“dBaaS”による個性ある銀行の実現

先稿(2017年夏号)では、海外の銀行が本業のデジタル化に力を入れていること、トップライン改革(デジタル・ディスラプト)とコスト改革の両輪を同時推進していること、OHR30%台の実現を目指していることをお伝えした。

また、ひとことにデジタル化といっても、あくまでも人間中心のビジネスモデル「デジタル・ヒューマン・デジタル」を通じた人間にしかできない新たな付加価値創造が重要であること、その理想形を既存のレガシーな仕組みに引きずられることなく「ツー・スピード」で一気に作り上げるべきことを論じた。

先稿に続けて本稿ではまず、ツー・スピードで改革を具体的に進める際に必要となるT字型人材/デジタル基盤×アジャイル/部門横断型バーチャル組織について説明する。そして後半は、ツー・スピード改革を実現する”場”としてのdBaaS(dhd Bank as a Service)について述べる。

本業のデジタル化は、現状では各行が個別に取り組んでいるものの、本質的には全ての銀行にとっての共通命題である。dBaaSという場を業界全体で共有することで、業界一丸となって改革に取り組めないか?本稿ではその可能性について考察したい。

1. ツー・スピード改革で求められる人材/システム/組織

先稿(2017年夏号)では、本業のデジタル化の必要性、DHD(Digital-Human-Digital)コンセプト、その実現アプローチとしてのツー・スピードについて論じた。実際にツー・スピード改革を成功させるためには、T字型人材の育成/デジタル基盤×アジャイルの構築/部門横断型バーチャル組織の組成がカギとなる。

① T字型人材を育成せよ

ディスラプト(創造的破壊)を導く上での最大のカギは「人材」にある。世の中一般的には、顧客視点に長けたCX(顧客体験)デザイナー、ビジネス視点に長けたコンサルタント、技術視点に長けたITアーキテクトの3者を揃えることが重要と言われている。ただし、やみくもに集めればよいのではない。”T字型の”デザイナー、コンサルタント、アーキテクトを揃えることが重要である。T字型とは、CX・ビジネス・技術の3つの視点全てを合わせもった状態を指す。(※Tの中央部分が自分が専門とする視点、Tの両端が残りの2つの視点を表す)

破壊力あるアイディアはCXだけ/ビジネスだけ/技術だけ考えていても生まれない。ビジネスの観点で意味があるか/システムの観点で現実味があるか/顧客の観点で魅力的かを複眼的に捉えてこそ生み出される。T字型人材の集団は、複眼的な視点を持った各員が相互に働きかけることで発想と検証のループを加速させブレークスルーを引き起こす。

② エンタープライズ・アジャイルでデジタル・フロント基盤を構築せよ

これまで、インターネットチャネルは、来店前提のサービスを補完する位置づけであった。ゆえに、機能の幅は残高照会や振込等、限定的である。

これからは、非来店、即ちロケーションフリー前提のサービス設計とデジタル・フロント基盤の構築が必要だ。各チャネル毎に構築されたサイロ型のフロントシステムはオムニチャネルのデジタル・フロントに置き換わる必要がある。

フロント刷新はアジャイルで効果的・効率的に進める。ここでいうアジャイルとはシステム開発に閉じた話ではない。CX・ビジネス・ITのT字型人材が一体となり、「アイディアの発想・プロトタイプ構築・検証」を高速に回すエンタープライズ・アジャイルを意味する。「ビジネスと顧客にとって意味ある最小単位」を見極め、ビジネス効果が伴う形で段階的に整備していくことが肝要だ。

③ 現業各部門も巻き込んだ横断的なバーチャル組織を組成せよ

T字型人材の革新的な発想を活かし育て続けるには、チェンジすること・チャレンジすること・より早く失敗しより早く改善することをミッションとした新組織を組成し専任者を配置すべきである。ただし、本業の改革には現部門人員の巻き込みも必要である。従って、既存組織と完全に切り離した独立型の新組織は最善とならない。

現業各部門からの兼任者もいる部門横断的なバーチャル組織が大規模な本体改革には最適である。

図表1 変革に向けた態勢のオプション
図表1 変革に向けた態勢のオプション

2.Disrupt the Bank~”dBaaS”による個性ある銀行の創造

従来型の態勢の限界

各行の態勢は大きく「自前開発型」「共同センター型」の2つに分類される。各行はこれらの態勢で改革に臨んでいるものの、様々な困難に直面している(図表1)。

自前開発型は、経営自由度が高いものの、システム投資がかさむ。T字型人材不足の課題を残すとせっかくの投資も成果が乏しくなりがちだ。自前開発の歴史から既存システムへの思い入れが強く、抜本改革においては足かせとなる危険性を孕んでいる。

もう一方のシステム共同センター型は、コスト低減にメリットがあるものの、新たなサービスへの対応は相乗り行の同意が必要であり時間がかかる。運営の主導権は協力会社側にあり、相乗りゆえに個々の銀行にとっては自由度に対する制約が大きい。

第3の選択肢”dBaaS”

ではどうすればよいか?弊社は、各行が協力し新たな場を作ることで上述したジレンマを一気に乗り越えられるのではないかと考えている。この新たな場を”dBaaS”と呼ぶ。”dhd Bank as a Service”の略である(図表2)。

dBaaSは、T字型人材とシステム基盤・部品を集積し各行の”変革”をサポートする場である。参加各行は提供される人材と基盤を活用し個性ある顧客体験の創造にチャレンジする。

① 人材集積の場としてのdBaaS

顧客視点・ビジネス視点・技術視点に長けたT字型人材は業界全体で枯渇しており、各行が単独で確保するのは困難な状況である。このため、優秀な人材を銀行内外からdBaaSに集め各行で共有していく必要がある。

各行は自行のT字型人材をdBaaSに送りこみ他のT字型人材と協働させることでより大きな成果を期待できる。また、将来有望な若手をdBaaSに参加させ育成の場として活用することも可能だ。ハイスペックな人材を集約し密度濃く協働させることで、変革推進と育成を両立させる場を目指す。

② システム基盤としてのdBaaS

dBaaSは、ソフトウェアを提供するSaaS、ソフトウェア開発をサポートするPaaSの側面を持つ。銀行向けの基盤としては、残高照会や振込等のサービス機能に加え、セールス・マーケティング・コミュニケーションをフル・デジタル完結する機能が必要だ。加えて、バックエンドや外部サービスと連携するためのロボIFやAPI基盤も必要である。

近年、SNS上の顧客情報を取り込んだ精度高い顧客セグメンテーション分析(People Like You)や、分析結果に基づくリアルタイム・インターラクティブなコミュニケーション・エンジンが発達してきている。人工知能を組み込んだチャット形式の新たなUI開発も盛んだ。dBaaSではこれらNew ITを、実現したい顧客体験に合わせて柔軟に組み入れていく。

実現された顧客体験やその組立部品は他行にも開放する。発想さえあれば誰もが短期間・低コストで新たなサービスを開発し競争できる基盤を目指す。

③ 変革組織としてのdBaaS

dBaaSは”進化”に重点を置いた組織運営を行う。システム共同センターとは異なり、他行の合意を得ずとも独自サービスの開発が可能だ。

まずは野心と体力のある銀行が、サービス開発行として自ら投資し尖ったサービスを開発・拡充していく。

その他の銀行は、サービス利用行として低コストでサービス開発行が開発したサービスをそのまま利用したり、新たなサービス開発行として既存部品を組み合わせて独自サービス開発を行う。サービス利用行が支払うサービス利用料はサービス開発行に還元する。

業界を自ら変革するために運営の主導権は銀行自身が握る。共同運営により投資規模を抑制することはもちろん、参加各行で場の運営を可視化し生産性指標の継続的改善を関係者全員の共通目標とする。

人員リソースがひっ迫した場合でも、改革スピードを落とさないよう要員増強を行う。dBaaSでは人材も技術も固定化せず、外部と有機的につながりながら随時入れ替えが行われるオープンな場を目指す。人も技術も会社も柔軟に変化/進化していく生態系のよう

な組織を目指す。

dBaaSで本業をディスラプトせよ

人材とシステム基盤・部品を共有化することで、投資額を抑制しスピードも保ち、最終的なサービスの組み立ては各行の独自性を保つ。銀行主導で透明性を保ち、生産性向上と人材・技術刷新を継続する運営を行う。dBaaSは、本業のデジタル化/ディスラプトと

いう業界全体の共通命題に対し、業界一丸となって取り組む道を拓くものである。業界全体の生産性倍増、スピードの倍増、世界に誇れる究極の顧客サービス業の実現を目指す。

図表2 dBaaS(dhd Bank as a Service)
図表2 dBaaS(dhd Bank as a Service)

3. Disrupt the Landscape~dBaaSによる業界の未来の創造

これまで、”フィンテック”は異業種による金融業参入という文脈で語られてきた。しかし、その技術は銀行にも手が届くもののはずである。「銀行はその技術を何に使うのか?」が問われている。

「顧客に生涯寄り添い支えたい」「地域を永く支えたい」。そのような志を形にするために新技術を適用したらどのような銀行ができあがるだろうか?そのような志ある銀行に必要な人材・技術・場を提供したらどのような地域社会ができあがるだろうか?

100余の志ある銀行の変革のために人材とシステム基盤をサービス提供する場。100余の志ある銀行と共に新たな金融サービスを作り上げる共創の場。dBaaSは業界の未来創造を志す、銀行の、銀行による、銀行のためのサービス提供プラットフォームであり、構想であり、ビジョンである。