金融機関における雇用・働き方の未来
ブログの第1回では、人とAI(人工知能)の「協働」が日本の金融機関にもたらす機会についてお話ししました。ポイントは、人員不足を補うためにAIを既存の枠組みの中でシステム化や自動化に用いるのではなく、人間の創造力と融合・共存する新たな存在として捉えることです。AIを進化させながら、複雑な課題の克服や新製品・サービスの開発、新市場への参入や市場創出などに活用できるかどうかが、将来における成功の鍵となります。
人とAIの「協働」がもたらす効果は、Big Dataからの発見や多様な顧客ニーズに沿ったサービス提供など、人だけでは到達しきれなかった(または長時間を要した)多くのビジネス機会につながることが期待されます。アクセンチュアが実施した、AI(人工知能)と働き方の未来に関するグローバル調査「Accenture Future Workforce Research」では、金融サービス機関がAI導入および人との連携推進に向けて投資を行えば、2022年までに32%の収益向上、9%の雇用拡大を実現可能という結果が出ています1。
ただし推進には大きな課題があります。日本の金融機関はAIとの「協働」を実現する上で有利な特徴を備えているものの、AIの「同僚」となる社員は新たな働き方への適応準備ができているとはいえません。
蔓延する不安感
AIと働き方の未来に関するアクセンチュアのグローバル調査によると、日本はAI活用に必要な社員の意識改革が遅れています。
「AIと協働するために新たなスキルを習得することが必要だ」という記述に同意する回答者は、グローバル平均の68%に対し、日本ではわずか24%。「過去1年間に、AIとの協働に向けたスキル習得に取り組んだ」という記述に同意した回答者も46%で、グローバル平均の83%を大きく下回っています。
こうした傾向の一因となっているのは、中長期的な戦略的ビジョンの不足です。今回の調査結果によると、日本人回答者の多くはAIが仕事にもたらす影響に対して漠然とした不安感を抱いています。「AIが仕事にポジティブな影響をもたらす」という記述に同意した回答者は、グローバル平均で62%に達する一方、日本の回答者ではわずか22%にとどまりました。また「AIが仕事にもたらす具体的な変化がわからない」という記述に同意する回答者もそれぞれ15%・25%と大きな差が見てとれます。
不安の払拭には、経営層による社員への説明、対話が重要です。すなわち、経営層自ら先行して技術がもたらす影響について熟知した上で、社員に対し、人とAIの連携がリスクよりもメリットをもたらし、中長期的成長に欠かせないことを説明しつつ、自社での活用を進めるという方針を明確にすることが肝要です。
前回のブログで取り上げたとおり、AIをはじめとするテクノロジーが今後3年間に与える影響として日本の経営層の76%が雇用の創出を期待しています。調査対象国の中で最も前向きなこの結果からも、AI導入が社員にもたらすメリットは明らかです。
スキル獲得(リスキル)と具体的取組みの推進
社員にも準備や努力が必要です。AI活用に必要な知識・スキルを習得し、変化を続けるビジネスの中でAIを活用する適応性(アダプタビリティ)を向上させることが求められています。
データ分析やデジタルツール活用といった「ハードスキル」は、社員が「スペシャリスト」としての地位を確立するために欠かせません。しかし今の時代には、それと同時に変化へ対応する機動性・柔軟性も求められます。時間や費用をかけてせっかく習得したスキルも1年後にはより安価な労働力に代替されたり、技術向上により無用となることがあり得ます。
経営層は社員が短期的に得られるスキルではなく、経験を積むことで差別化を図れるキャリアを形成できるよう、支援することが重要です。AIとの協働を通じた変革機会を捉えるマインドセットや洞察力、変革を進める機動力や推進力を身につけるための人材育成が、今後の成長の鍵となります。
各金融機関では、社員のスキル獲得と並行して、戦略的ビジョンに基づく具体化の取組を進めなくてはなりません。AIも社員も既存のビジネスと比べて確実性や収益性の面で十分とはいえない段階から、試行や取組への投資を始めることになります。AIを自社の中核に据えた高付加価値企業へのシフトを実現し、社員のキャリアアップ、顧客への付加価値の増大、企業の競争力強化を図るためには、3年以上、粘り強く取り組む必要があります。
次回のブログでは、金融サービス業界に焦点を当て、AI活用に向けた戦略的ビジョン、そして社員とAIの「協働」がもたらすポテンシャルを最大限引き出すための留意点などについて解説します。