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生成AIを始めとする新興テクノロジーは文字どおり日進月歩で進化を遂げ、世の中の動きはますます加速度を増している。VUCAの時代と言われて久しいが、将来の動向を予測することは困難を極める。
不確実性が増す事業環境下で耐え抜き、競争力を維持し続ける強い企業体質作りのために、旧来の業務プロセスを変革し、業務効率性の向上や価値創出を図ることは多くの金融機関にとって急務である。
本稿では、業務オペレーションの変革を進めるうえで、単なるコスト・ヘッドカウント削減に留まらないBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に焦点を当てて考察したい。
業務オペレーション成熟度の実態
大きな時代の変化に対応するために、弊社は企業全体の再創造(トータル・エンタープライズ・リインベンション)を提唱しており、デジタルコアの構築をドライバーとした成長の加速と共に、企業内におけるオペレーションの最適化が重要と考えている(図表1)。社会は絶えず変化し続け、事業環境の不確実性の高まりが加速している現代において、変革を一過性・単発で終わらせることなく、企業も変革し続ける必要がある。
業務変革・DXを社内で掲げながら、旧来の業務プロセス・オペレーションが残り続け、現場社員・代理店などの業務効率性の欠如、価値創出機会の喪失、顧客体験の毀損などを招いていないか、今後の激動の変化に耐え抜くために各社が改めて問い直す必要がある。競合他社に後れを取り、後々の致命傷になることは避けなければならない。時代遅れの業務プロセスは価値創造・収益向上の足かせになり、放置するとその複雑性は増すばかりである。弊社がグローバルで行ったアンケート調査(対象:12カ国、15業種の経営者1,700名)によると、最高レベルの業務オペレーション成熟度を実現している企業(オペレーション・リインベンター)は9%であり、18%の企業が成熟度の最下層に留まりオペレーションの最適化ができていない。オペレーション・リインベンターの企業は、高い営業利益率や、より早いイノベーション創出のスピードを実現していることが調査から判明している。見方を変えれば、業務オペレーションの最適化において多くの企業に伸びしろがあることを示唆している。
業務変革の難しさ
多くの金融機関はデジタルを前提とした業務変革を試みてきたが、思いのほか業務変革が進んでいない業務・領域があるのではないだろうか。業務を安定的に運営してきた現場担当者にとって、業務プロセスの変更は“負担”と捉えられることがある。ゆえに、現場担当者が業務変革に対して消極的なスタンスを取ることもあり、円滑に検討が進まないケースも多い。実際に、コンタクトセンターや事務センターの業務変革を進める際に、習熟した業務オペレーションを変更することによる現場の混乱を理由に、なかなか検討が進まなかったという話も耳にする。また、業務オペレーションを変えたのに、気付いたら現場レベルで業務オペレーションを元に戻していた、というケースもある。“やり慣れたやり方”の方が楽であり、易きに流れた結果であると考えられる。現場をコントロールしきれない“変えることの難しさ”があるように思う。
また、変化の壁を乗り越えてテクノロジー活用により業務効率化を図った場合でも、削減したはずの効果が実態として消失し、効果が刈り取れていないこともある(パーキンソンの法則:仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する)。せっかく業務を効率化して時間が浮いたとしても、浮いた時間が休憩時間になってしまう、残った仕事に対して時間をかけて遂行するなど、理由は様々である。実際に人員を削減する、他の業務の担当に割り振るなどしないと、意図したとおりの効率化は実現できない。
業務オペレーションの最適化に向けた解決策
業務変革は前述のような困難を伴う。また、オペレーションの最適化を自社ですべて実現しようとすると、AIをはじめとしたテクノロジーの活用や、そのための人財確保に加え、社内風土の改革(変化を厭う体質からの脱却)など、各種ハードルが立ちはだかり、貴重な社員の工数を多大に割く必要がある。本稿ではBPOを活用して業務ごと外部に委託したうえで進める業務変革の有用性につき提言したい。
業務の”変革”も含めたアウトソーシング
BPOと聞くと、単なる定常業務の外部委託・コスト削減・社員工数確保といった印象を持つかもしれないが、テクノロジーや業界・業務領域のベストプラクティスを熟知したアウトソーサーに業務ごと委託したうえで、アウトソーサー主体で業務変革を実現する手段もある。業務オペレーションを安定的に運営することは大前提とし、社内では利害関係が相まって推進しづらい業務の”変革”までアウトソーサーに委託するという考えである。自社で業務を“内から変える”より、一旦業務をアウトソーシングしたうえで変革を進めた方が円滑に進むこともあり、外部委託は有効な手段のひとつと考える。
自社で業務変革を進める場合、業務プロセスの変更に向けた検討やテクノロジー活用など、効果創出に先行してコストが発生するうえ、実際に進めてみないと想定どおりに投資が回収できるかわからないという不確実性を伴う。業務変革の規模が大きければ大きいほど投資額・不確実性は増し、社内における経営判断は難しくなる。一方、アウトソーシングの場合、業務オペレーション最適化による運用コストの将来的な削減効果を織り込んだプライシングで長期のアウトソーシング契約を締結することで、アウトソーサーに変革・効果創出をコミットさせることが可能となる(図表2)。業務を効率化して運用コストを下げない限りアウトソーサー側が赤字になるため、強い動機付けになる。では、実際にアウトソーシングを行う場合、業務はどのように変革されていくのだろうか。また、元々その業務に従事していた要員はどうすればいいのだろうか。
アウトソーシングにおける業務変革のアプローチ
RPAにより業務プロセスを自動化することで業務効率化を図った企業は多いと思うが、現行の業務プロセスを前提として部分的にRPAを適用しているケースも多く、局所的な省力化に留まっているケースも散見される。抜本的に業務を変革する場合、デジタル活用を前提として業務プロセスをゼロベースで考え直し、RPA・AIといった技術を適材適所で組み合わせて利用するアプローチを取る。社内だと既存業務が染みついているため、ゼロベースで考えることは難しいこともある。その点、アウトソーサーという第三者の目線で業務を俯瞰することにより、既存業務に囚われない変革を実現しやすい。
アウトソーサーによる第三者的な目線での徹底的な業務変革を実現したうえで、アウトソーシング期間満了後に業務を自社に戻せば、デジタル技術活用やBPR(ビジネス・プロセ
ス・リエンジニアリング)により”強化”された業務プロセス・運営・ノウハウが手に入る。
アウトソーシングにおける人財戦略
業務のアウトソーシングを検討する際、その業務に現在従事している要員をどのように再配置するのか、という課題に必ず直面する。最初に考えられるのは、リスキリングにより他部署や他業務に再配置することである。別の選択肢としては、アウトソーサーに出向してもらい、アウトソーサーと共に新たな業務を運営するということも考えられる。アウトソーシング後の業務運営が安定化するメリットがあるうえ、ベストプラクティスやテクノロジーに精通したアウトソーサーとの業務運営は本人の成長に向けた刺激となり、スキルアップの契機となる。アウトソーサー内で“武者修行”をしたうえで自社内に要員を戻すことで社内の人財を強化することにも繋がる。一方で、出向に伴う要員への慎重なケアは必須であり、本人の希望を確認しつつ納得感を醸成しながら進めることが肝要である。
最後に
社内の識者により練り上げられ、長年運用してきた業務プロセスを変えることは容易ではない。本社社員だけではなく営業課支社や代理店も関連する業務を変えるとなると、現場の反発や過渡期の混乱も含め、一時的な痛みを伴う場合もある。一方で、業務オペレーションの最適化を図り、業務の効率化・高度化を進めることは数年先の未来さえ予測が難しくなっている現在の世の中を生き抜くうえでは必須のアクションと考える。
弊社はコンサルティング・システム開発の経験・ケイパビリティを活かして、クライアントのビジネスに深くコミットしたBPOに注力していきたいと考えている。本稿が、業務変革に悩みを持つ金融機関の一助になれば幸いである。
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