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世間でDXの重要性が語られてから数年が経ち、証券会社も組織やプロジェクトを立ち上げ、経営アジェンダとして取り組み続けている。

デジタル技術の活用により、新たなサービスの創出や業務効率化といった成果が各社出始めている。一方、成果は局所的に留まり、会社自体や社会の変革までは果たせていないと感じる経営者が多いのではないか。本稿では、日本の証券会社がDXにおいて置かれている現在地、及びより本質的なDXに発展するための方向性を考察する。

<1.証券業界におけるDXの現在地>

多くの企業がDXを経営の最重要アジェンダと位置付けてきた。証券業界も例に漏れず、各社とも多額の資金と人員を投入し、様々なプロジェクトや組織を立ち上げている。DXのプロジェクトは、以下3点に分類される。

➀顧客向けの新規サービス・チャネルの立上げ(DXのみならず、COVID-19の影響もあり)

➁新規商品開発(ブロックチェーンを活用したセキュリティトークン(ST)等)

➂従業員の業務効率化(RPAや生成AIの活用)

また各社ともデジタルの名を冠する組織を立ち上げて人員を集め、既存の部署と連携しながらDXを推進している。

これらの取組みは一定の成果を上げている一方、あくまで個別施策レベルの成果に留まり、会社全体のデジタル化が充分かという点には疑問が残る。弊社調査によると、日本の証券会社のデジタル化度合いは、グローバルの先進プレイヤーから大きく水を空けられているとの結果が出ている。結果のサマリは以下の通り(詳細は図表1)。

特に戦略・組織・人材面で乖離が大きい。

・戦略:2.8点(先進プレイヤー平均:4.0点)

・組織:2.5点(同:3.6点)

・業務:3.0点(同:3.6点)

・システム:2.8点(同:3.2点)

・人材:2.7点(同:3.5点)

※5点満点で評価。先進プレイヤーは、グローバル証券企業のスコア上位10%と定義

<2.中途半端なDXに留まる理由>

戦略・組織・人材において、日本の証券会社が抱える課題を掘り下げたい。

[戦略]

課題は、➀マネジメントのDXへの危機感・解像度がまだ低く、具体的な方向性が示せないこと、➁DX戦略を実行に移す推進力が伴わないこと、の2点が挙げられる。

1点目について、マネジメントはDXの必要性自体は認識しており、ビジネス・技術トレンドは把握されているものの、コンセプト以上の理解までは至っていないケースが多い。結果として「DXを推進すべし」との号令に留まり、実効性のある戦略に落とし込むことが困難である。DXに乗り遅れる企業は市場から脱落するという危機感を、マネジメント自身がより強く持つこと・発信していくことが肝要である。

2点目は、仮に戦略を描けても、実行に移す推進力が現場に不足していることが挙げられる。戦略に基づいてビジネスニーズを捉え、適用技術を的確に選択し、社内外のリソースを確保し、結果創出までやり切る力は、ほとんどの企業で不足している。原因は、現業主義でリソースをDXに振り切れていないこと、DX人材に求められる技術理解・専門性が多様化しており、従来のIT部門に求められたITジェネラリスト的人材では対応が難しいことが考えられる。

[組織]

課題は、DXが全社的な取組みに昇華出来ていないことだと考える。

DX専任部署を立ち上げたことは、DX推進のコアを持つ面・社内外にDX推進の本気度を示す意味から望ましい。しかし多くのケースで、DX部署が従来のIT部門に組み込まれるかそれ同等の位置関係に置かれ、ビジネス部門と距離があるだけでなく、個別の案件開発部署として運用されている状態が散見される。DXとはその名の通り、デジタル技術を活用した企業の抜本的変革を目指すものであり、技術やトップの戦略を踏まえた道筋を描き実行しなけ
ればならない。そのためにはDX部署が従来のIT部署と同じく開発部隊の役割だけを担うのではなく、ビジネス部門とより協働して変革を主導していく必要がある。

[人材]

戦略部分で述べた推進力不足に加え、デジタルITに通じた人材の不足・偏在が挙げられる。

技術知見やデジタルプロジェクト経験を持つ人材の絶対数が不足している上、IT関連のスキルと捉えられがちなため、そのような人材はIT部門・DX部署に偏在している。また、部署間のみならず、階層間の偏在も課題である。近年変化の兆しは見えてきたものの、依然としてマネジメント層にデジタルITに通じた人材が不足していると考える。

<3.DXを加速させるための要諦>

前項と同じく、戦略・組織・人材に分けて打ち手を考察したい。

[戦略]

マネジメント・現場それぞれがデジタルリテラシーを高めることが先決である。なかでも前者の方が急務であり、マネジメントは管轄する部門を問わず、須らくデジタルシャワーを浴び続ける必要がある。その上で、DXが与えるマグニチュードを理解し、具体的なDX方針を定義し、自らDX化を盛り立てていくというリーダーシップスタイルへの変容が求められる。

また現場には、自身の専門領域において誰よりも最新動向に通じ、必要あらばマネジメントに意見できるだけのオーナーシップと見識が求められる。

マネジメントと現場のどちらかに頼り切るのではなく、戦略の策定サイド(マネジメント)、実行サイド(現場)の双方が伴って初めて、実効性のあるDXが推進できる。

[組織]

DX専任部署のみならず、ビジネス部門・IT部門の関係性から見直す必要があると考える。現状、国内証券会社のDX推進体制は、ビジネス部門のニーズに起因してIT部門が実行する体制「部門独立型」(IT下請型)、もしくは経営層直下で進める体制「中央集権型」が取られていることが多い。前者は従来のIT体制と同じため運用しやすい一方、変革のスピード感やIT部門の主体性に欠ける。後者はスピード感を持って対応できる一方、一部の人材にスキル・ノウハウが偏りがちである。

そのため、今後はビジネス部門とIT部門が対等な立場でDXを推進する体制(連邦型)に移行していくことが望ましい(図表2)。

そのためには、ビジネス部門はよりDXスキルを身に付けること、そして何よりDXを自分事として捉え、戦略から結果を出しきるところまで責任を持つというマインドチェンジが求められる。またIT部門はデジタル技術により精通し、従来より能動的に、提案型の動きが必要となる。

また、サイロ化された組織や既存の規程といった一見アンタッチャブルに見える前提事項に捉われず、根本的な変革を志向することが肝要である。

[人材]

打ち手はDXスキルの獲得・伸長に集約される。本来的にはDX専任部署やIT部門・一部企画部署の社員のみがデジタル人材を目指すのではなく、フロントを含めた社員全員がデジタル人材化することが望ましい。そのためには現業(営業成績)のみならず、DXのアイディア創出や推進に携わることを積極的に評価する仕組みが必要ではないか。

また人材育成は息の長いテーマとなりがちなため、早急な改革を推し進めるためには、マネジメント層含む外部人材の登用も積極的に行うべきと考える。

<4.おわりに>

日本の証券業界におけるDXの取組みは道半ばであり、更なる進展のためには以下3点が必要であることを考察した。

➀戦略:マネジメント・現場の双方がDXに対する危機感を強め、デジタルリテラシーを高める。マネジメントはより具体的なDXの方向性を定義し、現場は推進力を担保する

➁組織:DX組織に更に資本(人的資本含む)を投下するとともに、ビジネス部門とIT部門が対等な立場でDXを推進する

➂人材:一部の人材だけでなく、全社員をデジタル人材化する。マネジメントクラスを含めた外部人材の取り込みも積極的に行う

本稿が各社におけるDXの取り組みを加速させるための一助となれば幸いである。

また弊社ではデジタル化の進展度合い(DX成熟度)を診断する取組みから、具体施策の推進まで豊富な知見・経験を有している。日本の証券業界を更に発展させるべく、ビジネスパートナーとしてご活用頂きたい。

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