Other parts of this series:
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の拡大は、今も社会・経済に計り知れない変化をもたらしています。ビジネスの世界にも様々な影響が及んでいますが、特に顕著なのはリモートワークの急速な普及による企業・働き方の変化です。この流れがもたらすインパクトは、業務遂行のロケーションやオンラインツールの導入といった目先の変化にとどまりません。究極的には企業・ビジネスのあり方を根底から覆してしまうような、大きな変革の波が生じつつあるのです。リモートワーク体制の構築は、コロナ対策という枠組みを超えて企業にどのような変革をもたらすのでしょうか?そして金融業界は直面する課題へどう対応し、競争力強化・持続的成長の実現に向けてどのような戦略を描くべきなのでしょうか?本ブログ(全4回)ではリモートワーク体制構築の戦略的意義を検証するとともに、業務・本社・営業・コンタクトセンター・ITという5つの領域に注目し、取り組みの要諦にウィズコロナ・ポストコロナ時代への対応に向けたビジョンとついてお話します。
コロナへの対応に向けた3つのステージと“Next Normal”
コロナ危機がもたらす変革を考える上でまず必要となるのは、企業による対応の目的・性質の変化を検証することです。パンデミックに対する企業の対応は、『アゲインスト・コロナ』・『ウィズ・コロナ』・『ポスト・コロナ』という3つのステージに分けることができます。まずパンデミック発生直後に直面した最初のステージ『アゲインスト・コロナ』では、コロナ危機へどう立ち向かい、新たに生じた予測不可能な事態・苦難にどう耐えるかということが主な課題となりました。ここで企業にとって優先事項となったのは、消費者・従業員・ステークホルダーを感染の危機からいかに守るかというテーマです。
現在私たちがいるのは『ウィズ・コロナ』というステージで、これまでに得た知見・経験を活かしながらパンデミックを前提とした活動を再開し、ビジネスを回復させていくことが主な課題となります。最初のステージでは未知の部分が多く、ともすれば緊急避難的な対応に陥りがちだったため、多くの企業で業務・労働環境の質が低下しました。このステージでは、新たな環境に適応して従業員の働き方を変えながら、顧客・消費者が求めるサービスの質を回復させることが重要なテーマとなります。
そして今後私たちが経験するのは『ポスト・コロナ』というステージです。ここではコロナ危機がもたらした環境を最大限活用しながら従業員との関係を再定義し、 “ニューノーマル”を踏まえた新たな価値を消費者・顧客へ提供することが主題となります。言うまでもなく、ここで求められるのは、コロナ以前の環境・体制への回帰ではありません。社会・経済の変化とその結果生じた新たなスタンダードを踏まえ、これまでよりもさらに質の高い働き方・顧客価値を実現するとともに、ビジネスの持続的成長につなげることが求められるのです。
リモートワークの戦略的重要性
そして企業が新たな時代へ対応し、成長を実現する上で極めて重要な鍵を握るのがリモートワーク体制の構築に向けた取り組みです。現在多くの企業が、従業員を守りながらビジネスを回復・継続することを目指してリモートワーク体制の構築を進めていますが、ここで強調しておきたいのはこの取り組みが単なるコロナ対策という枠組みを超えた重要性を持つという点です。中でもとりわけ注目する必要があるのは、人材確保・コスト構造改革・新たな価値創造という3つの側面です。
人材確保
コロナ危機発生直後は、既存従業員を守るという観点に軸が置かれていたリモートワークですが、今後は新たな人材獲得という面からも迅速かつ質の高い体制構築が不可欠となります。リモートワークが人材面に及ぼす影響は、すでに数字として表れています。例えば今年4月に行われたある調査によると、コロナ危機を契機に転職活動への意識を高めた回答者は全体のほぼ半数(48%)に上ります。そして多くの回答者は、「(所属先が)社会状況の急変に無関心であり、対応しなかったから」、あるいは「(所属先が)適切かつ迅速な対応をできる能力がないと分かったから」といった理由を挙げています[1]。
また別の調査結果を見ても、所属企業によるコロナ対策への満足度は、時差通勤・在宅勤務など新たな働き方の導入時期によって2倍以上の開きが生じています[2]。。そして特に20・30代の人材は、リモートワーク体制の継続を望む傾向が強く見られます。つまり、将来的な人材獲得という視点からリモートワーク体制の構築・充実に取り組まない企業は、優秀な人材に選ばれないという時代が到来しつつあるのです。
コスト構造改革
コスト構造改革という観点も極めて重要です。その大きな理由は、コロナ危機により消費者自身が実際に店舗を訪れて商品を買う、あるいは街を歩いて様々な店舗を見ながら欲しいモノを探すといった購買行動が著しく減少していることです。コロナ対応の経験値が上昇すれば(あるいはワクチンが開発されれば)、人の流れは一定の回復を見せるはずですが、危機発生以前のレベルまで戻る見込みは低いのが現状です。今後ビジネスの中でオンラインの比重が加速度的に高まり、店舗の果たす役割、ひいてはフロント業務全体におけるコスト構造の見直しが不可欠となっていくでしょう。リモートワーク体制の構築に向けた取り組みをコスト構造変革の機会として活用することは、企業にとって極めて重要な課題となるのです。
新たな価値創造
リモートワーク体制の構築には、デジタルツールの効果的な導入・活用が欠かせませんが、これは物理的距離・時間・時差といった制約を克服し、企業が新たな価値を生み出すきっかけとなるでしょう。デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が高まる中、企業は様々な取り組みを進めてきましたが、既存業務や組織の壁に阻まれ、必ずしも抜本的変革の実現には至っていません。しかしリモートワークの推進が最優先課題となった今、デジタル化加速の大きな推進力が生まれています。この機会を効果的に活用すれば、デジタルならではの強みを活かした効率化・顧客価値を実現し、新たな市場環境での競争力強化につなげることができるでしょう。リモートワークは、パンデミックへの対応と従業員の安全確保にとどまらず、新たな時代に向けた競争戦略上の取り組みとして不可欠となっているのです。
戦略的イニシアティブの一環としてリモートワーク体制の構築を進めるために重要となるポイントが1つあります。それは、組織全体として幅広いアジェンダへの取り組みを包括的に進めることです。リモートワークを実現するためには、まずシステム・ツールなどの仕組み導入、業務の進め方・ルールの見直し・最適化や、新たな仕掛けを顧客に理解してもらうための働きかけが必要となります。こうした取り組みを部門・部署単位で対症療法的に進めるのではなく、組織全体として遂行し、企業としてのパラダイムシフトへとつなげていくことが極めて重要となるのです。
では、金融機関が様々な領域においてリモートワークを推進する上で直面する課題、そして取り組みを新たな競争力の創出へとつなげるためのビジョンとはどのようなものでしょうか?次回以降のブログでは、金融ビジネスを業務・本社・営業・コンタクトセンター・ITという5つの領域に分け、リモートワーク体制構築にむけた取り組みの要諦と変革の可能性について詳しく解説していきます。
[1] 総合転職エージェントの株式会社ワークポートが、自社を利用して転職を希望している20〜40代の男女937名に行ったアンケート調査より(4月度調査)
[2] ロバート・ウォルタース・ジャパン株式会社 『コロナ対策「働き方」、初期導入の企業で従業員エンゲージメント高まる』(2020年4月に調査実施)