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マクロ経済的な要因(日本における高齢化など)により、多くの日系企業は海外ビジネスからの収益に依存しており、その重要性は年々大きくなってきている。海外ビジネスを展開する金融機関も例外ではない。
一方で、グローバル日系企業の多くは、テクノロジー領域を含めて明確なグローバル統制運営が確立されておらず、金融機関においても、標準化、デジタル変革に対する投資、一元的なコスト可視化等の欠如を原因とする意思決定プロセスの複雑化といった状況を引き起こしている可能性がある。
本稿では、最適なモデルを適用する上でのポイントをITオペレーティング・モデルの種類・特徴を踏まえてご紹介したい。
グローバル日系企業が直面する国際化の主要課題
ITの重要性
国際化を推進する企業においては、テクノロジーを活用し、海外のビジネスモデル(マーケティング等)を進化させ、新たなデジタル機能によって、より敏捷で効率的なビジネスを実現することが必要である。海外ビジネスを展開する金融機関においても同様であり、海外人材の有効活用、バラバラに導入された業務・ITのグローバル統合による効率化等が進められてきている。
弊社調査により、グローバル日系企業の国際化において、ITは考慮すべき重要な要素であることが判明しており、金融機関においては、各国の制度対応、ISO20022対応に起因する海外勘定系システムの見直し、ガバナンス強化によるコスト削減を目的としたシステム集約化等のITに係る国際化の課題は多く存在する。
グローバルITの構造改革
グローバル組織の成熟度向上には、グローバルITの構造改革を優先させることが重要である。グローバル組織で想定される課題の多くは、グローバルITの構造に起因するものが多いことがその理由である。
<グローバルITの課題例>
・各地域に最適化されたシステマティックなIT(サイロ型構造)
・各地域のITにおける最新状況を把握していない(把握できていない)
・グローバルITとして、報告書以外での各地域のITコストの最新情報を把握していない(把握できていない)
グローバルITの構造改革として、最適なグローバルIT戦略を立案し、IT投資の適切な配分を行い、同時に各地域のビジネスニーズにも焦点を当てた”グローカル”(グローバル、ローカルを併せた造語)なITシステム基盤を構築・運営することが必要であり、その実現に支える最適なITOM(ITオペレーティング・モデル)の適用が必要不可欠である。
典型的なITオペレーティング・モデル(ITOM)の種類と特徴
典型的なITOMは4種類あり、グローバル日系企業の多くは、歴史的に地域主体のITOM(地域主体型)を採用、現在に至っている。ビジネスの特性・状況に応じて他のモデルの適用を模索しているため、各モデルの特徴をご紹介したい(図表1)。
地域主体型
地域主体型モデルは、地域ごとの主体性を重視するモデルであり、地域ごとに最適化され、地域の自由度が高い。日本では、地域特有の顧客やビジネスモデルに適応するため、地域支店の自律性が高いが、グローバルな連携は低いといった特徴がある。共通プラットフォームやリソースを活用することは優先されていない。
このモデルでは、ITの意思決定における自律性の向上により、アジリティ(敏捷性)が向上する一方で、地域横断的な可視性と革新性の欠如が懸念され、ITスキルの成熟度・プロセスが地域ごとに異なる可能性がある。
<特徴>
・独立性が高い地域別ITチーム
・分権的な意思決定とローカルガバナンス
・技術的な決定は地域ごとに行い、地域間の調整は最小限にとどめる
連邦型/ハイブリッド型
地域性を保持しつつ、グローバルレベルでの統一性を部分的に実現しているモデルである。日本では、国内外でビジネスを行う顧客や、ビジネスモデルに対するプラットフォームやリソースを合理的なレベルで共通化するモデルである。
このモデルでは、地域横断的なビジネスや多くの地域に対応できるITサービスの提供を実現することができる。一方で、グローバルなIT組織は、共有のインフラ/機能を管理することに限定される。
<特徴>
・「ハブ&スポークモデル」- IT投資や意思決定はグローバルなIT組織が行うため、各地域はほぼ自立している
・共通のリソースを活用することに重点を置くが、地域ごとのカスタマイズも可能
中央集権型
グローバル標準に基づく地域ビジネスの最適化を目的とするモデルである。
ITリソースのスケールアップと最適な利用により、IT予算を最も効率的に使用可能であり、グローバルプラットフォームにより、アプリケーションと機能の重複を減らすことに貢献するが、各地域のITの管理不足と要件変化への対応の遅れが、各地域の「シャドーIT」を加速させる可能性があり、難易度が高いといえる。
<特徴>
・グローバルなIT組織と地域ごとの実行
・企業のグローバルITOMの考え方に沿って対応
・機能的なITチームはシェアードサービス型のガバナンスに基づき、ビジネスへの近接性が高い地域に配置
11マトリックス型
グローバル日系企業において、東京本社主導の中央集権型モデルが最適解と想定されることが多かった。しかし、新商品開発、事業推進等の迅速な対応のため、適応力が高く、また柔軟な組織活動の実現を可能とするものとして、マトリックス型モデルが最適と考える。この形態では、組織に属する全員が各製品と多く”つながる”ことを実現する情報・リソースの並列的な共有を実現している。
このモデルの利点は、組織メンバーの多様なスキルセット構築を促進し、専門チームでのスキル習得以外での経験による組織内のスキル、リソースの柔軟性の向上およびコスト削減を実現できることである。一方で、その実現には強力なコミュニケーション、リーダーシップ、統制等が必要不可欠である。
<特徴>
・機能、地域、ビジネス、ビジネスグループオペレーションにおいて、リソース・知見を集約的かつ横断的に配置
・ビジネス、ITの両方のチームにおける協働を実現する組織文化を醸成
・属人化を回避するためのすべての知見に対する平等なアクセスを確保
最適なITオペレーティング・モデル(ITOM)とは?
本稿では4つのITOMをご紹介したが、最適なモデルは必ずしも1つではない(図表2)。
企業の経済圏が異なる場合は、ビジネスがその経済圏のマーケットシェアをとることをITが支えるべきであるが、本社が邪魔をしてしまう可能性があり、中央集権型モデルでは限界がある。一方で、集約することによるグローバルシステムのライセンスボリュームディスカウント等の利点も考えられる。
おわりに
最適なモデルを検討する際には、ガバナンスは変わるものであり(動的に変わるもの)、過去の経緯や昔の人の定義、権威等で決定され、不明瞭な理由で最適解と思われているものは、現状を踏まえた適切な理由とともに再定義・適用すべきと考える。
ビジネスを支えるITの実現に向けた一助となれば幸いである。
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