本ブログ(全4回)の第1回では、リモートワーク体制の構築が持つ戦略的な意味合いについてお話しました。第2回となる今回は、業務・本社という側面からリモートワーク推進がもたらす課題と変革についてお話します。

業務

金融機関の特性とリモートワーク

パンデミックの拡大はあらゆる業種に影響を及ぼしていますが、金融機関はリモートワーク体制の構築という面で特に大きなチャレンジに直面するセクターです。その理由の1つは、金融機関の事務センターが特定ロケーションでのオペレーションを前提としていることです。顧客情報や契約・資金移動にまつわる情報など、事務センターでは機密性の高い情報を取り扱っており、入退室管理や監視カメラなどの高いセキュリティーレベルの設備や制度が徹底されています。また紙ベースの業務や勘定系・基幹系システムの存在も大きな制約となっています。近年、国内金融機関でもWebベースの取引機能拡充が進められていますが、依然として紙ベースの業務は多く存在し、事務センターでの書類管理・処理が不可欠です。システム面でも、事務センターに設置された勘定系システム等のスタンドアロン端末は他のネットワークから独立運用されていることが多く、アクセスが物理的に隔離されたネットワーク内に限られています。このように、金融機関には特定ロケーションでの業務遂行を求められる領域が多く存在するため、リモートワークの導入が容易ではないのです。

コロナ危機発生後、日本の金融機関はこうした制約の中で時間交代制の業務シフトなど様々な対策を進めました。緊急対応を余儀なくされたことで多くの課題に直面しましたが、思わぬ発見があったのも事実です。例えば、急増した業務負荷へ限られた既存要員のみで対応したにもかかわらず、概ね安定したオペレーションが遂行され、大きな問題が発生することはありませんでした。現場の努力や工夫などもあり、図らずも生産性向上が実現したのです。また顧客のオンライン志向が高まったことにより、これまで利用率が伸び悩んでいたウェブサービスの普及が進み、デジタル完結が進みました。デジタル化の拡大で事務センターの業務体が減少するなど“怪我の功名”ともいうべき側面もあったのです。

コロナ危機とオペレーションのあるべき姿

ただしコロナ危機発生以前から抱えていた根本的課題が解消されたわけではありません。金融機関は、コロナ危機がもたらした新たな環境を踏まえながら、オペレーションのあり方を見直す必要性は変わりません。今後求められる取り組みの中で重要なポイントは3つあります。

  •  顧客接点のデジタル化加速

金融機関のデジタルサービスには、顧客体験という面で大きな改善の余地が見られます。堅牢なオペレーションの維持が重視されるあまり、顧客目線に立った体験設計という考え方が疎かにされてきたのは事実です。今後は顧客体験の刷新という視点でUI・UXをより洗練し、顧客によるセルフサービスの領域を増やすことで事務オペレーションの効率化・負荷軽減を実現するという取り組みが求められます。現状のコロナ禍だから我慢して使うではなく、当たり前に便利だから使う姿を追求する必要があります。

  •  残ったオペレーションの再検討

デジタル化は比較的業務量の多い業務が対象となることが多く、少量多品種の業務に対する投資はROIが成り立ちづらく後回しにされがちです。近年は、比較的少ない投資で自動化を進める(例:RPAの活用)取り組みも行われていますが、依然として事務効率化の足かせとなっているのが現状です。顧客に与える不利益を懸念し、なかなか手を付けられずにいた少量多品種業務ですが、人による手厚い(過剰ともいえる)顧客サービスの維持自体が難しい今、より踏み込んだ商品・サービス再編が求められています。この機会に統合・廃止等も視野に入れた抜本的な見直しを行う必要があるでしょう。

  • 一部業務のリモート化

先にお話ししたセキュリティ等の制約から、事務センターの業務全体をリモート化することは多くのハードルが存在しています。しかし紙ベースの業務の中にも、簡単な入力業務や比較的機密性が低い情報を扱う業務など、リモートワークへの移行が可能な領域も存在します。OCRやクラウドベースのワークフローシステム、仮想デスクトップ(VDI)など、こうした領域でリモートワークを実現するためのテクノロジーは十分実用レベルに達しています。また最大の懸念材料となるセキュリティに関しても、情報漏洩・持ち出しを防止する仕組みは仮想化技術の活用をつうじて構築可能です。従業員のモニタリング・プライバシーにまつわる課題もありますが、こうした選択肢の検討は早期に着手が必要です。現在アクセンチュアでは紙帳票をすべからく一拠点に集約し、AIを活用しながら、情報のデジタル化を行い、クライアントシステムとデータ連携するDigital BPOも進めており、そういったソリューションも今後拡大するでしょう。

オペレーションモデル再考の必要性

ここまでオペレーション領域におけるリモートワーク体制構築の要諦についてお話しましたが、 もう1つ留意すべき重要なポイントがあります。それはコロナ危機により、オペレーションのあり方そのものの再考を求められているということです。これまで金融機関で主流だったのは、標準化・集約をつうじて業務を顧客に近いフロントからバックオフィスへ移管し、自動化・コスト削減を進めるというモデルです。この取り組みによりもたらされたメリットもありますが、トレードオフの中で失われたものも少なくありません。スピード(顧客へのリードタイム)減少・顧客ニーズへの対応力低下はその最たるものでしょう。コロナ危機による事業環境の変化に伴い、顧客視点の重要性がさらに高まる今後、こうした企業目線の考え方・アプローチは間違いなく見直しを迫られます。金融ビジネスの特性がもたらす制約を克服し、リモートワークを実践するという短期的課題にとどまらず、包括的デジタルシフトをいかに推進すべきか、コロナ時代の事務オペレーションはどうあるべきかという根本的な問いかけを行うことが今求められているのです。

本社

コロナ危機と新たな“本社”のかたち

ここまでお話してきたとおり、様々な制約が存在する金融機関の事務オペレーションではリモートワークの実践が遅れていますが、フロント領域では急速に導入が進みました。そして今、取り組みの進化と共に、本社が目指すべき組織形態と働き方のかたちは大きく変わりつつあります。

特に注目に値する流れの1つが、ジョブ型雇用への移行です。これまではメンバーシップ型雇用をベースに、フルタイムで働く従業員がチーム・組織という単位で仕事を担うというモデルが主流でした。しかし今後はリモートワークを前提とし、特定のスキル・専門知識を持った人員がプロジェクトやミッションごとにチームを編成するという働き方へ移行していきます。人口・市場の縮小や異業種参入による競争激化などを背景に、国内金融機関の多くはコロナ危機発生以前からこうしたモデルへの移行を進めていたものの、収益面への影響に対する懸念や既存人事制度の制約などもあって抜本的改革には至っていませんでした。しかしパンデミックによって働き方の見直しを余儀なくされている今、改革に大きなはずみがついているのです。

リモートワークとジョブ型雇用の推進により、組織のあり方自体も大きく変わっていきます。その特徴の1つは、フラットかつアジャイルな組織形態です。頂点から様々な部門・部署が連なるピラミッド型の組織構造は、経営チームをトップに残しながらも残りはフラットな(いわば文鎮のような形をした)組織へと変貌を遂げていきます。こうした組織では、少数の専門家が部署を超えたコラボレーションで高付加価値の商品・サービスを創造し、顧客に提供します。もちろん所属組織・部門などが完全に無くなるわけではありませんが、これらは同じ機能・スキルを持つ人材のユニットであり、(仕事の場というよりも)スキル向上、能力開発や先進性の高い取り組み創出の場となるでしょう。

この新たなフラット型組織においては、本社も非常にコンパクトな形態へと変貌を遂げます。部門やプロジェクトが常に同じかたちで存在せず、ミッションごとに最適なチーム編成や管理指標の設定を行う必要があるからです。細分化された領域ごとに役員が配置され、企画から推進までビジネスのあらゆる側面に関与統括して意思決定を行うという従来のスタイルから、ごく少数の経営チーム(意思決定者)が、経営ダッシュボードなどをつうじて提供される現況報告・分析・動向予測などの情報を元に判断を下す司令塔的存在へと本社の役割が変化していくのです。

フラット型組織実現に向けた課題

新たな時代に求められるこうした組織形態を実現するためには、主に2つの課題へ対応する必要があります。

その1つは企画担当者・組織の生産性管理に向けたタレントマネジメントの最適化です。企画職には、プロジェクトの策定だけでなく推進・実現にまつわる調整など様々な側面があるため、(営業・事務職と比べ)成果主義的な評価が容易ではありません。今後はコミュニケーションツールや生産性管理ツールといったデジタルテクノロジーの活用をつうじ、情報分析体制の強化や個人・事業全体の成果評価指標の明確化をさらに進める必要があるでしょう。

もう1つの課題は、人材のエンゲージメント向上に向けた取り組みです。アジリティの高い新たな組織形態に求められる高スキル人材は“引く手あまた”であり、獲得・維持が決して容易ではありません。多くの企業では依然として、成果報酬などのインセンティブ、研修の充実など、福利厚生・労働環境面の充実をつうじた訴求力向上という定番のアプローチが繰り返されていますが、こうした企業目線の手法には限界が見えはじめています。今後は、“ロイヤルティ(忠誠心)と誇りを持てる会社”になれるかどうか、つまり従業員側からみた体験の向上へいかに取り組むかが重要となるのです。その鍵を握るのは、人材それぞれの本気・やる気を高める体験、つまり “真実の瞬間”(Moment of Truth)を作り出すことです。データ分析など現代の先進デジタルツールを駆使した体系的手法を使えば、スキルを最大限発揮しようとする従業員自身のモチベーションを引き出し、“誇りとやりがい”を培うことも可能です。能力・スキルを発揮する場を求める従業員の視点に目を向けながら、質の高い働き方と成果を生み出せる組織への転換に取り組む姿勢が今求められているのです。

第3回となる次回は、営業・コンタクトセンターの観点からリモートワークについてお話します。