金融サービスブログ    

銀行業界における国内ビジネスの経営環境は厳しさを増し、RPA等のNew Technologyを梃にしたオペレーション・システム改革は待ったなしの状態だと認識している。また、既存業務・店舗の在り方も含めた抜本的な構造改革の波が押し寄せている。一方で、成長エンジンとして位置付けられている海外ビジネスへは相応の投資を伴い、展開に必要なオペレーション・基幹系システムを整備し、戦線を拡大している。海外ビジネス展開はスピードが求められるため、オペレーション・基幹系システムについての検討期間は限られることが多く、結果としてグローバルの全体最適を意識したオペレーション・基幹系システムの構造とならず、結果として高コスト体質に悩まされるケースが散見される。効率的な海外展開に向けた、グローバルオペレーション・基幹系システムのあるべき構造、実現アプローチについて考察したい。

加速する銀行業界の海外ビジネスと対象顧客の変化

国内銀行における海外ビジネスの貢献度合いは日に日に高まっている。メガバンクであれば収益の半分を稼ぐ重要な柱の一つである。力を入れる背景には下記のような変化があると認識している。

・ 海外市場の成長 – 経済成長の取り込み(旺盛な海外の資金需要に対応)

・ 対象顧客の変化 – 日本企業から現地海外企業へのすそ野の拡大

・ 社会構造の変化 – デジタルシフトにより国籍を問わず、最適なサービスを顧客が選択することが可能

従来の銀行は、日本企業の海外進出に合わせる形で海外へ進出しており、海外の経済成長を日本企業が取り込む支援をすることで銀行自身のビジネスを拡大してきた。今後の更なる成長の為、日本企業だけではなく現地海外企業の顧客化に向けた取り組みへシフトするものと認識している。

日本流オペレーション・基幹系システムによる高コスト化

一方で、現在の海外オペレーション・システムは多くの場合、国内と同様の手続きを海外でも行うことを前提とし、そこに各国の商慣習等を加え、独自にオペレーション・システムを構築しているケースが多い。

コスト意識を持った金融機関では、基本は既存オペレーション・システムをできるだけ変えず、対応できるよう標準システムを定義することで、要件=コストの上振れを防ごうとする取り組みが始まっている。

しかし、結果的には、現地拠点の「必須要件」の言葉に負けて、独自要件を追加し、標準の原形を留めないオペレーション・システムになってしまうことが多いのではないだろうか。

標準オペレーション・システムを徹底する事は非常に難しい。多くの場合各行独自の基幹システムを構築しているからこそ、要求に併せてカスタマイズできてしまう。

法令要件か否かの判断、要件の投資対効果の判断ができず結果として要件をそのまま実装してしまう。これこそがオペレーション・システムコストを押し上げる大きな要因の1つとなる。

オペレーション・システムは上述のように複雑化し、オペレーション要員は固定化・システムはメンテナンスのコストのかかる構造となっていく。

海外先進行によるオペレーション・システム標準化アプローチ

これらの状況を回避するため、海外先進行は標準オペレーション・システムの方針を徹底している。

各国の現地要件の精査は厳しく行われ、既存の標準をベースにした事務遂行を強く求められる。

オペレーション・システムの集約を前提とした標準化の徹底を行っているのである。

各国の商慣習に準拠しながら、標準と固有を両立させることはオペーレション・システム共に設計の思想が必要となる。

これまでの銀行による海外進出の歴史を踏まえると日本企業顧客へのサービスレベル低下などの議論が発生するだろう。一方で各国の現地顧客への拡大を目指す銀行としては合理的な決断が迫られるだろう。

では、ビジネスの展開を支えるオペレーション・システムの構造はどうあるべきか。

グローバルビジネスを前提としたシステムアーキテクチャへ

これまでの海外系システムには、下記3種の要件が区分けなく実装されてきた(図表1)。

・ 銀行業務要件- グローバルで共通した銀行業務を行うための必須機能

・ 地域要件 – 地域・国で共通で求められる法的要件をカバーするための必須機能

・ 拠点要件 – サービス提供拠点におけるコスト低減や差別化となる機能

これに伴い、ある要件変更によるプログラム修正およびテストが膨大となり、結果としてコストが高くなっていた。また、オペレーションは拠点独自のものとなり、属人化してしまっていた。こういった課題を未然に防ぐためには、まずはある要件が前述の3種のどれに該当するか分類を明確化する必要がある。

これらを明確化したアーキテクチャを構築することで、要件変更に伴うプログラム修正およびテスト範囲を極小化でき、コスト低減が可能となる。

また、要件の分類を明確化するためには、要件を深く確認して、法的要件なのか、ただの要望なのか、要望だとする場合には、投資対効果はあるのかという検証が必要となり、どの領域の要件かによって意思決定のレベルを変えることができる(図表2)。

現実には、上記のように割り切れない要件が出てくる場合もあるが、これらの取り組みによりユーザ/システム双方に対してビジネス上の必要性やコストの観点を植え付けることができる。

テクノロジーの進展を前提としたオペレーティングモデルへ

海外先進行は既に国・支店単位でのオペレーションではなく、地域単位でのオペレーションを志向しセンターを構築している。さらには、システムとオペレーションセンターの一体運営を実現しているケースは多い(図表3)。そのように共通化できるポイントは、これまで述べてきた通り、要件の種類を分けたシステム構造とし、人手を排除したオペレーションを構築し、判断が必要な業務を絞りこみ、法的要件・テクノロジーの変化に強い構造にすることである。

オペレーション・基幹系システム構造の変革アプローチ

上述のようなオペレーション・基幹システムアーキテクチャに変革するためには、変革プログラムが必要となる(図表4)。

検討ステップとしては、「①どのようなオペレーション・システム構造を目指すか?」「②システム構造をどう変えるか?」「③どのようなステップで変革させるか?」となるが、重要となるのは② ③である。

「②システム構造をどう変えるか?」については、従来は自前主義でシステムを構築してきたが、基幹系パッケージの登場により、時間・最新アーキテクチャを買うという観点で選択肢が増えている。提供サービス・投資対効果を加味して選択肢として検討すべきであろう(組み合わせも含めて)。

次に、「③どのようなステップで変革させるか?」については、既存システムからの変革を前提にすると、変化にあたっては拠点別に抵抗が発生する。それを極小化するためには、オペレーション集約後に行うことも選択肢として考えられる。システム・オペレーションをバラバラに検討するのではなく一体で検討することが重要である。

おわりに

海外ビジネス展開においては、機動的に低コストで立上りができる体制を構築することが求められていると認識している。本稿がオペレーション・基幹システムの変革について考える一助となれば幸いである。