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2008年の金融危機以降、証券業界、特に市場部門のトレーディングビジネスは収益低下に苦しんできた。低金利の長期化や地政学リスクに伴う市場の不透明性に加え、各種規制対応による取引コスト高が主な原因とされている。

また、バイサイドの顧客のニーズも多様化しており、より適切なプライシングや差別化されたサービスが求められる中、セルサイドは競争優位性を保つためにトレーディングビジネスの変革を余儀なくされている。

そのさなかに訪れた新型コロナ危機の影響も踏まえ、トレーディングのニューノーマルとなるであろう将来像について本稿にてご紹介したい。

外部環境の変化

世界金融危機以降、金融機関の市場部門を取り巻く環境は変化し続けており、それらに対応するビジネスモデルの変革を余儀なくされている。まずは主な環境変化のドライバーについてみていきたい。

① 規制コスト

主な変化として、まず影響が大きかったのが金融危機以降に制定されたバーゼルIIIに代表されるトレーディング規制である。自己資本規制やトレーディング勘定の見直しが課されることにより、結果としてトレーディング資産拡大の制約となっている。トレーディング業務で以前のような収益性を見込むのは難しいとされ、ポートフォリオの見直しや、コスト削減施策が急務となった。

② 不確実性による収益の波

また、地政学リスクなどの不確実性の高まりを受けた金融市場の変動は、トレーディング収益を上げるチャンスでもある反面、市場に引きずられて業績が悪化する場合もあり安定しない。よってより安定的な収益を求め、フィーベースのビジネスへのシフトが見られる。

③ 顧客ニーズの高まり

前述のような規制コストや市場の変動の影響を受けているのはバイサイドの顧客も同様である。取引コストを下げることは当然求められるが、ここ数年は組み入れ資産の多様化や執行コストの透明性など、セルサイドにもその高いレベルが求められている。競争優位性を保つためにも、これらの顧客ニーズに応えるためのさらなる対応が必要とされる。

④ 新型コロナ対応などのBCP

直近新たな課題として挙がってきたのが、新型コロナ感染拡大防止対策などに代表される事業継続計画(BCP)である。これまでもBCP対策はされてきているものの、オフィス内の執務環境の整備や、バックアップセンターの設置など、いずれも社員が出社することが前提に作られている。今後は社員のケアも含めて、業務のレジリエンスを確保し、高めていく必要があると考える。

ビジネスモデルの変革

前述に代表されるような環境変化の中で、これまでも各社競争優位性を保つためのコスト削減や、新たなテクノロジーの活用などが進められてきた。しかしそれらの多くは短期的な足元の対応で、果たしてどこまでトレーディングビジネスの将来像を見据えた取り組みになっているだろうか。これまでにないスピードで進む変化の波にのまれないためにも、トレーディングのビジネスモデルを改めて見直す際のポイントとして、弊社の考えるトレーディングのニューノーマルを大きく4つの観点からご紹介したい(図表1)。

トレーディングのニューノーマル

① Endless Trading Floor(場所にとらわれないトレーディングフロアの形成)

トレーディング業務はオンサイトでしかできないというこれまでの固定概念は覆された。加えて、今後のリーディングカンパニーの自然災害リスクへの対応策には、社員のメンタルケア(出社への不安など)を考慮したリジリエントな組織作りが求められるであろう。そのために、暫定的なリモートでのトレーディング環境の整備にとどまらず、リモートを前提にした新たな働き方へのシフトや、将来を見据えた業務全体の変革を進めることを推奨したい。

ローカル・グローバル共に業務内容を見直し、定常的に全体の何%が各オフィスに出社する必要があるのかを見極めることで、それに伴う業務やオフィススペースの見直しはコスト削減にもつながる。また、リモート環境の構築は各トレーダーの住環境を考慮した対策も必要であり、トレーディングなどの高速処理やセキュリティが万全なインフラ整備が急務となる。さらに、これを機に紙ベースや押印が必要なワークフローを更新して、オンサイトへの依存度を軽減したうえで生産性向上につなげることも可能ではないだろうか。

加えて重要なのが、場所がオンサイト、リモートにかかわらず、以前と同様にリアルタイムのコミュニケーションや情報のやりとりが可能となるツールを整備することである。社内では各部署間のコミュニケーションが煩雑にならないよう使用するツールや方法を統一し、社外に関してはある程度顧客に合わせられる柔軟性が必要になるであろう。

② True client partnership(顧客の真のパートナーへ)

バイサイド顧客のニーズがさらに高まる中、差別化を図るため、顧客にとって単なる取引相手ではなく、パートナーとしての関係性を築ける相手になる必要がある。つまり、いかにこれまで以上に顧客のビジネスに寄り添い、ニーズを把握し、柔軟に対応することで顧客の信頼を得てビジネスを獲得できるか、ということである。

それを実現するために、顧客に合わせたコミュニケーションツールの選定やAPI を通した情報連携、取引コストを下げるための自動化、顧客の取引履歴データを活用したオファリングなど、ターゲットに応じたテクノロジー投資が必須となる。また、顧客ニーズはトレーディングの各ライフサイクルにおいて存在するため、社内のFront to Backの連携も重要となり、社内コミュニケーションの強化も不可欠である。これまで画一的になされてきた顧客対応も、顧客のニーズのデータ化や関連情報を分析することで、より顧客本位のサービス提供が可能となり、シェアの向上・パイの拡大につなげられると考える。

③ Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーションの推進)

これは前述のとおり、顧客のニーズに応えるためにも必要な手段であり、これまでもトレーディングにおいて進んできた自動化や、デジタル化の流れはさらに加速するであろう。中でも人工知能(AI) の幅広い活用が期待される(図表2)。すでに可能となっている取引自動執行の商品拡大、各種データ分析、オルタナティブデータの利活用など、その他にも多くの可能性が考えられる。例えば、顧客とのコミュニケーションから得た顧客情報をデータ分析基盤やCRMシステムへ連携・蓄積し、データ利活用によるサービスの最適化を行うことで、取引拡大に繋げることも考えられる。

一方で、AIの導入に力を入れつつも、既存のレガシーシステムやオペレーティングモデルが整備されていないがために、その効果を最大限享受できていない可能性もある。デジタルトランスフォーメーションと並行して見直しを続けたいところである。

④ Human + Machine(人とマシンとの融合)

この数年、トレーディングにおいてさらにデジタル化が進んだとしても、人(トレーダー)が引き続き主体であることは間違いないであろう。デジタル化によってもたらされる効果はあくまで一部作業の代替であり、トレーダーはこれらによってできた時間を、あるいは分析結果などのアウトプットを活用して、より高度なマーケットメークやリスク管理、顧客ニーズに合わせた新商品の開発などを引き続き担うと考える。いかに人とマシンを効果的に活用するかが差別化要因となり、新たなテクノロジーを十分に活用できるトレーディング人材の教育や確保がより重要になると考える。

おわりに

トレーディングビジネスの検討課題は、各社各様であると思われるが、外部環境の変化のスピードに合致し、整合性が取れた変革を進めない限り、現在の業容を継続・維持することが困難になると予想される。将来像に向けた検討に際し、弊社がもつグローバルでの検討方向性や実現モデル、さまざまな変革の論点や実行力をもって各金融機関に協力、貢献していきたい。

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