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テクノロジーの進歩が加速しIT社員の果たす役割が一層大きくなる一方、人口減少を背景として、IT社員の獲得は一層困難になってくる。
IT社員の真の役割を見つめ直し、真に果たすべきミッションに注力できる体制を早急に整える必要がある。様々なテクノロジーが現れては廃れていく中で、IT社員業務は肥大化する傾向にあり、業務の効率化や削減は容易ではない。一方でAIを始めとしたテクノロジーの発展で我々の生活や働き方は大きく変わろうとしている。AI活用時代のIT社員の真のミッションを定義した上で、デジタルや外部リソースの活用を前提とした体制やあり方を検討していく必要がある。
IT社員獲得は困難に
経済産業省のレポートによると、近い将来、日本のIT人材供給力は低下するとの見通しが示されている。(図表1参照)
比較的専門性が必要な職種であり、教育・学習・研鑽が必要である。その一方で、扱うテクノロジーの進歩が速く、必要なスキルの移り変わりが激しい。この傾向は近年より顕著であり、今後一層加速していくと思われる。IT社員については、引き続き自社で育成してく必要があるが、質・量両面で最新テクノロジーに追いついていけなくなる懸念がある。
IT社員が真にやるべきこととは
ChatGPT等の生成AIをはじめとしたAIの進歩により今後、我々の暮らしや働き方は大きく変わっていくと思われる。現在、ビジネスにおける各種意思決定においては、情報の収集や整理に多くの時間を費やしているが、これらの業務について、生成AIの活用により大きく効率化されていく。さらに、外国語や専門用語の翻訳においての活用も進展することで、社内に留まらず顧客との間も含む、情報格差が平準化されていく可能性がある。(図表2)
このような状況に直面する時、最新テクノロジーへの追随のために行ってきたIT社員リソースへの投資価値が相対的に低下する懸念がある。前述の事態に備え、IT社員が真にやるべきことを見極め、集中的に延ばしていく必要がある。AIがどんなに発展してもヒトが行わないとならないものとして最も重要なものは意思決定である。例えば、新サービスを提供するプロジェクトにおいて、市場への影響や売り上げ予測、実現するための手段・計画・コスト等の分析はいくらでもAIにやらせればよいが、そのプロジェクトを実施するかどうか、ヒトが判断し決定しなくてはならない。その意思決定は外部リソースではなく、自社員が顧客・あるいは自分の会社のためになるかどうかという視点で判断を下さなくてはならない。社内のITに関する各種提案や企画について、内容を理解し経営理念・方針と照らして、何を実行するか意思決定していくのが、注力すべきIT社員の真のミッションとなる。真のミッションに注力するために、現在のIT社員業務についてさらなる効率化が必要である。
デジタルとヒトの協業
AIをはじめとしたデジタルとヒトの協業のモデルは実際のビジネスプロセス内で既に出現しておりDHD(デジタル・ヒューマン・デジタル)モデルと呼ばれている。例えば、金融商品などの販売において、商品情報の収集等最初の顧客タッチポイントはデジタルが担い、その後ヒトが顧客に対してコンサルティングを行い、申し込みについてはデジタル上で顧客が好きな時間に好きな場所で行うことができる、というものである。これにより、ヒトはヒトにしかできない付加価値の追求を行うことが可能になる。現在、IT社員が主に担っているシステム開発においても、このモデルを適用することで、IT社員においても、ヒトにしかできない真のミッションに注力できる体制を整える。より具体的には、システム開発着手前の、現状の整理や問題の分析、そこからの仮説の洗い出しなどのシステム開発プロジェクトの企画・検討は、デジタルに任せたい。それらの中から、何に取り組むべきかの意思決定にIT社員は注力すべきである。プロジェクト決定後の要件検討においても、対応要件の候補案の検討やそれらのコスト見積もりはデジタルで行い、実際にどの要件を開発対象とするかはIT社員が意思決定する。これらの意思決定は非常に難しく困難である。現状はこれらの意思決定を、前述のシステム開発プロジェクトの企画・検討や後続のシステム実装・検証のプロジェクトマネジメント等も担いながら、対応しなくてはならない状況であり、高稼働が問題になっているケースもある。要件が決まった後のシステム実装やテストについて、開発のマネジメント含め可能な限りデジタル化していくことで、IT社員業務の負荷を軽減し、腰を据えて意思決定に注力できるようにする必要がある。IT社員業務のデジタル化の推進もIT社員であるため、IT社員としては、自分たちの業務を効率化しようとするとより一層自分たちの業務負荷が高くなるというジレンマがある。
完全デジタル化の準備としての外部リソースの活用
開発効率化のためのDevOpsの導入やシステム開発プロジェクトの企画・検討のためのAI活用やソースコード・テスト ケー作成のための生成AI導入等、デジタル化に向けてやることは多く、これら全てをIT社員のみで行うのは現実的ではない。仮にIT社員のみで導入しようとすると、導入業務に忙殺され、真にやるべきことへの注力が遅れる懸念がある。そのため、外部リソースを積極的に活用することで、各種デジタルの導入と並行して、IT社員が意思決定に注力できる体制を整える必要がある。これは前述のDHDモデルのD(デジタル)の部分について、導入が追いつくまで外部リソースで代替するという考え方でもある。DHDモデルにおいて、ヒトとデジタルの境目を明確に円滑な引継ぎを行うことが、活用のキモである。外部リソース部分をDHDモデルのデジタル部分とみなし、役割分担ややり取りのルールを整備することが、デジタル導入後の開発を円滑にすることに繋がる。ChatGPT等の活用で、デジタルとのやり取りは今後より容易に円滑になると思われるが、システムが出力したということを念頭に置いた、アウトプットのチェックやそれに対して適切なフィードバック・チューニングはアウトプットの品質を維持・向上させるために継続的に必要になると思われる。それらについては、引き続き一定の外部リソースを活用するという方法も考えられる。デジタルとヒトのやり取りをより円滑にするために、DHDのデジタル部分を、ITを専門とする外部リソースでラッピングするモデルである。
最後に
今後、テクノロジーの進歩は加速し、世の中の変化は激しくなり、先を見通すことはより困難になると思われる。その中でIT社員の行うべき意思決定は、一層難しくまた重要になる。一方で、丁寧な意思決定を心がけるあまり、意思決定に時間をかけすぎてしまうと、各種テクノロジーの導入が遅れ競争力を失うことになりかねない。迅速な意思決定で社内のITを強化していくためにも、IT社員の意思決定力を強化していかなくてはならない。そのためには、デジタルや外部リソースを徹底的に活用し、貴重なIT社員リソースを真のミッションに注力できる体制を一刻も早く整える必要がある。
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