日本共済協会「共済と保険」2020年7・8月合併号 掲載記事のご紹介<全3回>

5.変化に対応し続ける成功の要諦

より不確実な未来においては変化を前提とした舵取りが求められますが、これに対し従来の考え方に基づき構築されたビジネスモデルが足枷になりかねません。手堅く構築されたオペレーション、複数年使い続けることを前提としたシステム、商品・営業・事務など顧客目線で見た場合に分断された組織体制等、これまでの事業運営に当たり最適化されたビジネスモデルが、これからも最適解であり続けるかは極めて不明瞭であると言わざるを得ません。

特に、これまでのビジネスを支えてきたシステムは肥大化・複雑化しており、変化への対応力を著しく阻害する要因となっています。一方、あらかじめ汎用的なシステム基盤を「プラットフォーム」として構築(API、マイクロサービス等のテクノロジーを活用)し、その上に必要な個別サービスを柔軟に構築していくアプローチが注目を集めています。これにより、変化する社会・顧客課題に対し迅速に価値提供が実現できるようになるだけでなく、変化に対応し続ける拡張性・柔軟性も担保することが可能となります。

ただし、こうしたプラットフォームの効果は、経営のあり方を見直さなければ十分に発揮することはありません。経営意思決定に当たり、社会・顧客課題の解決に応えるというビジネス主導の発想に加え、以下のようなテクノロジー主導の発想が求められることとなるでしょう。

●   いかにプラットフォームの拡張性・柔軟性を担保するか(予測困難なビジネスの変化を前提とした舵取りを是とする)

●    中長期・全社目線で投資判断できるか(プラットフォームは全社横断の基盤構築となるため、短期・単独案件のROI(投資収益率)とは単純比較が困難)

●   「システムは5~10年使うもの」という思考から脱却できるか(強化する・加えるだけでなく捨てるという判断)

今や経営において、ビジネスとテクノロジーは不可分一体である中、上記の発想は所謂エンタープライズアジャイルと呼ばれる取り組みにおいて必要であり、その実現可否はいかに経営・ガバナンスのあり方を変革できるかにかかっています。

6.創造的破壊に向けた取り組み~海外先進事例より

来る創造的破壊に対し先進的な保険会社は既に取り組みを進めています。ここでは代表的な3社の事例を概観していきます。

アクサは「Payer to Partner」をコンセプトに、保険にとどまらない新サービスやビジネスモデルを実現すべく、ヘルスケア・プラットフォームエコノミー・中小企業ビジネス支援・モビリティを優先領域に、2015年以降1,000億ユーロ以上のイノベーション投資を行っています。取り組みを加速すべく、チーフ・イノベーション・オフィサーが率いるAXA Nextを設立し、最新トレンドのキャッチアップを実現するAXA Labs、インシュアテック投資を担う AXA Venture Partners、新たなイノベーション企業創出を目指すKamet、エコシステムを通じて イ ノベ ー ショ ンを 強化 する AXA Partners、データやテクノロジーを活用し新たな保険ビジネスモデルを実現するAXA Global Parametricsといった布陣となっています。

保険会社からスタートした中国平安グループは、個人向け総合金融サービス分野で圧倒的なポジションを築くべく、2017年より「金融+テクノロジー」・「金融+エコシステム」を戦略の柱とした取組みを推進しており、過去10年間に70億ドル、今後10年間で150億ドルの投資を見込んでいます。

3つのコアテクノロジー(AI・クラウド・ブロックチェーン)と5つのエコシステム(金融・ヘルスケア・自動車・不動産・スマートシティ)を注力領域とし、顧客の生活分野に金融サービスを融解させることによる相乗効果を狙い、「1顧客・1アカウント・複数商品・ワンストップ」といったコンセプトを徹底していることが特徴です。

オールステートでは、保険コア領域においてデジタル企業への変革を進めており、中でも次の4つを優先変革テーマとしています。

●   営業・マーケティング力向上(代理店成熟度分析、顧客セグメンテーション高度化等)

●    オペレーション強化(顧客サービス改善に向けたデータサイエンス推進)

●   保険金請求デジタル化(リアルタイム支払、ドローン損害調査等)

●    利用ベース自動車保険(UBI)提供

また保険ビジネスを支える様々な専門会社を立上げており、例えば予測的アナリティクスとテレマティクスを主な事業とするArityは、コネクテッドカーに関する戦略的プラットフォームを構築することで、自社ビジネスが他の保険会社・公共機関・運送会社・一般消費者へ拡大することをサポートしています。

いずれの事例においても、顧客を中心に優先領域を特定しビジネス・システムの検討がなされていること、トライ&エラーを前提としたアジャイルアプローチが採用されていること、先進的なデジタル・テクノロジーが活用されていることといった共通項が見られ、こうした取り組みを通じて変化への対応力を身に付けていっていると言えるでしょう。

変化への対応力は一朝一夕で実現できるものではなく、まずは小さな取組みからでも試行していくことが重要であり、取組みの有無によって保険会社の10年後のビジネスモデルは埋め難い差となって表れるのではないでしょうか。来るべき創造的破壊の主体となるか受け手となるか、保険会社は大きな岐路に立っているのかもしれません。