今日の保険業界では、テクノロジーの急速な進化やディスラプション、消費者志向のエコシステムを通じた連携の広まりといった流れを受け、イノベーションの重要性が益々高まっています。この新たなビジネス環境の中で、保険会社はオープンに情報交換をしながら、市場の最新動向を把握し、最先端の取り組みを互いに学び合うことを求められているのです。こうした背景の下、世界130カ国3300社以上の金融機関が参加するグローバル非営利組織Efmaとアクセンチュアによって共催されるInnovation in Insurance Awardsは、今年で4年目を迎えました[1]。

プログラムの大きな目的の1つは、保険商品・サービスに関する革新的アイデアを交換し、業界全体の発展に向けたけん引役となることです。急速な人口減と国内市場の縮小に直面する日本の保険会社にとって、この目的はとりわけ大きな意味を持つでしょう。今後、海外市場の知識・ノウハウやネットワークを拡大し、名だたるグローバル企業と競争を繰り広げながら成長を実現する必要があるからです。

テクノロジー革命と進化を遂げるビジネスモデル

イノベーションの重要性認識と取り組みの評価が求められる理由はそれだけではありません。保険業界は今、その根本的な存在意義を改めて考え直す時期に差し掛かっているのです。これから約30年以内にシンギュラリティ 、つまりAI(人工知能)の能力が人間を上回る時代がやって来ます。こうした時代の到来とともに訪れる破壊的変化は、保険という存在の意義や社会に果たす役割を大きく変えてしまう可能性があります。本質的に見れば、保険というのは偶発的な事故によって生じる損失に備えるためのリスク管理の仕組みです。しかしAIの高度化がさらに進み、より大規模のデータが収集されれば、「不測」の事態が予測できる可能性はますます高まるでしょう。さらに、テクノロジーの進歩により、「事故」が発生する確率も劇的に減少するはずです。

例えば自動運転車の普及により、自動車事故の可能性は限りなくゼロに近いレベルまで減少するはずです。同じように、AIやビッグデータの活用がさらに進めば、犯罪や自然災害の発生時期・場所をより正確に予測できるようになるでしょう。つまり多くの分野でリスクが劇的に減少し、保険という商品が(少なくとも今の形では)必要なくなる可能性があるのです。

このようなシナリオが現実化するとしても、それはまだ少し先のことです。しかしイノベーションがもたらす劇的な影響はすでに保険業界へ及んでおり、AIやビッグデータも商品やサービス、業務のあり方に根本的変化をもたらし始めています。例えば、数年前までは想像もできなかったようなビジネスモデルをベースに、破壊的影響をもたらす保険会社がすでにいくつか出現しています。ニューヨークを拠点とするインシュアテックLemonadeは、こうしたトレンドを象徴する存在といえるでしょう。同社はユーザーが支払う保険料の2割程度を手数料として受け取り、未請求分の保険料全てをチャリティに寄付するという斬新なビジネスモデルで業界に大きなインパクトを与えています[2]。

Lemonadeのような企業が保険会社の未来像を示しているのか、あるいは例外的存在となるのかは現時点で不明です。しかし、先進テクノロジーの活用と業務効率・顧客体験の向上(特に保険金支払いなど顧客接点となる分野)をさらに推進し、急速に変化するビジネス環境へ適応することが、全ての保険会社にとって急務となっているのは確かです。多くの保険会社はすでにこうした取り組みを始めています。例えば東京海上日動火災保険は、自動車保険の保険金を最短即日で支払うシステムを2020年にも導入する意向を明らかにしています[3]。

社会的課題の重要性

今後変革に取り組むにあたり、保険会社は1つ重要なポイントに留意する必要があります。それは最も重要な目的が、破壊的影響力を持つテクノロジーの導入自体ではなく、イノベーション推進の手段としての活用にあるという点です。Efmaとアクセンチュアが共催するInnovation in Insurance Awardsの結果は、その重要性を明確に示唆しています。2018年版のGlobal Innovator部門で東京海上日動火災保険が最高賞を受賞した大きな理由は、社会の変化に伴って生じる様々な課題への対応にイノベーションを活用するというアプローチにありました。働き方改革を支援する「テレワーク保険」や、同性間のパートナーを配偶者として保証対象に含める取り組みなど、選考結果に影響を及ぼした商品・取り組みとしてEfmaが挙げた4つのうちの3つは、こうした考え方をベースとしたものです[4]。

テクノロジーの進化がイノベーション創出に重要な役割を担うことは言うまでもありません。しかし、消費者にとって最も重要なのはイノベーションの革新性ではなく、商品の利便性がいかに向上されたか、あるいはその商品のコンセプトに自分がどれだけ共感できるかです。この点は、保険会社が今後イノベーションを推進する上で重要なポイントの1つとなるでしょう。

アワードがもたらす効果

2016年の創設以来、Innovation in Insurance Awardsで数々の賞を獲得してきた東京海上日動火災保険では、その効果がすでに現れています。特に欧米では評価の高い同アワードを受賞したことで、同社はグローバルブランドとしての知名度を高め、世界で最もイノベーティブな保険会社の1つとして地位を確立しました。社内でも先進的な保険会社という自社への認識が高まり、失敗を恐れずリスクをとってイノベーティブな発想や商品を生み出す雰囲気が培われつつあります。

シンギュラリティ時代の到来が刻々と迫り、消費者ニーズ・需要が大きく変化する中、イノベーション推進に向けた社内環境の整備が日本の保険会社にとって急務となっています。そのためには、国内外のベストプラクティスに対する知見を広めることが不可欠です。今年6月24日に予定される2019年版Innovation in Insurance Awardsの受賞企業発表は、その意味でも重要な機会となるでしょう。もちろん、ただ情報を収集するだけではなく、自らも応募することによって積極的に情報発信し、グローバルなイノベーターとしての地位を確立することが重要なことは言うまでもありません。


[1] See https://www.efma.com/innovationininsurance/
[2] See https://www.lemonade.com/faq#service
[3] https://asia.nikkei.com/Business/Business-deals/Same-day-insurance-payouts-to-debut-from-Tokio-Marine
[4] For full details see press release: https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/180627_01.pdf

ゲストブロガー牧野司

EFMAシニアアドバイザー、東京大学大学院非常勤講師、筑波大学大学院客員教授、フリーランサー

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