金融サービスブログ    

ロボットやAI(人工知能)と働き方の未来に関するアクセンチュアのグローバル調査「Accenture Future Workforce Research 2018」は、日本の金融機関にとっても示唆となる内容です。

本ブログの第1回では、AIという存在に焦点を当て、効果的な活用のために『人間とAIの協働』という考え方を紹介しました。

第2回のブログでは、AIとの協働にはまず社員の不安を払底するコミュニケーションと意識改革が不可欠であることをお話ししました。そして社員はリスキルと自身のキャリアアップに取組み、AI活用に向けた業務の試行と配置転換を始める必要があります。

さてこれから日本の金融機関が取組みをはじめるにあたり、人とAIの協働についてどのような戦略ビジョンを打ち出すべきでしょうか?

AI活用に向けた包括的戦略ビジョン

まず最初のステップでは、AI活用を包括的に考えます。

海外と比べ、日本の金融機関の経営層は、AIを戦略的ツールというよりも業務ツールと捉える傾向があります。自動化やペーパレス化といった従来の業務を効率化させるための活用はその最たる例です。つまり、業務体制や経営レベルの意思決定の根本的変革というよりも、既存の枠組みにおける日常業務での利用に留まってしまっています。

AIをビジネスの「成長」や「進化」に活用することは、世界的に見てもまだ新しいものです。アクセンチュアのグローバル調査によると、AI導入の目的としてこの2つを挙げた金融機関は32%にとどまっており、多くの回答者は効率化やセキュリティ・コンプライアンス強化などを挙げています。海外、日本を問わず金融機関に一歩先を行く戦略ビジョンが求められています。

日本の金融機関(特に大手)がAI活用の場として限定的な業務や現場の補助的な役割とする背景には、これまでの成功体験があります。

全国規模で質の高いサービスを提供できる支店網、業務改善や現場での課題解消能力に長けた優秀な人材が、これまで競争力の源泉の一つになってきました。

しかしこの特性は、AI活用においては弱点となる可能性があります。「現場主義」や社員の優れた課題対応能力は、RPAなど現場レベルでの最適化が求められるケースでは大きなメリットとなるでしょう。しかしAIを人のサポート役として現場レベルの業務のみに用いるのであれば、変革の推進役や効果的戦略ツールとしてAIを活用する機会を逃してしまいます。

成長戦略の中でどうAIをどう活用するか、新たな枠組みとともに自社のビジネスにおけるAIの位置づけを考えることが、まずは求められるのです。

今求められるリーダーシップ

こうした課題を克服し、AI活用に向けた全組織レベルでの戦略ビジョンを策定したら、経営層によるビジョンの共有が重要です。。現場では長くても2-3年以内のROIが見込める施策が優先され、中長期的な変革や人材育成は進まないのが現状です。AIを変革推進力として活用するためには、これらの取り組みを可能にする組織改革が重要です。

こうした取り組みの実現は決して容易ではありません。アクセンチュアの調査によると、その重要な第一歩となるのは、経営層が自らの考えを明確にすることです(詳細については枠内を参照)。どのようなAI戦略を掲げるべきか?社員にどのような影響・機会がもたらされるのか?こうした重要なポイントについて経営リーダーが自らに問いかけて明確な答えを導き出し、社員と共有する。日本の金融機関は、このプロセスを経て初めて「人とAIの協働」実現への第一歩を踏み出すことができるのです。

AI活用の戦略において、優秀な人材と現場主義という本来の強みを発揮することができれば、日本の金融機関は海外機関よりも高い効果を上げられるでしょう。

AI活用に向けた自己診断質問リスト

金融機関の経営リーダーは今、人とAIの連携のあり方について再考し、競争力強化の手段として活用するため、現状を厳しく捉え、今後のビジョンを明確にすることが肝要です。下記は、経営層が自らに問いかけるべき質問のリストです:

“要員数”プランニングから“業務”プランニングへ

AIの特性を十分理解した上で、その活用を中核に据えて自社の新たな提供価値について明確に定義し直しているか?AIに任せる領域、AIと人の連携すべき領域、今後も人が担当すべき領域を区別できているか?理想的な人材やAIを待つのではなく、自社がどう変わるかを具体的に計画しているか?

AIとの協働に向けた新たなスキルの獲得

AI活用を通じた価値創出に必要な知識・スキル・考え方を明確に理解しているか?現時点で社員はこうした資質をどの程度備えているのか?新たなスキル獲得に向けて、リーダー育成、社員教育、人員獲得、カルチャー改革を組み合わせた総合的な施策を計画できているか?

AI活用に向けたアジャイルでの取り組み

既存業務の枠組み内での効率化・生産性向上ツールという役割にとどまらず、新たな市場・商品・サービス・顧客体験をもたらす革命的変化の推進要因としてAIのポテンシャルと進化を予測して機会を与えているか?AI活用を雇用創出につなげる取組みにできているか?人とAIの協働を一部の動きとせず、全方位で全社員・関係者を巻き込んで進めているか?短期的な成果だけを追うのではなく、中長期の変革に備えて試行的・機動的な取組みを始められているか?