金融サービスブログ    

国内銀行がおかれた経営環境は厳しさを増し、デジタル化による競争力の確保と抜本的なコスト改革は国内銀行にとって至上命題となりつつある。

また、テクノロジーは日々進歩を続けており、その適用如何によって、今後の国内銀行の命運は変わっていく。

重厚長大なレガシーシステムに対する変革が置き去りにされれば、将来にわたり、レガシーはレガシーであり続け、経営のかじ取りの足かせになるであろう。

本稿では、国内銀行の競争力の確保に向け、レガシーシステムの変革・最適化の手法である「モダナイゼーション」について考えていきたい。

厳しさを増す経営環境

日本の総人口は2008年をピークに減少の一途をたどっており、およそ40年後には生産年齢人口(15歳~64歳の人口)は2018年の60%程度まで減少すると予測されている。

また、金融緩和・低金利環境の長期化により、国内銀行は伝統的な預貸業務において金利差による収益を生みだすことが困難な状況にある。

かつて、国内銀行は積極的な店舗網の拡大により、収益を拡大することが可能であったが、この構図はすでに破綻しており、今後の見通しも厳しい。さらには、生産年齢人口に占めるデジタル世代の割合は増え続け、フィンテックをはじめとした金融機関の機能を代替するプレーヤーが台頭し始めている。

国内銀行は、この環境下において生き残りをかけた熾烈な戦いに勝たねばならない。そのためには、デジタル世代に対応したサービスの提供と収益の多様化、加えて、抜本的なコスト改革への対応が必要である。

モダナイゼーションによる投資余力の創出

国内銀行業界におけるコスト改革に関する取り組みに目を向けると、RPAを活用した業務の自動化によるコスト低減、店舗改廃によるコスト低減に向けた取り組みが活発になりつつある。

一方、旧来の重厚長大なレガシーシステムの見直しを含めたITコスト低減に関する取り組みは継続的に検討されているものの、十分とは言えない状況だろう。

筆者の経験では、国内銀行のITコストの8割前後は保守(基盤更改案件含む)・運用に投下されており、差別化に向けた戦略的な投資を十分に実行できている状況とはいいがたい。

前述した、熾烈な競争環境下において勝ち残るためには「デジタル化に向けた戦略的投資」は必要であり、その如何によっては今後の淘汰の方向性も変わる可能性がある。

しかしながら、国内銀行には「デジタル化に向けた戦略的投資」に対する投下可能な新たな原資を生み出す余力は限定されているのが実情だろう。

そこで、仮に保守・運用に投下されているITコストを低減し、「デジタル化に向けた戦略的投資」に振り向けることができるとしたらどうだろうか(図表1)。本稿では、これを実現するための「レガシーシステムのモダナイゼーション」について述べていきたい。

図表1 モダナイゼーションによる投資余力の創出 図表2 モダナイゼーションの手法

レガシーシステムのモダナイゼーションとは

弊社が提唱するレガシーシステムのモダナイゼーションとは、アプリケーションの稼働環境を古いプラットフォームから新しいプラットフォームへ移し替えて汎用性を高め、機能、技術、コストの視点からシステム全体の最適化を行うことを指す。

旧来から利用されているレガシーシステムは、度重なる改修により複雑化している状態にあることが多く、それらのシステム仕様や組織特有のアーキテクチャを熟知している人材も限定される。

結果、保守・運用費用の高止まり、変更に対する柔軟性・スピードの欠如等の様々な課題が生じている。

モダナイゼーションは、新たなプラットフォーム・手法を導入することで、これらの課題を解決することである。また、モダナイゼーションの領域は多岐にわたり(図表2)、現状の状況に応じた適切な手法を適用することが必要である。

基盤更改案件に対するモダナイゼーションの適用

現行システムのハードウェアのEOS(保守期限切れ)における基盤更改のケースを思い浮かべてほしい。このような案件の場合、「どうせ更改が必要なので」ということで、既存の要件に加えて、新規要件を追加することを前提として案件化されることが多い。

この場合、現行機能と新機能の線引きが難しく、対応難易度が上がることにより、新規追加に伴う現行機能への影響範囲の調査や新規機能・現行機能含めたリグレッション(無影響確認)に多くの工数・工期を要してしまうという結果につながることがある。

このようなケースに対し、「①目的に合わせて手法・計画を定義し実行する」、「②ツールを活用しテストの自動化・効率化を徹底する」が大きなポイントになると考えている。

前述した、「①目的に合わせて手法・計画を定義し実行する」とは、達成すべき目的である新規機能の追加と基盤更改を分けて考え、実行することである。

これにより、新規機能・現行機能の混在という状況を回避でき、基盤更改後の現行機能に対するリグレッション(無影響確認)には、過去に実行したテストスクリプト等の成果物を再利用できる条件が整う。

また、「②ツールを活用しテストの自動化・効率化を徹底する」とは、新しい技術を活用・適用することで過去の開発案件にて作成したテストの成果物(テストケース・テストスクリプト等)を資産化し、テスト実行そのものを自動化・効率化することである。

一般的には、基盤更改案件が完了すると、個別の機能改修(保守案件)が継続的に発生する。

仮に、基盤更改時にリグレッションのベースラインを構築できていれば、個別の機能改修時にも継続的に活用可能であり、テストの効率向上も期待できるであろう。

弊社は、Intelligent Testing Automation (以下、ITA)というツール群・アセット・ノウハウを保有しており、これを実現することが可能だ。日本国内ではまだ適用例は多くはないが、欧米諸国では、このITAを活用・適用することによりテスト工数・期間の低減を実現している。(図表3)

図表3 基盤更改案件に対するモダナイゼーションの適用

おわりに

本稿で取り上げたモダナイゼーションの適用のケースは、一例にすぎない。この他にも、以下のようなケースが考えられる。

レガシーシステムのマイクロサービス化

ビジネス・業務的な観点(変更の頻度、利用頻度の変化が激しい等)で、マイクロサービス化する範囲を特定した上で、それらをクラウド/コンテナ技術に利用し、かつ小さなアプリケーションに再構成する。これによりシステムの柔軟性・拡張性を向上する。

疑似メインフレーム環境の構築によるITコストの最適化

本番環境(メインフレーム)と同等の環境をクラウド・オープン環境に構築することで、テストデータの生成や現行機能の動作確認をオンデマンドで実行可能な環境を確保する。また、開発・テスト環境構築に伴うコストを最適化する。

モダナイゼーションは、決して一過性のものではなく継続的な取り組みが重要であり、全社的なシステム・アーキテクチャーの整備/ガバナンス態勢の構築と一体的に推進していく必要がある。

これらの取り組みに関して、弊社は多くの知見・経験を有しており、今後の国内銀行業界におけるモダナイゼーションの活性化と推進に貢献できれば幸いである。