直近10数年で急激に成長を続けている世界のクラウドサービス市場は、今や年間26兆円規模の市場にまで成長している。

また、AWS,Azure,GCPなど“ハイパースケーラー”と呼ばれる主要クラウド企業は、年間1兆円規模の投資を重ねてITインフラ設備の強化のみならず、先進的ソリューション・サービスの進化を続けている。

この先の数年間で企業のクラウド移行はピークを迎えていくと予測しており、国内金融機関におけるこれまでのクラウド活用のされ方を論じると共に、ハイパースケーラーが提供する機能、サービス、メリットをフル活用した戦略的なクラウド活用に向けて取り組むべきことを論じたい。

クラウドの価値

クラウド市場の動向

クラウドは、AmazonやGoogleが最初にクラウドサービスを開始した2006年から2008年頃に普及し始め、2019年には約26兆円の市場規模へと成長し、2022年には1.5倍の約39兆円にまで達する見込みである。(図表1)

弊社の最新調査レポートSky High Hopes:Navigating the Barriers to MaximizingCloud Valueによれば、大規模なクラウド移行ほど、多くの成果を生み出していることが明らかになっており、いかにクラウドを活用していくかがより重要になってきている。

ハイパースケーラーの価値活用

現在のクラウドサービス市場において、AWS(Amazon Web Services)、Azure(Microsoft Azure)、GCP(Google CloudPlatform)などの“ハイパースケーラー”と呼ばれる主要クラウド企業では、すでにワールドワイドの巨大なITインフラ設備を所有しており、さらには業界大手パッケージベンダーの3倍以上となる1兆円規模の投資を重ねることで、ITインフラ設備の強化だけでなく、先進的ソリューションやサービスの進化を続けている。

国内では、コスト削減を主目的としてクラウドを活用する傾向が未だ見られるが、ハイパースケーラーの価値を単なるコスト削減ツールとして見続けるのか、今後のイノベーションパートナーとして位置づけ、新たなビジネスモデル創出などに取り組むのか、により将来のビジネスの成否が決まるのではないかと思料する。

国内金融機関でのクラウド活用状況

総務省の平成30年度情報通信白書によると、コスト削減や新規サービスの展開を目的として、国内金融機関の44.3%がクラウドを活用していると答えている。(図表1)

さらには、高い安定性・堅牢性が求められることから、オンプレミス環境で構築されることが多い基幹系業務システムにおいても、クラウドの活用が進み始めている。

弊社でもフルクラウド基幹系システムソリューション「アクセンチュア クラウドネイティブ コアソリューション」(通称MAINRIメイリー)を提供しており、国内金融機関の次世代基幹システムとしてクライアントに採用されている。

クラウドファーストを宣言し、全社的にクラウド化を推進している国内金融機関まだ少ないと考えるが、今後、基幹系システム含め国内金融機関でのクラウド活用はさらに進んでいくと予測する。

これまでのクラウド活用のされ方

これまでのクラウド活用の主な目的としては、“IT効率性・アジリティの獲得”、“クラウド事業者のサービス開発力の活用”の2点が考えられる。また、クラウド活用の進め方は、“全社的にクラウド活用を推進しているケース(Transformational型)”、“IT部門やビジネス部門主導により部分的にクラウド活用をしているケース(Incremental型)”の2つに分類される。(図表2)

図表2に示すとおり、多くの国内金融機関では、部分的なクラウド移行、部分的なSaaS導入にとどまっており、クラウド活用による効果を最大限享受できているとは言えないと推察する。

部分的なクラウド活用の問題

部分的なクラウド移行とは、“IT効率性・アジリティの獲得”の中でも、特にITコスト削減を目的とし、クラウドへ単純移行可能なシステムのみ順次移行している、またはした状態を示す。

また、“クラウド事業者のサービス開発力活用”を目的として、特定の領域でSaaS(Software as a Service)を導入しているケースも多く、これを部分的なSaaS導入の状態とする。

確かに、これら状態において、一定のコスト削減、SaaS導入によるソフトウェア開発の効率化などが実現できているはずである。

しかし、金融機関ではクラウドへ単純移行できない古い/特殊な技術を利用したシステムも多く、また、SaaSに全て置き換えることも難しいため、自社のデータセンターなどに既存システムは残り、足枷となり続ける。つまり、クラウドのメリットであるアジリティが生かしきれないだけでなく、クラウド上のシステム、既存システムの2重管理により運用負荷が増える場合もあり、クラウド活用による効果が限定的になっている。

戦略的なクラウド活用

クラウド活用による効果を最大限享受するためには、部分的なクラウド移行から脱却し、変革の一手としてフルクラウド化すること、加えて戦略機能をクラウドネイティブ化することの2つが肝要と考える。

変革の一手としてのフルクラウド化

単にコスト削減のために部分的にクラウド移行していくのではなく、中長期視点でのIT効率性の獲得、ビジネス環境変化に追従可能なITアジリティの確保など、全社変革の一手としてクラウド活用をとらえる必要がある。つまり、経営課題としてクラウド活用が考えられており、クラウドへ移行された先の、ビジネス価値創出のビジョンが明確になっていることが求められる。

例えば、国内の保険会社では、顧客接点の観点と自社の商品・サービスの提供価値などの観点から目指すべきビジネスの方向性を定め、柔軟かつ迅速なチャネル展開、商品・サービス提供を支えるITとしてフルクラウド化を掲げている。

必ずしも全てのシステムをパブリッククラウドへ移行する必要はなく、プライベートクラウドを活用し、自社で技術力を獲得していく方向性も考えられる。

戦略機能のクラウドネイティブ化

ITの効率性、ITアジリティの獲得に加え、クラウド事業者のサービス開発力も活用し、戦略機能で総合的にクラウドを活用して競争力強化をしていく。

例えば、国内の銀行では、これまでのインターネットバンキングとは一線を画す、デジタル起点での新しいサービスを提供し、口座開設、入出金、振込などすべてのサービスをスマートフォン上で完結させることに加え、APIを介して事業パートナーへ自社の銀行機能・サービスを提供しようとしている。既存システムをクラウド上に単に乗せ換えるのではなく、ハイパースケーラーが提供する機能、サービス、メリットをフル活用し、IT部門とビジネス部門が一体となり、新たなビジネスモデルの創出により競争力を強化している。

戦略的なクラウド活用に向けて

コスト至上主義からの脱却

IT部門主導型でコスト削減だけにとらわれてクラウド移行を進めてしまうと単純移行が困難なレガシーシステムの壁にぶつかり、結果としてクラウド移行が限定的にとどまってしまう。

クラウド移行の必然性を全社的に、つまり経営層が御旗として掲げ、ITの効率性とアジリティの獲得による中長期的な効果を見据えるなど、コスト至上主義からの脱却が必要となる。

既存ありきからの脱却

既存ありきでクラウド化を進めてしまうと、ITの効率性やアジリティを最大限獲得できても、既存の業務要件、業務プロセスには一切手を加えず、結果的にビジネス視点では従来と何も変わってないといったことが起こりうる。

ビジネス、IT共にクラウドネイティブの発想も持ち、ゼロベースで戦略機能の新たな形を考えていく必要がある。

おわりに

コスト至上主義、既存ありきからの脱却は、これまでの企業の判断ロジックでは意思決定できないケースが多いと考えられ、戦略的クラウドの活用に踏み出すには、経営陣の英断が強く求められる。

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