲での活用に留まっていることが要因と考えられる。「ソーシャルメディア/コラボレーション」は、一般消費者への普及は進んでいるものの、保険ビジネスでの活用が欧米に比べて低いのが実状であろう。

今後の保険業界に必要なデジタル技術は何か。技術革新のスピードが増す現代では、特定の技術に絞り込むことは難しい。図表2の調査結果においても、最下位の「ロボティクス」でさえ世界の保険会社の43%が重要と考えており、全方位的な投資が行われていると推測される。では、デジタル技術向けの投資は、どのように進めていくべきか。この難題に向き合うためには、テクノロジーのトレンドを把握し、今後の技術革新を先読みすることが肝要である。

図表1 戦略的変革プログラムに対する投資規模

4.テクノロジートレンドから見る今後のデジタル変革

弊社では、今後3~5年間のうちに企業、政府機関等に大きな影響を及ぼすと予想される新たなIT分野の事象をTechnologyVisionとして毎年特定している。

Technology Vision 2017~5つのITトレンド~

  • AIは新しいユーザーインターフェース ~「体験」を第一に~
  • 無限の可能性を持つエコシステム  ~“Weエコノミー”を解放する~
  • 人材のマーケットプレイス  ~未来を創造する~
  • “ひと”のためのデザイン  ~新たな行動を喚起する~
  • 未踏の領域へ  ~新しい産業と標準の創出~

本稿では、この5つのトレンドの内、海外の保険業界で実用化が進んでいる3つを踏まえながら、今後のデジタル変革について考察する。

AIは新しいユーザーインターフェース

AIの活用は日本でも始まっているが、現状は社内の業務効率化やコスト削減を対象としていることが多い。これからのAIを考えた場合、顧客と企業をつなぐユーザーインターフェースとしてのAI活用が鍵となる。

Amazon Echoのように、顧客はAIとの直接的な接点を持ち始めている。顧客はAIを通じて企業とのコミュニケーションを持ち、そのAIが企業のデジタルブランドを形成していく。

保険業界においては、ヘルプデスクの問い合わせ業務、損害調査の画像診断等において、AIの活用が始まっている。一方、これから進むユーザーインターフェースとしてのAI活用は、保険の加入・保全・支払における顧客接点がターゲットとなる。今後顧客は、AIを通じて保険の相談・各種請求を行ったり、AIによる最適なアドバイスを享受したりしていくと予想される。また、機械同士の対話が発展してくと、自動車に搭載された装置が事故を検知し、その情報を基に保険金が自動的に請求されるようなことも考えられる。社内向け中心のAIが、社外の顧客向けに転換する日も近い。

図表2 変革プログラムを進める上で重要なデジタル技術は?(上段:世界平均、下段:日本平均)

人材のマーケットプレイス

世界的には、フリーランサー等の活用によるクラウドソーシングが進展している。必要な時に、必要な人材を確保できるオンデマンド型の潮流が起こり、労働力が流体化している。また、人事系テクノロジーのスタートアップ企業も台頭し、クラウドソーシングのプラットフォーム提供も始まっている。

保険業界においても、クラウドソーシングの活用が想定される。アメリカのWeGoLookは、調査サービスを提供しているが、その調査は“LOOKERS”と呼ばれる登録エージェント(一般人)が行っている。エージェントは、依頼された現場の写真・動画を撮り、それを依頼人に送信するというスキームであり、エージェントを活用したビジネスモデルという意味ではUberに近い。同社は、保険会社向けのサービスも提供しており、損害調査等での活用が見込まれる。

“ひと”のためのデザイン

従来、“ひと”がテクノロジーに合わせる部分が多かったが、これからはテクノロジーが“ひと”に合わせていく時代を迎える。先進的なテクノロジーは、自ら学習することができ、文脈解析や画像認識により人間と同じように思考することが可能となる。今後のテクノロジーは、“ひと”の欲求やニーズに合わせて、継続的に自らを変えていくであろう。

フランスのEurop Assistanceは、モーションセンサーを組み込んだスマートボックスを活用し、先進的なケアサービスを提供している。このスマートボックスを家庭に設置すると、テクノロジーが“ひと”の日常的な行動パターンを学習し、提供するサービスを最適化していく。例えば、キッチンの利用頻度が下がった場合は栄養関連のアドバイスを行ったり、外出が減った場合は社会的な孤立をアラートしたりする。また行動データは、家族に送信することも可能であり、遠方に住む高齢者向けのケアサービスとしても役立てられている。このようなサービスは、少子高齢化が進む日本においても、ニーズが高いのではないだろうか。

5. まとめ

保険業界は変革期を迎えている。世界では、様々な戦略的投資が行われ、その規模も拡大している。この投資に成功し、変革を成し遂げた保険会社が新たな時代をリードしていくであろう。

世界と日本では、デジタル技術への投資に違いが見られた。世界的にはデジタル技術の実用化が進み、保険会社が提供するサービスも変化してきている。日本の保険会社もデジタル化を加速していく必要があるのではないかと考えている。

技術革新のスピードが増す現代では、個別のデジタル技術の見極めに多くの時間を要している余裕はない。これから必要なことは、今後の技術動向を踏まえ、技術の進化を先読みし、先進技術を柔軟に取り込んでいくことである。日本の保険業界においても、デジタル化が進み、日本発の新たな商品・サービスが産まれるよう、弊社も取り組んでいきたいと思う。