シュンペーターが「イノベーション(技術革新)が経済を変動させる」という理論を提唱したのは100年以上も前であり、イノベーションは過去に全く経験したことのないチャレンジではない。

長い歴史の中で日本企業はこれまでも、既存ビジネスを破壊・変革してきた経験がある。

ただ、多くの企業では過去の変革を経験した社員が減っているため、これまでうまくいっていた仕組みを効率的に運営することは出来るが、新たな仕組みを構築する経験は不足しており、起業家に近い意識の醸成が課題となっていると考えている。

どの業種でもデジタル技術を使った新たなビジネスモデルを展開する新規参入者が登場し、ゲームチェンジが起こっている。環境の変化に適用させ、売る物やサービスを変更していくことがゴーイング・コンサーン(企業)の必須条件である以上、これまでうまくいっていた仕組みを否定する痛みを乗り越え、自ら変化していくスピーディーな行動が求められている。

アジェンダ(課題)の設定

全てのイノベーションは、社会が抱えている「課題」の解決により実現されている。家賃が払えなかったブライアン・チェスキーが、イベントでホテルが取れない人達に自分の部屋を貸した経験から「民泊」をシステム化し、サーキュラーエコノミーを世界中に構築したAirbnbや同様のビジネスモデルで業界に風穴を開けるUber、Lyftなど数えればキリがない。

イノベーションを引き起こす為にアジェンダ(課題)設定は前提条件になるが、日本の企業を見るとテーマ設定は出来ていても、アジェンダ設定が曖昧になっているケースも散見される。

アジェンダ(課題)の設定なく、外部の知見・ソリューションを組み入れるプロセスを整備し、オープンイノベーションとしてしていないかも意識しなければならない。弊社もDXの支援に試行錯誤したが、今ではビジネスモデル主導型のDX実行(図表1)でないと、いくらデジタル活用を標榜しても得る果実がないと体感し、顧客視点に立ったアジェンダ設定を怠らないように心掛けている。

また、アジェンダ設定には環境変化を正確に捕まえていることが肝要となる。生損保に関する環境変化は数が多いが、例えば以下のようなものになるだろう。

  • 主導権の変化(顧客がビジネスの主導権を持つ)
  • 独居、二人住まいが50%を超える世帯構成となり、共同体が成立しなくなる
  • 将来のリスクが識別できるテクノロジーの出現
  • モノの消費からコトの消費へのニーズ変化
  • IoTを活用した事故・災害の未然検知及び被害の低減

過去の合理性のない当たり前を、自ら壊しに行くことも重要である。私はある不動産会社の経営の方が語った内容に感銘を受けた。「ビル賃貸もオンディマンドに、使った分だけ払ってもらうようにしないといけない。これまでのビル賃貸のように、土日や夜など65%は空気に貸している現状は合理性もないし、自らやらなくてもいずれ新規参入者に壊される。

課題を解くためのデジタル活用方法

デジタルテクノロジーは、顧客価値や自社の商品・サービスの差別化実現に重要な役割を果たすが、デジタルテクノロジーをどう使うかを先に考えるのではなく、自社の強みとデジタルテクノロジーを組み合わせれば、どのような顧客価値や差別化を実現できるかを検討することが重要だ。

デジタル活用時に留意する事として、デジタルが向いていないことを無理してデジタル化するのではなく、顧客視点も踏まえ人間に任せた方が良いところは残す、また効率化で出来た時間を利用し人間にしかできない新たな付加価値を追求する為のデジタル活用を行うなど、人がやるべきことの特定も肝要であると考える(図表2)。

既に国内の地銀では本格的なDXが始まっており、お客様の左脳+右脳(気持ち・ココロ)に働きかけ、「行ってよかった/やってよかった」、「また行きたい/やりたい」と思って頂けるようなサービスを、つまりは言い古された言葉となるが、モノではなく、体験を通じた信頼関係(コト)の提供を始めている。これはシェアリング・エコノミー時代やコモディティ化の到来により、構造的なデフレ圧力がかかることが想定される中、従来の生産(プロダクトアウト)ではなく付加価値の高い体験(カスタマーイン)がキーとなるデジタル時代のトレンドをしっかりと捕まえている。

このようなDXを推進する上で、未来を作る可能性はあるがマネタイズ可否が未知数のデジタルビジネスと現在の売り上げの主体であるレガシービジネスの投資バランスも悩ましい問題として立ちはだかる。弊社はデジタル活用を、中・長期的に推進するアプローチとして、「短期+中長期の2スピード(図表3)で推進」することを推奨している。

① フロントを高速で刷新することに投資の重点を移し、マーケットへ先手の策を打ちつつ人財育成の機会を作る

② バックの既存資産には手を入れずオフショア活用などでコスト削減を行いつつも新たな資産に段階的に置き替えていく

2スピードも企業により、優先順位の付け方や取り組み方は異なると考えるが、レガシーに対する対応方針を打ち出さないままでは、現場では混乱が起きるし、結局はこれまでうまくいっている仕組みの運営に戻る。慣れ親しんだうまくいっている仕組みを変えることに立ちはだかる障壁。その障壁はこれまでの多くの成功体験を盾に帰納的な、連続的な説明を持って変化を足踏みさせる。経営者はこの然るべき障壁を想定して、トップダウンの指針を出すべきである。

組織、人財、アーキテクチャの整備

弊社インテリジェント ソフトウェアエンジニアリング サービス統括である山根圭輔はクライアントに変革の必要性を説明する際に、コンウェイの法則を持ち出す。

「システムを設計する組織は、その構造をそっくりまねた構造の設計を生み出してしまう」

と言うものだ。つまり、今の組織体制のままでは、デジタルサービスを支える『仕組み』は作れない。ならば、逆コンウェイの法則として、組織から再設計する必要があると説いている。カスタマー・ジャーニーをベースにデリバリーをTribe(部族)とSquad(部隊)に分けた態勢とする新しい組織作り、AXA、 Allianzは数年前から全身全霊をかけ取り組んでいることである。つまり、彼らは経営レベルで必要性を認識し、既に日本も含めグローバルに組織変革を展開・実践している。

また、人財を整備する上では、仕組み(アーキテクチャ、プロセス)を0から設計するのではなく、弊社が提供するDSF(Digital Service Factory)などのノウハウが集結したアセットを活用することが近道であると考えている。デジタルサービスの時代に必要な人材は、単一のスキル保持者で無く、様々な専門性をアジャイルなチームの中で組み合わせて協働できる人材『群』となる。理想としては、デジタル人材スキルを、内製化することで、ベンダーロックインを回避し、コストの抑制や、サービス展開のスピード向上につなげる必要があるが、中には高度なスキルが必要で、短期的には内製化が難しい役割もある。

内製化に向けては綿密なプランが必要であるが、スピード感を持った対応が必要となるため、自社でイノベーションを推進する為に、スタートアップ出身者などの外部人材を採用して、人材の確保と新しいカルチャーの浸透を試行しているアリアンツなどの事例も参考になると考える。

まとめ

本稿で述べたDXで必要となる仕組み(組織、人材、アーキテクチャの整備)を実行するには相当なパッションが必要になると考える。

カルチャーを変えていくのは簡単ではない。会社のビジョンやミッションを明確にし、その変革への意志を全社で共有し進めていかなければいけない。さらに、それに基づいた組織を作り、組織や個人の評価も変革に合ったものに変える必要がある。

新しいことにチャレンジする障壁を低くして、アイデアや提案が出やすくするとともに、承認プロセスや基準も、迅速性を高め、チャレンジを許容できるものに変えなければならない。

非連続な変化の中でイノベーションは生まれるとシュンペーターは強調している。デジタルはこの非連続な変化を起こす可能性を高めている。また、業種の垣根がなくなり異業種からの参入を含めた競争環境は複雑性を増していく。変化に柔軟に対応する、従来にはなかったケイパビリティを企業が備え、競争優位性を確保することが重要である。

経済産業省がまとめたDXレポート(平成30年9月)の中で「2025年の崖」について言及している。この崖を乗り越え、将来の新たな仕組みを作る。この活動を弊社は誠心誠意支援できればと考えている。