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量子コンピューターの概要と必要性

ビジネスにおけるデータ処理ニーズが一層高まっていくことに加え、ムーアの法則の終焉による従来のコンピューター(古典コンピューター)の性能向上の限界が近づいていることから、量子コンピューターを始めとする次世代コンピューターの開発は必至となっています。

量子コンピューターは、量子力学を象徴する「量子もつれ」「重ね合わせ」といった量子固有の性質を利用する、従来の2進数ベースとは全くことなる仕組みのコンピューターであり、真空管による第一世代から数え、第5世代のコンピューターとも言われます。

「スーパーコンピューターを越えるパフォーマンスを発揮する場合がある」とする量子超越性についての発表(Google社2019年)から期待度が高まり、2022年には量子もつれの研究者がノーベル物理学賞を受賞することででも注目を集めました。量子コンピューターの本格的な活用には未だ課題は多いものの実用化の目途が立ちつつある領域もあり、海外では実証実験に加え実務利用の検討も進むなど黎明期を脱しようとしています。各国で様々な方式によるムーンショット型の開発競争が激化する中、わが国としても国際競争力の維持(他国に後れを取らない)や成長機会の創出などを目的とした「量子未来ビジョン」が2022年に内閣府により策定されました[1]なお、興味深いことに、量子コンピューターは熱排出量が理論上0(スーパーコンピューターは原発一基分が必要)となっており、開発方式によっては環境にも優しい技術となりえます。

量子コンピュータ-は、汎用目的のゲート方式、いわゆる最適化問題に特化したアニーリング方式に区分されることがあります。ゲート方式にも超電導、イオントラップなど複数の方式があり、ノイズ・エラーに対応できるよう各国・各社が開発に凌ぎを削っています。量子コンピューターの特性を古典コンピューターで活かす疑似量子という方式も開発が進んでいます。

汎用型の量子コンピューターの開発にはまだ一定の年数を要するとされる一方、アニーリング方式は商用化され、高額なハードウェアを購入しなくともクラウド利用が可能になっています。

最適化が持たらす競争優位性

最適化問題とは、無数の組み合わせの中から制約条件を満たす最適なパターンを見つける問題であり、巡回セールスマン問題などが有名ですが、金融・保険ポートフォリオの最適化にも応用が可能です。

最適化問題が早く解けることについて、「現行のコンピューターでも最適化は出来ているのではないか?」という質問がよく聞かれますが、変数が多いと計算時間が実務に耐えられない、早い再/計算が競争優位につながる、ということが答えとなります。

Goldman Sachs社[2]では“In the financial markets, computing speed is a giant advantage” と謡っている他、海外金融機関・保険会社では、数十億円/年の効果創出に向かっているユースケースもあります。

アクセンチュアがスペイン大手金融グループのBBVA社と行った取り組んで例[3]では、「通貨の裁定取引」「信用リスク評価」「資産運用ポートフォリオの最適化」の3つのユースケースを対象に、量子コンピューターのフィージビリティを実施しました。裁定取引はその非常に短い取引期間を捉えること、信用リスク評価モデルは変数を大きく増やした場合のパフォーマンスが現実的でない、ポートフォリオ最適化も現行では計算に多大な時間を要する、といずれも現行の古典コンピューターでは対応が実務的に困難な問題です。

その他にアクセンチュアが欧米の大手保険会社と取り組んだ例では、保険ポートフォリオの最適化に取り組んだものが挙げられます。これは、保険リスクの引受・保有、地域、種目・商品、再保険の組み合わせという無数の組み合わせが存在し、実務に耐えうる時間での計算を行うことが困難な問題です。日本でも、疑似量子技術を用いて保険ポートフォリオの最適化に取り組んだ例はあるものの単種目に限定したものであり、取り上げた欧米社の例では全種目を対象としたものとなります。

ポートフォリオの最適化は、現行はコンピューターでは数日~数週間以上の日数を要し、一次算出結果に基づき別の試算を連綿と行っていくことは出来ませんが、量子技術により短時間で実行することで、これまで試算出来なかったより最適化なポートフォリオを算出することが期待できます。より最適なポートフォリオでは、リスク量が同程度であってもより高いリターン(またはリターン水準が同程度でより少ないリスク量)を期待できますし、ポートフォリオ構築時(新規・更改)のみならず巨大災害などイベント発生時においてもポートフォリオ変更についてのタイムリーな試算を行うことが可能となります。

損保ポートフォリオの組み合わせイメージ

Quantum Journeyへ

技術の発展、先行事例に鑑み、日本の保険会社も量子技術活用への旅、Quantum Journeyを始める時期に来ています。

量子コンピューター技術の更なる成熟を待たずに今始めることで、後れを取らずノウハウを蓄積し人材も呼び込めること、コモディティ化する前に先行者利益を得ることができること、そして量子コンピューターの成熟につれて更に大きなビジネスバリューを期待することが出来ます。

先行事例から得られた示唆として「量子アルゴリズムの選択や定式化が品質およびパフォーマンスに大きな影響」、「古典コンピューターと量子コンピューターとの適切な役割分担」、「適切なエコシステム・イノベーションパートナーとの連携」などが取り組みの難所として挙げられ、適切なパートナーの選択は取り組みを開始する上でも特に重要となります。

アクセンチュアはハードウェア(量子コンピューター自体)を開発していませんが、海外での導入実績が豊富でありソフトウェア・ソリューションのリーダーの1社であるためQuantum Journeyを強力にご支援することが可能です[4]。

効果的な取り組みのために、以下のSTEPを推奨します。

STEP1 量子コンピューターで何ができるかを学びそれがビジネスに適用される領域を考える

STEP2 量子技術活用のロードマップを構築する

STEP3 量子コンピューターとソフトウェアを評価し実証実験を開始する

STEP 4  量子人材の獲得および育成

量子コンピューターは、リスク管理が経営のコアであり多量のデータを使う保険会社こそ利用すべきテクノロジーであり、あらゆる産業・企業において量子技術が使用されるパラダイムシフトが近づいて来ている中、今が準備を始めるタイミングです 。

 



*1 (出典)内閣府 2022年4月 量子技術イノベーション戦略の戦略見直し検討WGより https://www8.cao.go.jp/cstp/ryoshigijutsu/ryoshi_gaiyo_print.pdf
*2 (出典)同社HPより  https://www.goldmansachs.com/careers/possibilities/quantum-computing/
*3 (出典)弊社HPより https://www.accenture.com/us-en/case-studies/technology/quantum-computing-in-financial-services
*4 (参照)TBR社HP https://tbri.com/special-reports/key-findings-quantum-computing-market-landscape/
弊社HP https://newsroom.accenture.jp/jp/news/release-20171220.htm

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