企業情報システムの複雑化が進む今、日本の金融機関はテスト・コストの急速な増加という大きな問題に直面しています。金融機関がテスト工程に費やす費用は、実に情報システム開発予算の半分程度。つまり2億円の予算をかけた開発プロジェクトで、形として何かが残るわけではないプロセスに約1億円を投じている計算になります。新たなテクノロジーや業界を超えたエコシステムの活用などをつうじた顧客体験の向上が緊要の課題となる中で、この問題に対応する必要性はさらに高まっているのです。

ソフトウェア環境の急速な変化もこうした流れを後押しする要因となっています。例えばスマートフォンのOSが開発元の都合で突然アップデートされれば、開発したアプリが一夜にして使い物にならなくなる恐れもあります。サードパーティのソフトなどと「緊密につなげる」(hyper-relevant)サービスの提供が、企業の競争力に多大な影響力を及ぼしつつある今、テスト工程を遂行するために必要なリソースは日増しに増えているのが現状です。

課題への対応

テスト・コストの増大という問題は、2つの意味で日本の金融機関に深刻な影響を及ぼしています。その1つは、新商品・サービスの市場化スピードが落ちていること。そして2つめは、負荷増大によりテスト自体の効率性・質が低下していることです。国内金融機関の経営者も、この問題が及ぼす影響の深刻さに危機感を強めています。しかし、テスト工程の最適化をどのように進めるべきか、そしてどの部分でコスト削減が可能なのか、必ずしも明確に把握できていないのが実情です。

日本特有の文化もこうした問題の要因となっています。日本企業の多くは、業務の様々な分野で完璧を求める傾向が強く、深刻度や影響が及ぶ範囲に関わらず、あらゆるシステム障害を「許されざる問題」と捉えがちです。システム障害に対する規制当局の厳格な姿勢、そして消費者の過剰ともいえる反応も、企業のこうした傾向に拍車をかけています。「障害ゼロ」というプレッシャーに絶え間なくさらされた結果、IT部門は被害規模や深刻度といった基準で優先順位を整理し、テスト工程の効率化を図ることもままならないという悪循環に陥っているのです。

テスト工程の効率化に向けて

ではこうした現状に対応するため、金融機関はどのような方策を打ち出すべきなのでしょうか?大きく分けて2つのアプローチが考えられます。

テスト・アプローチの使い分け

1つめは、対象となるシステムの性質に応じてアプローチを使い分けることです。例えばメインフレームあるいは顧客情報、口座残高、保険請求に関するデータを扱うシステムなど、金融業務の根幹となる分野では障害が許されません。こうした分野では、シェアード・サービスやオフショア・サービスなどを活用してコスト削減を図りながら、「ウォーターフォール」あるいは「Vモデル」と呼ばれる既存の工程管理手法(工程をフェーズに分けて管理し、各工程で動作確認・整合性のテストを実施してから次のフェーズへ進む手法)を用いてテストを進めるのが適切でしょう。

その一方で、エコシステムをつうじたステークホルダーの連携のためにデータを活用(生成ではなく)するような分野では、より踏み込んだアプローチが可能でしょう。例えばデジタル部門、営業開発部門、経営企画部といった部署は、このカテゴリーに入ります。こうした分野では、RPAやAIといった新たなテクノロジー、あるいはDevOpsやアジャイルといった手法を用い、より先進的な考え方でテスト工程を進めることができます。

新たなアプローチの導入にあたり最も重要となるポイントの1つは、テスト工程を担う専任チームを設けることです。システム開発チーム自体がテスト工程も担当すれば、プロセスの透明性・効率性という意味で齟齬が生じ、品質の低下リスクが高まるからです。また独立した専任チームを作り、開発と並行してテスト作業を行うことで、客観的な視点からより精度の高い分析が可能となり、開発期間の長期化やテスト工程の複雑化につながる問題を、要件定義・基本設計といった早い段階で特定できます。テスト工程でしか品質の作りこみができなかった従来のアプローチに対して、より上流工程(Vモデルで言う左側の工程)での品質を作り込みを可能とするこのアプローチを私たちは「シフト・クオリティ・レフト」(Shift Quality Left)と呼んでおります。テクノロジーの進化により基幹業務の効率化・自動化が加速する中、こうしたアプローチを適用可能な領域は今後ますます拡大していくでしょう。

トップダウンの重要性

もう1つ検討すべきアプローチは、テスト工程をトップダウンで戦略的に進めることです。工程の効率化という面から考えた場合、IT部門が主導する従来の手法には限界があります。IT部門にとっての最優先事項が、何としてもシステム障害を未然に防ぐという点にあるからです。例えばある企業のCIOによると、同社のシステムに問題が生じた際、3行のコードを特定・修正するのに数ヶ月と数億円が費やされたといいます。これもIT部門の担当者が、スピードや効率性よりも徹底した問題解消を優先したために生じた結果といえるかもしれません。

テスト工程の透明性を高め、テストチームとステークホルダー間のコミュニケーションを改善することが重要なのは言うまでもありません。それと同時に、経営役員あるいはビジネスへ戦略的に携わる部署のイニシアティブの下でテストを進めれば、より広い視野から工程全体を把握し、経営ビジョンやビジネス遂行上の優先事項に沿った形でプロセスの効率化を図ることができるでしょう。

弊社が最近アフラック生命保険株式会社様と行った取り組みは、こうしたアプローチの有効性を示す良い例です。このケースでは、時間・コストが急速に増加するシステム開発の現状に危機感を持ったCIOが、20%のコスト削減という目標を掲げてプロジェクトをリードしました。同CIOのリーダーシップと経営ビジョンが重要な役割を果たしたのです。また同プロジェクトでは、前述の通りテストチームを開発チームから独立させて、従来の「Vモデル」から「Wモデル」へとプロセスモデルを切り替え、上流工程から行うチェックとテストで品質を作り込むアプローチ「シフト・クオリティ・レフト」(Shift Quality Left)を採用しました。

CIOが掲げた20%のコスト削減という目標は、新たなアプローチの導入から1年後に達成され、システム開発コストに占めるテスト工程の割合も約50%から30%に縮小。開発終了後のシステム障害件数も33%減少しました。こうした数字は、テスト工程の見直しがもたらすポテンシャルを如実に物語っています。同様の問題に直面する他の金融機関の皆様も、新たなテスト・アプローチの可能性を模索してみてはいかがでしょうか?