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銀行業界の成長エンジンとして位置づけられる海外ビジネスへの投資は継続して行われている。

一方でその中身は、オーガニックな戦略からインオーガニックな戦略へシフトしている。

海外での法人向けビジネス(日本企業支援)から、さらに進んでアジア各国の成長を取り込むために、現地銀行等の買収による法人(現地企業支援)・個人向けビジネスへの参入が主なトレンドとなっている。

ビジネス形態のシフトに伴い、現地支店・現地銀行等との統合などを含め、人・組織・業務・システムなどに関
する新たなチャレンジがあるものと認識している。特に、チャレンジの1つはコストの大部分を占めるシステム面である。海外システム対応における論点と現状について国内外の事例なども踏まえて考察したい。

海外ビジネスの変化(オーガニック戦略からインオーガニック戦略へ)

国内金融機関による海外ビジネスの拡大は、引き続き活発化な状況である。近年では、アジアの成長を取り込むことを目的とした拡大が顕著である。

そして、従来型の重点地域への現地支店による拡大から、大きく2点の変化がある。

・ホールセールビジネス:

日系企業支援から、現地銀行の買収等による非日系企業支援への拡大(現地ネットワークの必要性)

・リテールビジネス:

現地個人顧客へのサービス提供拡大(各国の経済成長に伴う、現地国民の金融需要取り込み)

上記の変化により、海外ビジネスを現地に土着しより深くつながるための取り組み(提携・買収)が行われている。

海外ビジネス変化に伴うチャレンジ

前述の海外ビジネス変化により、従来のビジネス体制を大きく進化させる必要が出てきている。

つまり、現地銀行等の提携・買収による非日系企業顧客・現地個人顧客獲得に伴い、現地支店との併存・現地銀行等との統合など、新たなチャレンジが発生している。

統合にかかるテーマは多岐にわたる領域があるが、内部的な主要テーマは、以下の2点となるだろう。

➀組織・人の統合

重複する組織・機能の整理は不可避となる。

一方で、アジアなどにおいては日系金融機関の人気も高く、現地銀行との合併・統合により優秀な人材の離反も考えられ、一定の対策が必要となる。全体としては重複部分をスリム化しつつ、必要人材を維持するという難易度の高い対応が必要となる。

➁業務・システムの統合

支店・現地銀行等の業務・システムのどちらを存続させるかが論点となる。既存ビジネスが補完関係にある場合には、併存などの案も考えられるが中長期的にもコスト面で大きく影響があるため、最適化の検討が不可欠となる。

本稿では、「業務・システムの融合」について、具体的な課題感・事例について考察を進めることとする。

業務・システム統合における難所

業務・システム統合の難しさは、「一定の統合コストはかかるが即時的なROIが期待できるケースが少ない」という点である。

その点を前提に、スケジュール・コスト・フィージビリティ(技術・開発リソース・移行リソース)・リスク(顧客影響含む)等の観点で、統合方針・実装方式の検討が必要となる。また、今後発生する可能性の高い同様の検討における指針についても整理(標準化)する必要がある。

統合方針:最終系のシステムとしてどのような形態を目指すのか、そしてどのような時間軸で実現するのか

実装方式(ソリューション):目指すシステム構成をどのようなシステム活用して実現するのか、カスタムやパッケージどのように活用するのか

標準化:グローバルの視点で、どのようなシステム構成・ソリューションを採用する方針とするか尚、個別の検討を開始するにあたっては、インオーガニック戦略により取得した現地銀行等に対して、オーガニック戦略上の支店と同様のシステム構成を求めるのか、現地銀行として独立したシステム構成や運営を許容するかなどの大論点は、マネジメントレベルでの考え方を示すことが重要になると考える。

➀統合方針[図表1]

選択肢は大別して、以下3つとなる。

A)システム片寄せ

B)新規システム構築

C)既存システム並存

双方の商品・サービスのカバレッジ・機能差分、システム状況(更改時期等)、各選択肢をとった場合の顧客影響を踏まえた検討となる。

銀行システムにおける検討の難しさは、勘定系及び周辺システムが勘定系を中心に最適化されて構築している。そのため、商品・サービス差分がある場合に、どちらの業務・システムを・どのように有効活用するかを切り分けて検討する必要がある。

また、開発フィージビリティの観点では、最終系のシステム形態を整理し、時間軸・開発リソースを制約も踏まえ、並存と片寄せの組み合わせによる対応等をロードマップとして整理する必要がある。

また、当然各国の当局規制が前提となるため、規制による申請要否を確認しながらの対応が必須となる。

➁ソリューション(カスタムVSパッケージ)[図表2,3]

次に、目指すシステム構成をどのような形で実現するのか、カスタムやパッケージどのように活用するのかについては考察したい。

カスタムVSパッケージについては従来から議論になっているテーマではある。拠点のビジネス規模や商品・サービス提供範囲によって異なる。

現状のトレンドは、海外を中心にパッケージの活用が活発化しており、一般的に差別化の難しい勘定系や制度対応による標準対応が必要となる決済系等についてはパッケージソリューションの活用が主流となってきている。

また、シンジケーションビジネス等の特定業務についてもパッケージソリューションが出てきており、活用可能性は広がっている。

結果として全体のトレンドはパッケージソリューションとのカスタムの併存形にシフトしていくものと考えられる。

実例としては、海外銀行では各商品・サービス領域について銀行の要件に合う「BestofBreed」の考え方でカスタムとパッケージの複合型としている。一方で、カスタムとパッケージの複合型を実現するためには、複雑なシステム実装において、一定のグローバル開発を推進できる体制とパッケージ特性・技術面での知見を持った人材を確保している。

当然、上記と反対の考え方も存在しており、経済合理性・実現性(実装リスク低減)の観点で商品・サービス領域別ではなく、地域別にフルラインのパッケージを活用しているケースも存在している。

➂標準化(グローバル統一VSリージョナル)[図表3]

海外ビジネスにおけるシステム統合というテーマは、今後同様の事象が見込まれるため、一定の標準的な考え方を持つ必要がある。前述の海外銀行ではグローバル標準でのアーキテクチャを構築し、それを物差しとしてグローバルレベルでシステム統合を推し進めている。

おわりに

本テーマは、今後の海外ビジネス展開において避けては通れない事項と認識している。

本邦金融機関でも海外システムに対する全体方針・標準アーキテクチャ・ガバナンス含めて再定義する必要性が出てきていると認識している。

今後の海外システム検討における一助となれば幸いある。

※FSアーキテクトは、金融業界のトレンド、最新のIT情報、コンサルティングおよび貴重なユーザー事例を紹介するアクセンチュア日本発のビジネス季刊誌です。過去のFSアーキテクトはこちらをご覧ください。

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