金融機関における雇用・働き方の未来

今年初め、アクセンチュアはAI(人工知能)と働き方の未来に関するグローバル調査「Accenture Future Workforce Research」を発表しました。その内容は、日本の金融機関にとって大いに参考になるものです。全3回でお届けするブログ・シリーズの第1回では、その内容を踏まえながら、改めて考える人間とAIの関係、AIが金融機関にもたらす機会について解説していきたいと思います。

このグローバル調査は、役員1200名と従業員1万4000名以上を対象とし、生活・労働環境にAIがもたらす影響に関する期待や不安についてアンケートを行ったもので、金融機関からもそれぞれ約200名・2200名が参加しています。回答者の多くが、AIは雇用喪失よりも新たな仕事の創出につながり、創出された仕事はより戦略的で重要な価値があると考えるなど、AIがもたらす変化に対する印象は全体としてポジティブなものでした。しかしこの結果は、働き方の再考、高付加価値分野への労働力シフト、AIとの連携に向けたスキル獲得(リスキル)といった取り組みが、金融機関に求められていることの裏返しでもあります。

そして日本では特に、AI活用に向けた取り組みの重要性が高まりつつあります。背景の1つはマクロ経済上の要因、つまり労働力不足です。政府の推計によると、労働力の需給ギャップは2030年までに約900万人に達すると予測されています。業務効率の改善を図り、AIソリューション(さらにはロボティクス全体)の活用を一層進めることは、日本企業にとって緊要の課題です。

労働力不足により、人間とAIの協働は不可欠
労働力不足により、人間とAIの協働は不可欠
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ただ、AIを単なる人員不足の穴埋め役として扱うと潜在能力の活用が難しくなる点には留意しておく必要があります。インテリジェント・テクノロジーと人間の創造力を融合・共存させ、複雑な課題の克服や新製品・サービスの開発、新市場への参入や市場創出などにAIを進化させながらともに取り組むというアプローチ、つまり人間とAIの「協働」が求められます。

人間とAIの関係性の再考

こうしたアプローチのベースとなるのは、人とAIが異なった強みやスキルを持つ存在、いわば対等のパートナーであるという考え方です。それぞれが単独でタスクをこなすのではなく、連携・補完しあえば、より大きな価値を生み出すことが可能になります。

人間はプロジェクトのリードや改善・工夫、創造活動、状況判断、共感といった領域で優れた能力を持っています。一方、コンピュータ発明以降の歴史が証明するように、ロボットは大量のプロセス処理や反復作業、計算といった定型的な作業を、人をはるかに上回るスピードと正確さで行うことができます。ここで注目すべきなのは、両者の得意領域の間にある「中間領域」の存在です。人間とロボットがそれぞれの強みを発揮できる形で連携することが、単独でばらばらにタスクを行うよりも大きな価値につながる業務について理解しておく必要があります。

人とAIの「協働」が効果を発揮する領域の一例は、共感や創意工夫と反復作業が同時に求められるような業務です。例えば、カスタマーサービス業務で従業員とAIの連携に取り組んだある企業は、人が単独でサービスを提供した場合(68%)、あるいはAIが単独でサービスを提供した場合(60%)よりもはるかに高い、88%という顧客満足度を達成しました。

出典Accenture 「Technology Vision 2018
出典Accenture 「Technology Vision 2018」
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AIとの「協働」が国内金融機関にもたらす機会

人とAIの「協働」という概念は、金融機関にとりわけ相性の良い考え方と言えます。金融機関は労働集約型であるとともに、極めて質の高い顧客対応を要求される業種です。

日本では付加価値の高い業務への人員シフトや、人だけでは実現できない領域での顧客体験向上、収益拡大といった分野でAIが活用できると捉えられています。

日本の金融機関は、海外と比較すると2つの優れた特徴を備えています。その1つは、サービスの質に対する顧客の期待が非常に高く、現場が業務の改善や品質向上に強いこだわりを持っている点です。豊富な専門知識、スキルと自立したプロ意識を持つ現場の従業員が、蓄積されたデータを活用しながらAIを訓練すれば、改善を重ねて精度の高いAIへ進化させることが期待できます。また全国規模で質の高い支店網を展開し、大規模なデータ収集能力や高いレベルのサービス・カスタマイズ能力を備えていることは、進化したAIとの協働を同じ品質で広域運用することを可能にします。

では、国内金融機関の人材は今後AI活用がもたらす変化にどのように対応すべきなのでしょうか?また、人とAIの協働を実現しビジネス機会を活用するために、経営者はどのような戦略を打ち出すべきでしょうか?第2回と第3回の寄稿では、こうした点についてさらに見ていきます。