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近年の度重なる規制強化やITコスト、人件費の高騰をうけて、取引単位あたりの収益率の改善は依然として重要なテーマとなっている。

Generative AIをはじめとするAIは、トレーディング領域の仕事の多くを代替可能であり、脅威であると共に、上手く活用することで顧客への価値提供を効率化・高度化することができると想定される。

また、AIは従来の開発のように想定された結果が一度で得られないことも多く、AIの導入は従来のやり方とは異なる点を注意する必要がある。

本稿では、トレーディング領域におけるAIの活用ケースとAI導入において留意すべき事項を考察していきたい。

トレーディングにおける動向

世界的な金利緩和政策は一巡した様相であるが、主要国の金利上昇、株高は続いている。

マーケット状況の変化を背景として、取引量は増加傾向にあり、フロー確保のための攻めの投資が拡大していく一方で、依然として、近年の度重なる規制強化やITコスト、人件費の高騰をうけて、取引単位あたりの収益率の改善は重要なテーマとなっている。

トレーディング領域におけるAIの可能性

近年、Generative AIの台頭が目覚ましい。当社の調査では、Generative AIによって最も大きな影響をうける業界が金融業である。影響がある業務の割合は、全業界の平均値が40%であるのに対し、金融業は66%に上る。(図表1)

Generative AIは、従来のAIでは対応できなかった文章や画像の生成が可能である。Generative AIを他のAIや技術と組み合わせることで、業務におけるラスト1マイルを自動化・高度化することができる。

既に多くの金融機関でAIの活用が進んでおり、対応の遅れが競争力の差に直結する。海外の大手銀行ではAIなどの新たな技術に対して、年間40億ドル近い投資をしている。加えて、トレーディング部門のDigital Transformationに対する投資は増加傾向にある。実際、Goldman Sachsは直近四半期ベースでDigital Transformationに対する投資を20%増加させた。

トレーディング分野におけるAIの活用ユースケースは以下3つに大別できる。

➀執行・プライシングの高度化

顧客にHitするプライスや条件を提示するために、マーケットの予測や顧客担当者の取引行動の分析が重要となる。

特に、マーケット分析においては、従来のマーケットデータに加え、IoTからもたらされるオルタナティブデータなどを取り入れた高度な分析等、AI活用事例は多数ある。執行・プライシングは他社との差別化領域であり、数値による分析が多いため、内製によるAI活用がメインテーマである。

➁情報提供などの顧客サービスの高度化

顧客からのフローを獲得するうえで、顧客への情報提供力が重要となる。

機械学習、等により顧客の行動・志向を分析し、最も問い合わせが来る可能性が高い内容・タイミングを先回りして、情報を生成し、自動で発信することも技術的には不可能ではない。さらに、トレーダー間の会話内容を踏まえて情報を生成することも可能だ。

➂業務の自動化・効率化

今までの効率化の主戦場は「事務」であったが、AIは「事務」のみならず「リサーチ」「セールス」、などの在り方も大きく変える。

Generative AIが、マーケット情報が公開され次第、即座に情報を取得し、アナリストレポートの自動生成や顧客向けのセールストークスクリプトの作成することで、リサーチやアナリストの業務を効率化することが可能となる。

Sales AIアシスタント

トレーディング分野において、フロー獲得に向けた対応は様々あるが、本稿では顧客からのフロー獲得に向けたセールス活動を取り上げる。

顧客の多様なニーズに対して、迅速かつ的確な情報の提供可否がセールス活動の重要な要素の一つである。実際、セールスは、知識と経験に基づいて、顧客から求められると想定する情報を社内外から集め、自身の手元に簡易なデータベース(Accessなど)を作っていることがよくある。保持していない情報を求められれば、社内の検索エンジンや部署を跨いで情報を捜索する。そのため、データへのアクセス力・提供スピードを向上させることが、セールスの効率性向上と共に、顧客の満足度向上に繋がる。

AIの活用方法の例として、Sales AIアシスタントを紹介する(図表2)。

Generative AIは顧客ニーズを読み取り、適切な情報へのルートを思考し、情報を取得することが可能である。今までチャットやメール等に埋もれていた過去のマーケットに対する反応や、公開された財務データ、新発表の商品情報、リサーチャーのコメントなど、マーケットに関連するデータは多種多様である。それらの情報を、「〇〇に関連する情報を取得し、表にしてほしい」というプロンプト一つで、AIアシスタントが情報を取得・整形してくれる。顧客から「今日、公開された財務データを比較してみたい」とメールが来た場合、メールを読み取ったAIアシスタントが財務データを整理し、比較表をつけたメールをドラフトしてくれる。

さらに、セールスAIがパーソナルアシスタントとして各セールスと共に活動し、顧客の特性を把握していくことも可能だ。例えば、CRMのコンタクト履歴からコンタクト傾向を学習し、様々なニュースの中から、顧客の興味関心のある情報をピックアップして、スクリプトを作成しておく、などである。

競争力を高めるサイクル

Sales AIアシスタントは一例であるが、トレーディング分野におけるAIの活用は、進んでいる。AIを上手く活用していくキーワードは「トライ&エラー」と「データ」である。

Generative AIの開発においても、従来の開発のように、想定された結果が一度で受け取れないことも多く、「トライ&エラー」を繰り返していくこ
とになる。各ユースケースのPoCを成功・失敗だけで判断するのではなく、得られた知見を通して、継続的に改善し続けることがAIの提供価値最大化につながる。

また、「データ」が重要になる。AIがリーチできように、データ整備、メンテナンスすることはだけでなく、顧客接点のデジタル化などによる、新しいデータの取得・蓄積も重要になる。

そして、データ改善とトライ&エラーを繰り返すことが、競争力の源泉となり、他社との差別化につながる。

終わりに

昨今では、Digital Transformationの時代は終わり、Generative AIの時代だと考える人もいるかもしれないが、Generative AIの効果を最大化させるためにはDigital Transformationを通じたデータ整備、及びトライ&エラーが必要不可欠であり、これらを両輪で継続できるかが大きな差を生むことになる。

弊社としては、各社と共にAI時代の新たなトレーディングビジネスの姿を模索し、その実現に向けた一翼を担うことができれば幸いである。

※FSアーキテクトは、金融業界のトレンド、最新のIT情報、コンサルティングおよび貴重なユーザー事例を紹介するアクセンチュア日本発のビジネス季刊誌です。過去のFSアーキテクトはこちらをご覧ください。

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