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新型コロナウィルス(COVID-19)の流行など、消費者・社会システムは大きく変容しつつあり、もちろん金融業界もその例には漏れない。

変化の著しい時代において、金融機関は改めて、顧客・消費者・社会に向き合う経営のあり方を模索する必要がある。

企業が、自社のパーパス(存在意義)を核に据えて、顧客に向き合いながら、全社ファンクションをアジリティを持ちつつ変革することを弊社ではエクスペリエンス経営(BX; Business of Experience)と呼び、不確実な時代を生き残るための指針として提唱している。

本稿では、BXのコンセプトとともに、実現に向けた要諦についても考察する。

アップデートされる社会システム

新型コロナウィルス(COVID-19)の流行は、消費者・社会システム変化の時計の針を大きく進めた。以下に、主な変容について簡単に触れたい。

デジタル化の一層の加速

まず、チャネルやタッチポイントのデジタル化と、それによる顧客体験(CX;Customer Experience)向上が大きく進展した。加えて、企業がこれまでに推進してきた業務プロセスデジタル化(DX;Digital Transformation)も、エントリー業務の変化によって、より一層に加速することが想定される。一方、全ての企業がある意味で強制的にCX/DXに取組んだ結果として、似通った顧客タッチポイントが飽和する中では、それだけで自らを差別化できなくなりつつあるのもまた事実である。企業には次の一手が必要なのだ。

規制緩和の進展

これまで、場合によっては既得権益に守られていた領域においてもリモート・デジタル化に向けた規制緩和は進むものと考える。金融業界においても、保険と医療の領域での新たな機会に注視すべきであり、また、現物書類を前提とした業務プロセスを見直す時機とも言える。

業界・バリューチェーンの融合

デジタル化・規制緩和の進展により、異業種からの金融業参入、金融機関による異業種との連携は今後も続く。銀行業におけるAPIのオープン化、BaaS(Banking as a Service)提供、顧客接点を持つ企業タッチポイントに組み込まれる保険(Embedded Insurance)などがそれらの例になる。こうした動きは、金融機関が「機能」ではなく、「体験」「価値」を提供するエコシステムの一員になりつつあることを意味する。

求められる持続的成長

温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)やCOVID-19などの人類としての課題・危機に直面していること、従来のCX/DXを越える企業としての社会的意義問い直しの気運が高まっていることなどを受け、気候変動をはじめ「持続的な成長」を新たなフロンティアとした、国家主導で巨額の投資を伴う主導権争いが始まっている。これまで不経済であった領域に資本が動く以上、金融機関を含む全ての企業にとって重要な論点となる。

「変化」に向き合う企業経営

消費者・社会変化の著しい不確実な時代において、その変化に向き合い、勝ち残るために、企業が意識すべきポイントについて考察したい。

全ての企業において、顧客・消費者・社会のみがプロフィットの源泉である。業務・システムなどはアセットであると同時にコストでもある。ゆえに全てのビジネスは、必ず顧客起点でなくてはならない。

顧客に価値を提供するタッチポイント(セールス・サービスなど)の最も重要な役割は、実は、顧客・消費者・社会に最も近い存在として、その変化を捉えて、エクスペリエンスを実現するための企業変革のトリガーを引くことだと言うこともできるのではないか。

社会変化にあわせ自社が提供すべき価値を再定義した上で、顧客が抱える問題の解決に向けて全社レベルでの変革を推進することを、弊社ではエクスペリエンス経営(BX; Business of Experience)と呼び、タッチポイントにおけるCXの向上や業務プロセスデジタル化(DX)とは明確に区別している(図1)。

BXとは

BXとは、パーパス(存在意義)を核に据え、顧客・消費者・社会を起点としながら、顧客タッチポイントに留まらない全社ファンクションをアジリティを持ちながら変革することで、卓越した顧客体験を提供する、それにより「ひと」が抱える問題を解決することと定義する。

このような経営アプローチを採用する場合、企業はそのあり方を大きく変更しなければならない。特に金融機関においてのその差分は小さくないと推察する。

財務的成果のみならず、社会的貢献でも評価される企業ブランドを目指すためは、マーケティング・営業、商品・サービス、審査、データ、テクノロジー、人材など多岐にわたる領域で変革が求められる(図2)。

複合的な取組みをパーパス・顧客エクスペリエンスなどで背骨を通しつつ統合的に推進することができる人間は、企業においてはCEOただひとりである。CEO自らのリーダーシップとコミットメント、そして部門責任者に対する厚いサポートが極めて重要となる。

BX実現に向けた要諦

BXの実現に向けて、経営者は大きく5つの論点を押さえなければならない。

パーパス起点での戦略

自社のパーパスに改めて立ち戻り、戦略やビジネスモデルの再定義をすることが重要となる。消費者の8割は、「企業パーパス」はCXと同様に重要と答え、YZ世代においては、約半数が企業の社会的意義を重要と捉え、社会問題に対する言動によって企業のスイッチを検討したことがある。

*YZ世代:1980年ごろ以降に生まれた世代

真の顧客体験の実現(問題解決)

卓越したエクスペリエンスは、顧客が求めることを正しく理解した上で、価値創出することによって実現できる。顧客すら気付いていない実現したいこと、または顧客が無意識に諦めてしまっていること、これらに向き合うことを常に起点として、あらゆる企業ファンクションの横断的変革をリードできるリーダー・ガバナンスも見逃せない要素となる。

アジリティある業務・システム

常に変化する時代において、構想したビジネスの成否は顧客に問うより他に確認するすべはない。さまざまなビジネスアイディアはサービス化し、実証実験を通じて見極められる。顧客に受け入れられるサービスは直ちにスケールさせなければならい。この際に、重要となるのは「失敗」を識別し撤退する勇気(これにより、資源の再配賦が可能となる)と、迅速なローンチに耐えうる業務・システムを備えることである。レガシーな業務・システムと決別するため、既存の制約に囚われることなくゼロベースで新たな基幹系システムを構築し、デジタルビジネスを起ち上げる金融機関も登場している。そうした金融機関の多くは、レガシーと新しい業務・システムを並存させ、段階的シフトを進めることを目指す。

テクノロジー活用による変革余力創出とスケーラビリティ

顧客価値の高い、新商品・サービスがローンチされ顧客がそれを選択する、これにより企業投資は必然的にレガシーからシフトさせなければならない。変革余力創出のため、レガシーは、AIを含むさまざまなテクノロジー活用により、徹底的に効率化することが求められる。また、変化のスピードが激しい中では、新たに構築する業務・システムについても、小さく産んで大きく育てることが肝要となるため、クラウド活用の議論も欠かせない。銀行の勘定系がフルクラウド基盤に構築される時代である。

CEOの責任

エクスペリエンス経営は、顧客接点を担う部署に閉じる話では決してない。企業のパーパスや、全社レベルでの業務・システムのあり方を問う営みである。

日本では、まだまだマーケティングやエクスペリエンスは狭義に語られがちである。しかしながら、BXはCEOの仕事に他ならないこと、重ねて申し上げたい。

本稿にて提唱するBXの考え方が、国内金融機関各社が不確実な時代において自社のあり方を考える端緒となれば幸いである。

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