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世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(世界的大流行)宣言から早くも2年が経過した今、COVID-19と共存する生き方が求められており、保険業界もその例外ではありません。

本ブログでは、新型コロナウイルス感染症がもたらした影響を含めた日本の生命保険業界および損害保険業界のトレンドを、連載シリーズで読み解いていきたいと思います。シリーズ初回は日本の生命保険業界の概観、すなわち人口の高齢化、マクロ経済の停滞という長期的要素からリスクにさらされている日本の生命保険業界の全体像から考察します。さらに低金利環境の継続という3つ目の長期的要素については、生命保険商品のトレンド分析とともに次回のブログで考察します。また前述の3つの長期的要素に加えて、パンデミックが近年の日本における保険会社のビジネスモデルや収益力に影響を与えていることも見ていきます。

高齢化が進む日本と保険業界への影響

日本の人口の変化は生命保険業界にとって主要な課題で、同業界に変化をもたらす要因になっていると考えられます。日本の総人口は2010年の1億2800万人をピークとして減少し続けており、総人口に対する65歳以上の高齢者人口比率は2020年には28.6%[1]を占めています。さらに内閣府推計によると、日本の高齢化率は上昇を続け、65歳以上の高齢者人口は2036年に33.3%(3人に1人)に達し、2065年には38.4%すなわち総人口の2.6人に1人が65歳以上となることが予測されています。こうして日本は他国に類を見ない速度で、世界に先駆けて超高齢化社会に突入しているのです[2]

出典:内閣府「高齢化の推移と将来推計」データを基にアクセンチュア・リサーチ作成。2015年までは総務省「国勢調査」、2019年は総務省「人口推計」(同年10月1日確定値)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果。

人口の高齢化と並行して、生命保険業界ビジネスにとってもう一つ重要な要素である国内総生産(GDP)も成長リスクにさらされています。過去四半世紀における日本の国内総生産(GDP)は、2008年のリーマンショックによる影響を底として減少と停滞を繰り返しながらも2019年にかけて緩やかな上昇傾向にありましたが、パンデミックの影響を受け2020年は再び減少に転じました。対する保険普及率(GDPに対する保険料の割合)は、2008年頃を底として上昇し、生命保険および生損保合計ともに2012年に普及率のピークを迎え、それ以降は減少傾向に転じています。傾向として、このことは日本の生命保険市場は、総人口がピークを迎えた二年後にあたる2012年を最大として成熟レベルすなわち飽和状態となり、人口の減少とともに普及率も減少傾向にあったところに、新型コロナウイルス感染症流行による経済活動の抑制がさらなる追い打ちをかけたことを示唆しています。

出典:内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算(GDP統計)」(名目年度)およびスイス再保険会社「世界の保険」シリーズを基にアクセンチュア・リサーチ作成。スイス再保険会社「世界の保険」の調査においては、国内リスクの保険料収入のみを使用、傷害・医療保険は損害保険に分類されている。

日本の生命保険ビジネス:リスクにさらされている主導的立場?

歴史的にみて人口規模ならびに経済力と富は、日本が世界有数の生命保険市場となる主要な要素となりました。スイス再保険会社が毎年発行している「世界の保険」シリーズ[3]の各国ランキングによると、2007年の調査で日本は米国と英国に次いで世界第3位の生命保険市場規模(前年度の保険料収入・米ドル換算ベース)を有していました。翌2008年には英国を抜いて日本は世界第2位にまで成長し、それから10年間にわたり同順位を維持してきましたが、ついに2018年のランキングで初めて日本は中国に追い抜かれ、2019年に一旦第2位に戻るも再び2020年調査で第3位に降下するという転換期を迎えています。ランキングと並行するように、近年の日本の生命保険市場は、2018年度をピークとして保有契約の保険料収入(円建・年換算ベース)は年-1.1%の縮小傾向にあります。なお世界ランキングに関しては米ドル換算で各国の順位づけが行われているため、現在(2022年5月)の歴史的な円安の流れはさらなる追い打ちになることでしょう。

以上、今回のブログでは日本の生命保険業界に影響を与えている長期的要素の観点(人口の高齢化・マクロ経済の停滞)から考察しました。次回は、この転換期を迎えている日本の生命保険業界のトレンドについて、日本の低金利政策と生命保険ビジネスの関連性を含めてさらに掘り下げて考察したいと思います。

 

本稿執筆にご協力いただいたSchlieker, Andreさんに感謝を申し上げます。

 

[1]総務省「人口推計」2020年10月1日確定値を基にアクセンチュア・リサーチ算出

[2]経済産業省「超高齢化社会の課題を解決する国際会議」

[3]世界保険シリーズ(スイス再保険会社)World insurance series | Swiss Re