金融サービスブログ    

金融機関は今、危機的な状況に置かれています。英国やその他欧米諸国ほど新興勢力の台頭や市場競争の激化にさらされていない日本では、このような表現がいささか大げさに聞こえるかもしれません。しかしデジタル革命が急速に進む中、メガバンク・地方銀行の多くは収益性・競争力の強化に向けた将来的な道筋を描けずにいます。また、これまで多くの銀行に成功をもたらしてきた既存ビジネスモデルも徐々に競争力を失いつつあります。こうした現状を打破し、生き残りを図るための大胆な取り組みが急務となっています。

では日本の金融機関は、具体的にどのようなビジョンを描き、どのような方策を打ち出せばよいのでしょうか。本ブログシリーズでは、チャレンジャーバンク[1]から学べる新たな発想、そしてコアバンキングシステムの変革という視点から、このテーマについて3回に分けて検証します。第1回では日本の金融セクターが直面する課題について、第2回では欧米で急成長を遂げるチャレンジャーバンクのビジネスモデルと日本における可能性について分析。そして第3回では、過去30年間の成功を牽引してきたコアシステムの変革と発想の転換を、今求められる理由について解説します。

金融セクターに迫る変革の波

上述のように、日本の金融機関はメガバンク・地方銀行ともに深刻な状況にあります。リーマンショック以来、大手銀行の多くは成長と収益拡大を求めて海外展開を加速させ、店舗網の再編とデジタル化推進によるコスト削減を進めてきました。しかしテクノロジー革命が大きな影響を及ぼす中、デジタルツールの活用をつうじた収益拡大への道筋を必ずしも描けていないのが現状です。

一方、地方銀行も低金利環境や人口減少、収益力低下といった緊急課題への対応を余儀なくされ、デジタル変革に向けた取り組みが十分にできていません。金融庁の集計によると、2期以上連続の赤字を記録した地方銀行は2017年度時点で106行中52行に上っており、そのうち23行は5期以上の連続赤字となっています[2]。背景は多少異なるものの、地方銀行も深刻な状況にあるのです。

逆説的な言い方ですが、日本の金融機関は数十年前まで、世界的に見ても積極的なテクノロジー活用を進めていました。最先端技術・ツールの導入をつうじて非常に高度なコアバンキングシステムを構築し、世界の金融サービスをリードしていたのです。しかしデジタルトランスフォーメーションの重要性が高まる現在、多くの国内金融機関では取り組みの遅れが目立ちます。

アクセンチュアが先日発表したレポート『2019 Technology Vision』[3]では、テクノロジー・トレンドの主流がSMAC(SNS・モバイル・アナリティクス・クラウド)から徐々にDARQ(ブロックチェーン[DLT]・AI・拡張現実[AR]・量子コンピュータ)へと移りつつある現状が明らかになっています。しかし多くの国内銀行では、依然としてSMACの活用が道半ばです。ソーシャルメディアの活用は限定的で、モバイルも店舗ネットワークの補完的存在として使うケースがほとんどです。アナリティクス・クラウドの分野でも、一定の取り組みは見られますが、ポテンシャルを十分に活かしているとは言い難い、まさに周回遅れの状況にあります。

海外のチャレンジャーバンクと比較すると、デジタル化の遅れはより鮮明になります。例えば、英国のMonzoやStarling、あるいは勘定系サービスプロバイダーのMambuといった多くの金融機関・企業がクラウドを駆使した革新的サービスを展開しています。もちろん日本の銀行もクラウド化を進めていますが、レガシーシステムを部分的に移行するなど、必ずしもデジタル変革という発想に基づいた取り組みではありません。

新たな時代の“顧客本位”

顧客本位の商品・サービス展開という意味でも、国内金融機関は海外に遅れをとっています。ここで強調しておきたいのですが、日本の銀行は過去数十年、この分野でも優れた取り組みをしていました。総合口座、変動・固定金利の組み合わせ比率や適用期間を柔軟に変えられる住宅ローン、多彩な組み合わせ金融商品など、世界でも類を見ないほど多様な商品・サービスを用意し、細かな顧客ニーズへの対応を試みてきたのです。

ただ問題なのは、今こうした強みがかえって弱点となっていることです。労力を費やして作り込んだ数々の商品・サービスは、複雑さや分かりにくさの原因となり、顧客本位なアプローチの実践を阻害しています。またそれらの多くは、銀行目線で開発し市場に投入するという“一方向”のコミュニケーションに基づいており、顧客が必ずしも必要としない“お仕着せ”の商品内容も少なくありません。もちろん、日本の銀行は顧客の声に耳を傾ける努力をしてきました。しかし、真の意味でのニーズ理解というよりも、問い合わせやクレーム対応という側面が重視されていたのも事実です。

多種多様な商品・サービスの存在は、デジタル変革をつうじたコスト削減やビジネス拡大を阻む要因にもなっています。例えばポートフォリオが多様化し、それを支えるバンキングシステムが複雑になった結果、維持管理に膨大なリソースが費やされ、コスト削減もままならなくなっています。また、システムの柔軟なカスタマイズが難しいため、独自性の高い新商品を開発したくても対応できないという現象も生じています(どこの銀行の商品構成もあまり代わり映えがしない理由の1つもそこにあります)。この現状を変えなければ、急務となっているデジタル変革への取り組みはおろか、現代の金融機関に求められるイノベーションや革新的商品の開発にも影響が及ぶでしょう。

こうした環境の中、日本の金融機関が取るべき戦略を考える上でヒントとなるのが、欧米市場で勢力を拡大しつつあるチャレンジャーバンクの取り組みです。第2回では、その最新動向や参考となる事例、日本の市場環境における可能性について検証します。

[1] チャレンジャーバンク = 銀行業の登録を行った上で、最新テクノロジーを活用しながら従来の銀行と同様のサービスを提供するフィンテックベンチャー等の企業
[2] 金融庁『変革期における金融サービスの向上にむけて ~ 金融行政のこれまでの実践と今後の方針~ (平成 30 事務年度)』https://www.fsa.go.jp/news/30/For_Providing_Better_Financial_Services.pdf
[3] https://www.accenture.com/jp-ja/insights/technology/technology-trends-2019