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2018年、多くの大手証券会社では収益が悪化。このような状況を受け、各社では利益確保のためにコスト削減や業務効率化に取り組んでいる。

例えば、業務の見直しや技術の活用によりこれまで1時間かかっていた作業を30分で終わらせ2倍の作業をこなしたり、訪問件数を1日5件から10件へ増やしたりしてきた。しかし、収益の状況を見るとこうした効率化は限界を迎えつつあり、ビジネスモデルの転換が求められる。

具体的には、2019年はビジネスそのものにおけるサービスの“価値向上”が鍵となると考える。

本稿では、リテール、ホールセール顧客それぞれの観点から、サービスの “価値向上”を実現する施策およびソリューションについて述べていきたい。

 

2018年の振り返り

まずは、法規制や競合、技術の3つの観点から証券業界の2018年を振り返りたい。

法規制:労働基準法改正に向けた労働時間の削減や、顧客本位の徹底に向けた取組みが進展した。

競合:売買手数料無料の証券会社の出現(米国証券会社の売買手数料の更なる値下げ)、異業種の参入(通信アプリ大手の証券参入)や異業種とのコラボレーション、スタートアップの参入などがあった。

技術:AI、RPA、ロボアドなどデジタルの躍進が目立ち、業務効率化に向けた利用が定着化した。

先の決算発表を見ると、日本の多くの証券各社では利益は伸び悩んでいる。こうした状況を受けて、各社では利益確保のため、技術を活用し即効性の高いコスト削減や業務効率化に取り組んでいる。ただし、こうした効率化は限界を迎えつつあり、本質的なビジネスモデルの転換が求められる。

2019年に向けて

弊社では、このような「ビジネスモデルの転換」=「サービスの“価値向上”」と考えている。

証券業における顧客をリテール、ウェルスマネジメント、ホールセールに大別し、それぞれサービスの価値向上に向けて、どのような顧客体験が求められ、それに対しどういったサービスを展開していくべきかを考察したい。

リテール顧客

リテール顧客は、「売買手数料の低さなどのお得感」、「スマートフォンで完了する口座開設や数クリックで完了する売買など、手続きが簡便なお手軽感」、「単なる証券の売買ではなくテーマ別投資などのエンターテイメント性」などに価値を感じる傾向がある。

価値向上施策の例

デジタル×デザイン×エンターテイメント:資産形成層・若年層の裾野拡大を図るためには、投資に対する興味を喚起する仕掛けが重要である。投資の助言や勧誘を直接的な目的とせず、デジタルプラットフォーム上でデザインに富み、エンターテインメント性を感じるコンテンツによって興味を喚起する取組みが今後増えていくだろう。

ハイブリッド・アドバイス:弊社調査によれば、資産形成層・若年層の6割は証券会社からのアドバイスを求めている。採算面を考えると対面によるフルラインアップのサポートが難しいことから、弊社ではデジタルとヒューマンアドバイスを組み合わせた「ハイブリッド・アドバイス」によって、顧客がお手軽にアドバイスを受けるサービスが広がると考えている。

ウェルスマネジメント顧客

ウェルスマネジメント顧客は、「好況時も不況時も自分の資産を守ってくれる安心感」、「指示なしで自分のために迅速に情報を持ってきてくれる信頼感」、「非金融サービスも含めたパーソナライズされた特別感」などに価値を感じる傾向があるのではないか。

価値向上施策の例

商品・リサーチ部門のナレッジ活用(ハウスビュー等):海外金融機関では商品・リサーチ部門が調査・分析したハウスビューをもとにして、それぞれの顧客に合ったポートフォリオや商品選定を行っている。日本の証券会社においてもアナリストの調査・分析結果のアセットを活用して、組織横断で価値向上を図っていく動きが加速すると考えている。

ゴールベースプランニング:海外金融機関では「顧客が資産運用を通じて達成したい目標」に主眼を置いてゴールベースプランニングの取組みが進んでいる。顧客の中長期的なゴールを深く理解して、顧客のゴールに合ったポートフォリオのアドバイス・提案をフィーベースで行うことで、顧客に安心を感じてもらえるのではないか。

ホールセール顧客

ホールセール顧客は、「売上向上・コスト削減の達成感」、「少ない労力でサービスを利用できる利便性」、「資金調達・資産運用など財務面の堅牢化による安定感」などに価値を感じる傾向があるのではないか。

価値向上施策の例

部門協働でのテーラーメイド型プロダクト組成:ホールセール領域では、投資銀行部門と市場部門が協働し、資本市場向けにリスクヘッジソリューションを提供するサービスが誕生している。従来の事業会社の余資運用の一環としてのプレーンなプロダクトの売買から、その事業会社毎のビジネス上のリスク特性に応じたテーラーメイド型プロダクトの組成・販売へと舵を切る動きがある。

証券インフラ機能のサービス化:装置産業と言われる証券業界のシステムは、非常に多岐にわたる機能を有している。金融業界に参入したい企業にとってこの証券インフラを一から準備することは容易ではない。証券会社としてもこれらの企業を顧客または協業相手としてサービス(証券インフラ)を提供する選択肢もあるのではないか。

上記は施策の例であるが、共通して考えるべき要素はサービス提供に係る時間的な早さ、銘柄や商品の広さ、顧客に合っているかの正しさ、と考える。より早く、広く、顧客にとって正しいサービスが何かを考えることが価値向上の指針になるだろう。

”価値向上”のソリューション

次に、証券業界における対顧客向けの弊社ソリューションとして、リテール、ウェルスマネジメント、ホールセール等幅広い領域で活用できる「DXP(デジタル・エクスペリエンス・プラットフォーム)」を紹介したい。

DXPは、営業員に必要なデータや機能をワンプラットフォーム上に搭載した営業支援ツールである。各機能はマイクロサービス化され、既存資産を活用し自由に組み合わせることができる。ここでは、DXPの主要5機能を紹介する。

Advisor Platform:顧客情報をチャネル統合的に管理するデジタルプラットフォーム。直感的で使いやすいUI/UXを構築することで利活用を促進する。

Digital Advice:オンライン顧客向けの仮想アシスタントや単純な問い合わせに対するチャットボットによる回答等、アドバイス提供と低コストを両立したハイブリット・アドバイスにより、デジタル世代の取り込みを狙う。

DXP Analytics:営業員の折衝履歴や顧客情報、マーケットイベント等の情報を解析し、営業員が次に取るべき行動を提示する。

DXP Compliance:ルールベースの取引モニタリングに加え、「音声テキスト化」と「文書解析AI」を組み合わせ、顧客との電話履歴モニタリングを自動化。不正な取引や対話を検知し、支店へ即座に通知する。

DXP Operation:顧客からの申込・申請を電子化し、RPAを利用して既存システムへの入力自動化を実現する。

おわりに

サービスの価値向上の施策は、顧客によって価値が異なり、業務の効率化と比べ施策に多様性がある。そのため、証券各社の創意工夫が鍵となる。

2019年は弊社としても、ビジネスとテクノロジーの両面で顧客の創意工夫を実現し、価値向上に繋がる支援をしていきたい。